『ぼくは勉強ができない』
新しい表紙になって新刊と肩を並べている。今ごろになってどうしたの?

冒頭に「四半世紀後の秀美くん」という書き下ろしが収録されているという。それなら読んでみないとね。

……結論から言うと書き下ろしは要らなかったし解説も要らなかった。
個人的な感想としては、ですからね。
そもそも時田秀美に解説なんてもの似合わないよ。

ぼくは時田秀美がそこまで好きではない


嫌いじゃないけど魅力的だとも思わない。
どちらかといえばすかしやがってむかつくなあいつ! みたいな感情を抱いている。
だからこそ、すらすら立て板に水、といった調子で蝶々のように舞う(そうだこいつは蝶々のような男だ)秀美くんの姿よりは、例えば桃子さんとか山野舞子とかの思わぬ一撃にへこたれてしまう弱っちい秀美くんを見て、そうしたら彼のことがようやく愛しく思えてくる。

秀美くんという男はおしゃんてぃーだけどそう見えてなかなか繊細だしあくまでもどこまでも「青少年」である。
そういう部分も描かれているところが、私がこの話を好きな一因なのだろう。
時田秀美ははじめから全てを悟ったお利口さんではなく、一話ごとに様々な経験をつんで、彼なりの答えをそれぞれに見つけていく。
作者は時田秀美を可愛がりつつ、ある程度の距離および節度を彼に対して最後まで保ち続けて、決して彼を甘やかさない。(番外編でちょっと甘やかしてるけど)
ある意味真摯な物語だと思う。そんなところが好き。

だからやっぱり冒頭の書き下ろしなんて要らなかったんだ!
時田秀美にすがる山田詠美なんてだめだよ!

この本を初めて読んだとき私は十七歳で、図書室の棚の前で一気に読んでいて、そこにクラスの子が通りがかったことをなにとなく記憶している。クラスの誰かもはっきりと思い出せるのはまた別の理由があるんだけどそれは置いといて。

そのときから時田秀美に恋などしていなかった。でも物語にはしていたかも。

時差ぼけの話が好きなんだ。
これだけ他のどれとも雰囲気が異なっているんだけど、これがなければきっとこの一冊をこんなに好きにはなっていなかった。
こが多いですね。
泣くという言葉をひとことも用いずに、こんなに優しく泣かせてしまう話があるかい。電車のおばあちゃん最高だと思う。初めて読んだときも今も、いつだってじんわりと沁みて溢れていってしまう。

解説読み返したけど悪くはなかった(おい)。むしろ良かったけど賢者の愛のネタバレはだめ!
言うほどネタバレでもないけど、だめよ……

女性陣がみんなチャーミングなのも魅力的。それは主人公に秀美くんを据えているからこそでしょうね。
秀美は相手がどれだけキュートだろうがフェアに接しているし、彼女たちもまた秀美に媚びていないし負けてもいない。そういう関係は何だかかっこいいよ。


槙ようこ『愛してるぜベイベ★★』

槙さんが「男の子主人公にしたから女の子たくさん描ける!」というようなコメントしてたのが印象深い。結平は秀美くんとは真逆のタイプかもしれないですけどね。


九条キヨ『ZONE00』

主人公(右)のモデルが秀美くんなのだ
そしてこれでぼくは勉強ができないを知って秀美くんのイメージもこの彼です(多少は違うけど)


この物語の初出はちょうど私が生まれたころなのだと、今回新装版を読んで知った。つまり私だって四半世紀モノなのだ。ぞっとしないな。


明日朝早いのにこんなに書いてしまったし
解説なんて似合わない男なのに結局あれこれ述べてしまった。
時田秀美とはそういう奴なんだ。

賢者の愛も読んでみたいな。


冒頭の書き下ろしはやっぱり無くても良かったけど、好きな男の子に『ぼくは勉強ができない』をプレゼントするというエピソードはなんかははぁん、って思いました。洒落てんなって。



この物語が出題されたセンター試験、私も過去問としてトライしましたが玉砕でした。読んでるのにこんなに間違えることあるのか? と当時は困惑したものです。

ちなみにぼくは「眠れる分度器」の話だけは嫌い。






今日買った本