身近な死

2月3日金曜日

流れ星の流れる冷たい晩に出逢った、小さな仔猫が、ひとつ大きく息を吸って、永い眠りにつきました。

名前は“待子(マチコ)”

真夜中にこっそり家を脱け出して、いつものように、お気に入りの場所で寒空の下、彼とぼんやりと星空を眺めていたのです。あまりにもその日は寒くて、二人で、その時には、まだ少し早いトナカイの鼻のように鼻を赤くして、彼の部屋に向かう途中でした。

真夜中、満天の星空に仔猫の鳴き声が響き渡っていて、鳴き声の元を辿ると、ビー玉のような大きくて丸い瞳をした小さな仔猫が茂みから、しなやかな身体を現したのです。胸がときめいた瞬間でした。

しかし、行きで連れてゆくことは出来なかったので、帰りに、もしも待っていたら、連れてゆくことにしました。そして、帰りになると待っていたのです。なんて可愛らしいこと、この上ないのかしら!そう思い、迷わずに家へ連れてゆきました。

我が家には、野良猫のような飼い猫が何匹も居て、一匹位、もはや、さほど変わらなかったので、そのまま飼うことにしたのです。


帰りに彼と二人で一つの“命”に名前を付けた。それが“待子(マチコ)”ずっと待っていたから、“待子”なのよ。そう言って、冷たくても柔らかい毛を撫でました。

またわたしを待っていてくれたのじゃないかしら。近頃ずっと具合が悪くて、わたしが実家に帰った次の日に、死んでしまうなんて。昨日の夜に家族に擦り寄る、小さな仔猫を、命を、きっと忘れないことでしょう。

彼をも共に“過去”の箱にしまおうと決めたあの晩、貴女が現れた。そして、彼は“過去”になって、貴女も“過去”になってしまったの。

なんて不思議な仔猫なのかしら。貴女が永い眠りにつく瞬間、大きく息を吸ったようだけれど、わたしには、小さな身体一杯に“過去”を吸い込んだように見えたわ。貴女も“過去”と共に行ってしまったのね。

そして置いて行かれたのではなく、わたしが貴女も、“過去”も、置いて行くのだわ。わたしが追い付くまで待っていてくれたのかしら。

貴女を入れた箱には、彼との品々もひとつ残らず入れました。愛がつまった宝物だから、貴女が持っていて欲しいのです。

最期まで待っていてくれて、迚嬉しかった。ビー玉のような瞳も、しなやかな尻尾も、人肌が好きだったことも、きっと忘れない。ありがとう。

わたしの愛する仔猫に。

この場を借りて、哀悼の意を表します。