出をしていた。
粉雪がちらついていて、二月って寒い季節なのだということを思い出す朝だった。

通っている歯医者さんとの付き合いがちょうど一年くらいになるというのもあって今年はその先生とスタッフさん(二人)にチョコレートを渡した。バレンタインです。
実は先生よりも受付のお姉さんにチョコレートをあげたかった。この院内で私のことを最初に名前で呼び始めたのがこのお姉さんだった。

先生にはそれなりにきちんとしたチョコレートをあげて、スタッフの二人にはまとめてお薬の形をした瓶入りのものを渡した。先生よりもお姉さんに、ではあるけどここの主人公は先生なのだ。

それが先週のことだったと思う。

今日行くとはじめチョコレートについての話題は出なかった。治療(治療?)が終わると思ってもいなかったことを聞かれた。

(先生)「書いてないの?」
(私)「何を?」

「執筆活動とかしてないの?」
「……?!……していない」
「趣味はないの、絵を描くとかギターを弾くとか」
「……日記を書く」
「日記が書けるなら小説も書ける。構成を考える点では同じだから。エッセイストにもなれる!」
「???」

「そういうささいなチャレンジで人生はがらっと変わる(このへん頭が混乱していてなんと言われたかよく覚えていない)」

むろん私は先生に小説家になりたいなんて言ったことはない。それでも本気で言っているのが不思議で、けれど悪い気はしなかった。小説家を目指すわけじゃないけど。


会計のときまた急に先生が話はじめた。

「でもけっこうセンスはあるほうかもしれない」
「……歯の?」
「違う」
「なんの?」
「チョコの」

おっ、チョコ、そうだあげたんだ。
私も少し忘れかかっていた。
そしてあれ、お眼鏡にかないはしたのか。
先生は歌が好きだからそれをふまえて選んだチョコレートだった。

先生いい人やなぁ。
そーーーだよーーーいい人だよ。
私が他にあげたチョコレートは、集団であげたこともあって「金出す以外なにもしてない」などと言われたりしていた。世知辛い世の中でしょう。そんな言い方ってないじゃん。私はもう来年この人にはチョコレートを渡さない。私の心は狭いのだ。

のでこの瞬間の先生はそういう意味では大人だった。マシュマロ返してくれなくてもありがとうと言わなくてもそれくらいのことでよかったのに。

世間にはチョコレートを抱えた人がたくさんいて、それを受けとる機会を無意識のうちにムゲにしている人もたくさんいるんだ。
エゴなんだろうけどそんなことを思った。以上。


三曲目が好き。