話題:今日見た夢




狐の棲みかだという森を歩いていた。

森の中を突き抜けるように真っ直ぐ伸びた道は薄暗く、人の顔を象った蓋のようなものがついた巨大な壺が地蔵のようにずらりと並んでいる。
一つ一つ苔むしたそれらは、道を行く人間を見張っているようで薄ら気持ち悪い。

隣を歩いている相方の手には何処で拾ったのか、その壺を小さくしたようなものを持っており、持たせてもらうと見た目の割りにやけに重く、危うく落としそうになってしまった。

『入ってるの何?』

歩く度に壺の中からはカラカラと軽い音が鳴っている。

『狐にあげるものだよ』

相方はそう云うだけだったが、何故か中身は人間の骨なのだと思った。
持たせてもらったそれが、祖父の骨壺を抱いた時の重さと似ている事を思い出したからだ。



暫く道を進んでいくと鳥居が現れ、其処から石畳の参道が先へと続いている。
この先に狐を祀った神社があり、運が良ければこの場所で狐火を見る事が出来るらしい。

いつの間にか辺りは夜のように暗くなっていたが、参道だけは何故か闇に浮かび上がって見え、不思議な気分になりつつも先へと進んだ。
だが、暫く進むと急に目の前が真っ暗になり、視界が急激に悪くなってきた。
目と鼻の先すら見えないほどの暗闇に焦ったが、狐に悪戯をされているだけだからと隣にぴったり着いていた相方が手を繋いでくれた。

暗くて分からないが足元の石畳はいつの間にか途切れており、砂利を踏んでいるような感触が足の裏に伝わる。
真っ直ぐ平坦に続いていた道は傾斜がつき、上っていくと軽く息が切れた。

一体何処を歩いているのだろうか…ふと不安が頭を過る。
さっきから無言でいるが、隣で手を繋いでいる相方は本当に相方なのだろうか。
繋いだ手が汗でぬるつき、荒くなった自身の呼吸音だけがやたら耳につく。



パキリ…と、枝を踏みつけたような乾いた音がした。

足を止めると目の前を白い狐のような生き物が駆け抜け、思わずその先に目をやると尻尾を揺らめかせたそれが此方をジッと見つめていた。

あれに着いていくよ。

狐が歩き出したと同時に隣の相方がそう云ったかと思うと、グイグイと力強く私の手を引っ張った。
足元が悪いので思うように歩けず四苦八苦していると、私を引き摺るように先へと進む。

狐は時折立ち止まり私達を眺めていたが、ある程度追い付くとすばしっこい足取りで斜面を移動していく。
手を引っ張られているとはいえ、足場の悪い斜面を歩き続けている所為か息が切れ、足がまともに動かなくなっていた。
疲れ果てて何度か立ち止まろうとしたが、その度に相方に引き摺るようにして引っ張られる為、後半は自棄気味に歩いていたような気がする。



そうして進んでいくと、急に目の前が開けた。
辺りは夕闇に沈んでいたが、幾らか明るく辺りの様子が伺えた。
いつの間にか鬱蒼とした木々が生える森の中を突き抜ける道に私達は立っており、明かりが煌々と灯る建物がやや離れた所に見える。

『もう大丈夫だから』

そう隣にいる相方が云う。
いつの間にか相方が手にしていた壺が無くなっており、何となくあの狐にあげたのだろうなと思った。