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お休み続きであれですが…

今週も更新お休みさせてもらいます……来週こそは……九月の後半から今週にかけて仕事でわやわやしてまして……すみません。

アンソロ「水」Web版読了させてもらいました。前半は早くに読めていたんだけど後半読もうとしたら仕事が忙しい感じになって手つかずで。
どれも素敵で多種多彩な水ばかり。そういう世界の展開があるものかと目から鱗が落ちっぱなしでした。
その中の一滴に紛れ込ませてもらえてありがたいかぎりです。 

clew09.web.fc2.com

色々あるので是非に。

アンソロジー「水」感想〜二杯目 ※ネタバレあり

「再光」
夏の強い日差しで色々なものが鮮やかになる中で、幕一枚隔てた異界を覗きこんでいるような、でも実際はかつての友達が知らず、助けを求めるために手を伸ばした一日のわずかな時間。最初はアロハとハートのグラサンにしてやられましたが、溶けていくアイスや、花を散らす朝顔、橋の下の川、腕の白さ、そして最終的にはグラサンなど、場面場面に散りばめられた小道具たちの存在感が大きいなあと思いました。夏の強い日差しが二人にとって、背中を支える手になればと思います。

「水際で待つ」
夏休みを前にしての成長の話かと思ったらとんでもなかった…後半、子供の顔が呪怨のあの子で再生余裕でした。ただ本当に怖かったのは生きている人間の方。どこまでも利己的になれる。水際で待つというのは文字通りの水際であり、眠っていた達也の恐怖の淵であるのかなあと。そこで待っているのが目覚めたくない現実なのかは、いずれ目を覚ますかもしれない達也に任されるところなのでしょうが。記憶の水際から這い上がれるのか、それとも沈んだままなのか。

「イオ」
緻密な世界設定にこれでもかと練り込まれた理論がパズルのようにはめこまれていって、出来上がった絵はとても完成度の高いもの…のような。飛び出す言葉やイオの概念などが本当にそのまま出来るように見えて、すげえ、ってなった所で出てくる「つまらなくなっちゃってきたな」。人工知能の物語で問を解き尽くした時に出てくる言葉には不穏しか感じられませんが、イオの場合は思春期を経た成長のようでした。人のように踏むべき段階を踏んで、そして自身の問を作りに行く。イオによってママも、そしてイオ自身も前に進む姿がとても綺麗でした。面白かったです。

「血はめぐる、水もめぐる」
木の表現がこんなにも艶めかしく見えるものかと。花や葉、木肌にいたるまでが人の体の一部のように見えて、ただ自然物であるはずの木が本当の人のように思えました。だから中盤の浅茅の夢はかなり怖かったし、すわこのままかと思いましたが兄優しい。そこでさしこまれる花の柔らかさと匂いの甘さまでもが人以上に艶めかしく、表情の見えない木だからこそ余計に美しく見えるのかと思いました。二人の間に流れる水こそ兄弟の繋がりなのかなと。血は水より濃い、という言葉を思い出します。

「水分子アクアリウム」
ドワーフ・グラミーのキャラがいいなあ(笑)下町のおじさん風、人情に溢れて世の中の酸いも甘いも知っている。だからこそ、水槽を覗きこんだ女子高生の抱える不安がわかったのでしょうか。水は流れ流れて巡りゆくもの。今はこうして分離されている水でも、決して孤独ではないということ。それらは繋がっているということ、それが彼女に伝わったのかなと思いました。流れた涙の意味がわかる時、次は彼とお喋りが出来るのでしょうか。楽しみです。

「海遊の水天童子」
水天、子供の守り神だそうで、確かに人懐っこそう。でも海の生き物たちを優雅に眺める様は「守り神」という感じです。時には怖い面もある海ですが、こんな神様がいる穏やかな海の面もあるんだよと教えられているよう。夏場なら涼しげに、冬場ならむしろ暖かささえ感じられる優しい絵だなあと思いました。亀かわいいです、亀。泡を切って進む亀がかわいい。

「落涙」
まず機械の造形が好みでしたありがとうございます。ザ・ロボットって感じでいいですよね。人らしい姿も好きですが、見た目は全くの機械である中に色んな煩悶と機構と油を抱えている姿がたまりません。花壇に届かない水は羨望しても流れもしない機械の涙の代わりだったのでしょうか。将五の死は人間を知ろうとした結果なのか、知られまいとした将五自身によるものだったのか。「無駄遣いだ」の言葉に含まれていたものが怒りにも諦めのようにも見えました。煩悶するものの発露の代わりとして水やりがあるなら、いずれは花壇に届く日もあるのかなと思いつつ。

「純粋とアクアリウム」
sideAの「私」の告白が罪の内容であり、sideBがそれに対する罰なのかとか足りない頭で色々考えさせられる話でした。無色透明になって消えゆくことの罪。残念ながら「罪と罰」を読んだことがないので深い所での意味を探ることは出来ないのが歯がゆいですが、ソーネチカになれなかったということは罪を告白される相手になれなかったということでしょうか。 あるいは何かのために犠牲を払えなかったのか。罰のための舞台を作り上げ、そして最後には完成させたのだろう鈴傘の笑顔は確かに魅力的だろうと思います。

「ウォーターラブソングを聴かせて」
人の性格とか雰囲気って所作の表現一つでも随分語られるものなんだなあと。傘が「優しく傘立てに置かれた」という表現一つでもう魅力的。言葉の選び方がうまいなあと思いました。ミスターの紳士的な要素と相まって、冷たく、時々に硬い雨粒が暖かくて柔らかな印象で、お話全体を包み込んでいるようでした。水髪少女の髪の毛から金魚を移すくだりも綺麗で、晴れやかに笑う少女とそれを見守る人々の姿がとっても微笑ましい。ミスターの彼女の可愛さと合わせて、ものすごくほっこりした非日常に浸れました。


色んな水、ごちそうさまでした。

アンソロジー「水」感想〜一杯目 ※ネタバレあり

「クロッキー」
新太のクロッキーの様子がああ、懐かしいなあと思いました。自分が美術部だった所為もあるんでしょうが、鞄を開けた時の画材の匂いや、線を描く時の音を思い出しました。ただ自分はあんなに真面目に描いたことはなかったわ…。付き合い始めて一か月ほどの二人が淡々とこれまでの日常を続けているようで、それでも確かに変えたいと思う静かな起伏があるように思えました。川で一緒にびしょ濡れになった事で、新太は直に理子の事を感じ取れるようになったというか、「わかる」ようになったのかなと。

「バッカスの呪文」
まずマスターに惚れた。コーヒーの美味さも勿論でしょうがマスターの人徳もあると思うよこれ……な素敵な喫茶店です。飲み慣れないアイスコーヒーが「俺」の不安と期待がない交ぜになった象徴なんでしょうか。そこへ色んな感情と共に入るクリームやガムシロが少しずつ「俺」の気持ちを緩やかにしてくれる。最後の特製ドリンクの約束が「俺」の背中を押して、美味しく飲めたアイスコーヒーの甘さがきっと彼にとっては極上の応援なんだろうなあと思いました。

「沈み行く蒼は、天空の」
水彩画で何度も色を重ねながら描いているような絵のイメージでした。深い青色の中には色んな色がある。儚や繊月の心は常に揺れ動き、それが海のようでもあり涙のようでもあり。読み始めは深海でもかなり暗い、深い緑も混じったような水の色、光を透かしてもどこか鮮やかさを失った色の水たちでしたが、終盤では輝くような蒼に変えて想像することが出来ました。寄る辺を失った人魚たちの悲しみ、でも決して繋がりを断ったわけではないという母親のような優しい眼差しに満ちた話だと思います。あと繊月が不憫(笑)

雨音に包まれながら眠りにつきたい」
静かすぎると耳は勝手に音を拾ってくるので余計にうるさい事もありますが、雨の音はそういえば作業も睡眠も邪魔しませんね。優しく零れていく光の雨粒といいますか、水といえば青という安直な私のイメージを気持ちよく放り投げてくれました。黒色も淡く優しいです。ジャズ聞きたくなってくる。ピアノソロの。

「水月飛翔」
水と戯れ、軽やかに宙を舞う人物が印象的でした。きっちりとした服装に反しての遊びに満ちた表情が、水の動的で楽しげなイメージに繋がります。静謐だったり豪雨だったりと、人の気持ちをざわつかせるのが得意である一方、水は人を楽しませて豊かにさせてくれるものだよなあと思いました。

「崖」
全体に「僕」の不安と死に至る過程が詰め込まれていますが、多分、理解出来ない不安というわけではないんだよなと思いました。形として、あるいは漠然としたものとして一人一人が感じているだろう事、その一つの事象。救いの場所であったかもしれない海が酷薄に見え、そこを漂うのは「僕」の不安を押し込めた肉体の棺のようなイメージです。いつか「僕」は見つかるのか、あるいは見つけたものが棺を開けた時に何が溢れるのか、ちょっとパンドラの箱のようでもあるなと思いました。

「少女水槽」
アクアリウムの専門書を読んでいるような面白さもある一方(バーズアイ水槽とか知らなかったので調べてみました。綺麗)、ひたひたと足下から這い登ってくるような怖さ。お兄さんの怖さは狂気的な美しさと表裏一体ですが、「私」が抱える怖さもまたあるよなあと。そのバランスが物凄く綺麗に積み上げられていて、でも歪な美しさであるという齟齬がホラーな読み物としてとても心地よかったです。個人的に「透明骨格標本」は好きなので想像しやすかったです。硬骨と軟骨の染め分けとか、本当に綺麗ですよね。

「彼女は海の底」
透明度抜群のお話だと思いました。少年と少女の邂逅といったら何かが始まらずにはいられない。海を描いているようで空のような突き抜けた透明感、空を描いているようで海のような包み込む青色。水平線で空と海が混じるような、そんな感覚でした。その中を飛ぶ『バード』の形が可愛い。淡々と進む中には悲壮感というものはなく、こう、すっと風が渡っていくような清々しさがありました。彼女は解放されたのだろうかと思う一方で、何となく、自由を定義した時点でそれはもう自由じゃないのかなとか。本物の自由はなく、それぞれの「自由」が交換されたような。

「コップ一杯の水」
描写があまりにもリアルで、そして丁寧で、途中手首が痛くなりました……つたって落ちる血の温かさとか、自分から抜けていくものとか。人間誰しもあるのかないのか、あるとは思うんですがそういう瞬間の重みが凄い。そこから転じて花畑での老人との邂逅でゆっくりと気持ちが解けていくような感覚に包まれるのが、心地よかったです。でも、ここで老人がさしだした水に私は警戒心を抱いてしまいました。あの世の物を口にしてはいけないというあれですね。そして帰ってきた先での麦茶で、読んでいたこちらの心が洗われるようでした。おじいちゃん、遺影の中でピースしてそうなそんな朗らかさがあります。

「驟雨の路」
三島さんの心の声や葛藤が真に迫っていて、それがかわいい。雨に感じる憂鬱や、諦めて行くしかないかと腹をくくるところや、ギャル子に気にしている事を言われてこっそり傷つくところが、背伸びしない女の子の姿を見ているようでした。そこに差し出される傘と得体の知れない男子生徒とくればね!もう雨のべたつき感も、はねる髪も爽やかさで全部補填出来ますよ!素直になれなかったのは三島さんだけではなかったという共通点がまたかわいい。そして傘のセンスは彼のものなのか気になるところです(笑)
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