2024-5-8 19:27
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「もっくーん」
「何だよ。つーかその呼び方止めろ」
「どして?」
「なんか、」
言いかけて口ごもる。あら、めずらしい。
午後の喫茶店、マークしている人物は一向に店から出て行かない。
つまり見張りの私と一目連もそこに出ずっぱりなわけで、非常にめんどい。正直飽きてきた。
「……なんか、何?」
「いや。何でもねえ」
「ふぅん。あっやしー」
「どこがだよ」
「なんとなくね」
ぶくぶくぶく。アイスミルクティーのストローに息を吹き込むと、小さく泡が立った。
冷房が入っているから涼しいだけましか。考えを改めて、しゃんと座り直すと、目の前に座っている一目連が何やら眉間にしわを寄せていた。
「どしたのもっくん?」
「……」
「変なの」
「……いや、やっぱ言うか」
「は?」
何を。
そう問いかけようとした私を彼が無言で手招きするので、テーブルに乗り出して耳を傾ける。
切り出された彼の言葉は、
かりそめとしんじつとあなた
(あのさ、正直ちゃんと呼んで欲しいんだけど。名前。お前の口で呼ばれるだけで、何だか分かんねえけど嬉しくなるんだよ)
「……」
「分かったか?」
「それって」
「あ?」
「ううん……何でもないです」
2009.07.28//それってもしや物凄い好意の表れなんじゃないでせうか
お題は『LAUGHED』からお借りしました。
「マスター?」
「……っ」
床に直撃しそうになった。なったはずだった。
しかしそれは寸でのところで阻止された。それは助かる話。分かっている。分かってるけど。
「……かい、と」
「何ですか? っていうか怪我して」
「してない! してないから!!」
「なら良かったです」
にぱあ、と背後に花でも散らしてそうに笑う彼が、今、本当に間近にいる。
床に座り込んで私をぎゅうっと抱き締めている。吐息が耳に当たる。
「マスター」
「な、何」
「いいこいいこして下さい」
「う……」
「俺、マスターを守ったんですよ。褒めてくれますよね」
「う、ん」
確かに我が家の教育方針としては"褒めて伸ばす"だったけれど。
こんなに至近距離で、ボーカロイドと言え男の人の頭をなでるなんて。
「はーやーくー」
「わ、分かってるよっ」
ああ。もう。
私の動揺を何も感じてなさそうなカイトがちょっと憎らしい。
仕方なしに頭に手を伸ばすと更に距離が埋まった。
いいこいいこ。恥ずかしさから、なんかもう、「あほか!」と叫びたくなった。
ヲトメよ恋に溺れたのか
「あれ、マスター」
「なななに!?」
「心臓の音、いつもよりずっと早いです」
「うるさぁい!」
2009.07.28//(まあ、知っててやってるんですけどね)
お題は『LAUGHED』からお借りしました。
ないているのか、と尋ねられたとき、何についてなのかが分からなかった。だから私は鳴いていないよと言う。目の前に落ちた小鳥。
こんな学校にどうして鳥が巣をつくれたのかは知らないけれども、殺伐としたここで、私にとって、この鳥は唯一の希望だった。でももうこの子は息をしていない。だから鳴いてもいない。そう答えると日向くんは呆れたように言った。「お前の方だよ」。
私?
なんとなく頬に触れると、生ぬるい感触がして、ようやくそっちの泣いている、だと気づいた。あわてて私は制服の裾で顔をぬぐう。彼はまだこちらをじいっと見つめていた。「あのさ」。日向くんが言う。私は彼の目を見る。彼は言葉をつがずに、目の前の小鳥の死骸を持ち上げて「どこに埋めるんだ」と私に聞いた。私がやるから、と、涙をぬぐいながら言えば、更に呆れたようにため息をつかれた。ちょっとひどい。「いいんだよ」。緑の髪が、少し揺れる。
「お前はこんなことせず、笑ってろ」
んじゃ、君は僕と笑え
2009.07.28//汚れる必要なんてないさ
お題は『LAUGHED』からお借りしました。
ボカロ短編『暮れる青の世界』です。