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覆面作家企画7 Cブロック感想

C01「歌うたいの賛歌」
チョコを食べる仕草が大変えろいなと思いましたかわいいです。根っこからファンタジー世界観かと思いきや最近目にする異世界転生もの。あの乱立ぶりは正直苦手だったんですが、このお話はその苦手意識を気持ちよく拭ってくれました。歌い手によって語り継がれていく、あるいはそれを忘れずに見つめ続けていくのは従者の役目でしょうか。どちらの視点であっても物悲しさの募る。ですが、それを悲しい別れのままにしない彼らのひたむきさというか、次にやってくる「光」を見つめる姿がなんとも優しいなあと思いました。

C02「真夜中の乙女はラプラスの夢を見るか」
独特なルビ振りが翻訳物のSF小説みたいで和みました。ちょっと迂遠だったり、世界観を表すような表現がちらちらと覗く感じなのに話のテンポがよくてどんどん読み進められました。「私」がラプラスになるのかなと思いましたが、これアリスがラプラスなのかな…。土台のしっかりした話なので、宇宙を舞台にしているからか浮遊感の漂う話であるにも関わらず密度の濃いお話でした。「私」がどうなったのか、アリスはどうなったのか。静かに幕が引かれるんですが、わずかに帯びた静電気がぴりっと痛みを残すような、そんな後味でした。

C03「きらきら星をさがして」
こういう子供が関わってくるお話に弱いんですよね…もう途中のお母さんの独白で涙腺が刺激されてされて。短文で吐露されていくお母さんの言葉が切り込むように迫ってくるんです。焦りと後悔とが怒濤の如く押し寄せてくればパニック状態にもなってしまうよね…そこへきて夫の態度が拍車をかけてね。でも、周りの人はちゃんと見ていて、助けてくれる。そこでお母さんも読み手もふっと救われるわけです。あとは子供のかわいさとひたむきさが全て拭いとってくれる。きらきら星はそんな子供自身かもしれないです。

C04「ブルームーン」
最初と最後で全然話の雰囲気が変わって、おおおお…。最初は天使の跳ねるような楽しさや、うきうきした感じが伝わってきて、こちらも楽しく読めていたんですが。地上の食べ物を食べてみたいとか、かわいいじゃないですか。そこで出会いでもあるのかなと期待するじゃないですか。着たかった服も着れて、と思っていたら怖いがな!!天使に焦がれる男の気持ちもわからないでもないですけど、この手の平の返しっぷりには驚いた。ブルームーンって凶兆でもあり吉兆でもあるとかで、とするのその二面性が男であり天使でありということですかね…いや驚いた…。

C05「狼たちの夜」
香港って混沌として、なにものにも寄らず、多種多様なものが寄り集まって、でもどこにも属せない物悲しさがあるような。色々あって好きなんですがそういうイメージ。香港返還のニュースも懐かしい。その中で出会う狼二匹、といったところでしょうか。ただ最初に、ご飯が美味しそうで美味しそうで。ロンが感じる枯れ草のような匂いに混じって温かな匂いがする、空間と感情のギャップがいい。枯れ草のような、という表現も独特で好きです。一度は交わった道だけど決して相容れない、最初にラルフが座った場所こそが二人の立ち位置そのものなのかなと。

C06「甘やかな墓標」
情景も心理も達筆だなあ…書き慣れている感じがすごい。それにしっかり乗せられて娘と一緒になって女たちの話を聞いたり、奥方への憧れを抱いたり、夜の廟に赴く恐怖と罪悪を感じたり。話は逸れますがこの娘はいい子なんだろうな。こんなに色んな感情の中でちゃんと考えようとするんだから。元に戻って、奥方の透明度のある美しさがどこか怪しげでねえ。女たちの噂話は本当かなと思ったら、実は…からの更に実は…の下りが一番怖かったですね!とにかく、すらすらと情景や感情が入り込んでくる表現力がどえらいなあと思いました。見習いたい。

C07「世の光」
主人公の想像や妄想の世界と、みいさんを始めとした個性的な面々との会話がうまく混ざりあってなんとも言えず面白かったです。マルちゃんが作るお菓子みたいな感じかなあ。色んな材料を混ぜて作るもの。でもマルちゃん自身、今の自分が何が作れるのかわからないで色んな世界観を眺めて歩いて拾って混ぜて。マルちゃんの感じること、見るもの、考えることがあっちこっちへ興味が飛んで、そのフットワークの軽さがいいなと。そんなマルちゃんを囲む面々のキャラの濃さ。風呂に入ってまったりしているような感覚でした。あとアップルパイ作ってほしい。

C08「私のヒカリ」
冒頭、光の描写が控えめだったことで色んな妄想がかきたてられました。そして学校のシーンは軽やかな空気感と女の子二人が会話しているだけで醸し出される華やかさ。かわいいんだよなあ、風景がきらきらしてる。だけど星が抱えるのはそんなきらきらしたものばかりじゃない。忙しい両親を思って言い出せないとかなんちゅう健気な…もっと!わがままを!子供なんだから!と外野は思うわけですが、それが出来ないからつらいんだよね。そこで光る「光」の存在。光に込められた両親の愛情が伝わる瞬間がいいなあ。あとオムライス食べたいです。

C09「光牙と土竜」
僧衣だ金髪だガスマスクだ美人だと、おいしい設定ばかりが盛り込まれてつまりおいしい。一つにまとまらなそうなのに、この話の中ではきれいにまとまるんですね…そしてかっこいいアクションを映えさせる一つにもなると。鳥居に有刺鉄線というのもいい。小物が効いてるってことかなあ。和製であるようでうっすらパンクっぽい。ハーレーとか。ですが真名を語らないところや土竜との戦闘、兄弟の形など、小物と共に絡んでくる話は渋さが滲みます。他にもキャラクターがいるようなので、それぞれで連作短編とか面白そうですよね…かっこいいの一言に尽きると思いました。

C10「ネズミと王女」
窖という文字の読みを覚えました。ともあれ、ネズミと王女の物語。初め、ネズミの駆け抜ける地下にディストピア的な要素を思ったんですが、飛び出た先はおそらくそれとは全く別の時代。途中、ネズミの独白でそんなことを言う部分もあったけど、もしかして本当にそういうことなんですかね…?新世界を求めて行った先には、ネズミと同じく単一の世界に閉じ込められた王女がいて。二人の出会いが本当の光を見出すきっかけになるのかなあと、その後の二人の道中を思うと微笑ましくなりました。
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