B01「君は光」
光のありかはあなたが決める。色んなことで迷ったり、振り回されたりしている時には身に染みる……たいていしょうもないことですが私の場合。光を失った「僕」にとっての光とは、目に見えないもので、それでも感じとることの出来るもの。カーテンを透かして届く陽光のような感じがしましたが、後半でその印象はがらっと変わりました。彼女の言葉が重い。しかも迷いなく言ってそうな雰囲気も漂うために、丸いと思っていた光の形が歪なものへ。だけど、「光のありかはあなたが決める」。決めた「僕」の光はこれから表されていくんだなと思いました。

B02「百八代魔王と勇者の関係性」
まるで歴史の授業を受けているようで、予習をしてからこの世界の物語を語ろうか、みたいな流れかと思ったら。歴史の授業ではあるけどレポートのような、そして登場人物の一人ではあるけど歴史の表にはあまり出てこなかった人のぼやきも加わってかわいい(笑)魔王と勇者の戦争の形が面白いなあと。儀礼的なんですが、そこでは立派に血も流れるわ負けるわで、戦争のあり方としてはそのままに。その後始末にルールを定めているからか妙に戦争の過酷さが和らぐ。魔王が光魔法を使え、術士が勇者を救ったように、想いの強さに垣根はないということが、この戦争にとっての光なのかなと。

B03「あたしは太陽」
あさちゃんの気持ちがわからないでもない時が私にもあったなと思いました。自分で言わないで言わせようとする。あ、これ今もあったわorzですが、二人の関係はそれだけに終わらない?読み終えて思ったのは太陽であれと望まれることの呪縛と、そう思うことの呪縛。あさちゃんは最初、前者だけなのかなと思っていたんですが、読み終わると、あれ?と。実はあさちゃんも太陽である自分やそう望む奈央に依存していたのかなあ。と思うと、タイトルの「あたしは太陽」も呪文のように聞こえてきました。

B04「ダンジョンマスター」
数ある……というか最近になってゲームを色々やり始めたくちなので大したこと言えませんが、RPGの経験値稼ぎ、ドロ狙いのダンジョンの舞台裏というのが面白かったです。ビーはさしずめ経営コンサルタントか。会社再建の姿を見ているようでしたがそこはファンタジー。多少の痛みも伴います。多少でもないか。人のよさそうな顔でにこにこと近づく姿には安心感を覚えますが、後半に向けてがらっと話の本当の方向性が示されるあたりでその笑顔にもぞっとする。そうなった時のダンジョンマスター、という響きが、魔物よりも人の方が怖いがなと思わせます。

B05「聖女とロザリオ」
偽物のロザリオ、という品物一つでこの物語の色が一変したなと思いました。それまではグロテスクな海の色の中にも、うごめいてひしめきあう何ものかの気配はありましたし、希望にすがろうとする人達の微かな光も見えていましたが、例のロザリオが登場した時にはっきりとこれが彼らの抱いた虚像なんだと思いました。毒々しいくらいに鮮烈だった風景の色が一気に錆びていく。冒頭と最後に出てきた「私」と学者の関係も気になるところ。書物と学者の名前が一緒だった……ということですよね?日誌の「私」とも同一人物ということだろうか。

B06「クビをキレ」
怨念がすげえな……(ほめてる)。セリーヌの気苦労が窺い知れる前半から、そのストレスの原因である魔女工房の実態から、そして。ストレスが展開される場面は現代のようでもあるんですが、マリーの登場で異界が口を開けたような。しかも開いた口はかわいいと異様の合いの子。でも魔女という名称を使っているからして、それまでストレスの下でひっそりしていたファンタジーが目を覚ましたように見えました。オーギュストの顛末を聞いてにやりと笑うセリーヌの顔が、この物語中で一番活き活きしているように見える(笑)ギロチンを連想させる受話器での幕引きも小気味よかったです。

B07「Luz del amor」
なんだ金持ちのボンボンがメイドさんを困らせているのかコラと思ったら事態はもっと深かった。光溢れるはずの朝の部屋は暗く、そしてこぼしたトマトジュース(笑)やっぱりこの小道具は外せない。ピジャヴィカにとって光は毒であり死そのもの。いっときは取り入れて光としての効力を失わせてしまおうと思ったものの、魅入られてしまったのはピジャヴィカの方……と聞いて、生き物はどんな生き物でもすべからく光を求めるものと思いました。例えそれが自分を蝕むものであっても。愛情もそれなのかなあ。ルスは文字通り「光」ですもんね。

B08「メガネ男子と虹の空」
なにこれ萌えるありがとうございます。ごちそうさまです。自分に自信のない副島さん、メガネ男子、と人物だけでも既においしいのに、虹やねぶたなど背景を彩るものたちがとても綺麗で華やか。虹の大きさから現実の話であるのに、どこかファンタジーっぽく、でもそれが話全体をかわいらしくしてくれているんだなあと思いました。そう、かわいい。スイーツのお店は勿論、本屋からはたまた工場のおじさんたちまで!淡い色合いで二人を包み込むような、穏やかに距離を詰める二人を見守るような優しい雰囲気が盛り沢山でした。

B09「秋風渡り、金木犀を濡らす」
なんかすっごい綺麗な話を拝んでいるような気がするじゃなくて、その通りでした。透明度抜群の物語ではないでしょうか。すれた心にはとても染みる。水墨画や淡い色合いの絵で物語が再生されていくんですよね。もしくは和紙によるちぎり絵か。一枚、一枚、丁寧に作られた絵物語を図書館で読んでいるような雰囲気。金風将軍と桂花公主の互いを思いあう姿が綺麗すぎて、直視できん。もうこの二人そのものが光でございます。読み手の汚れっぷりを洗い出してくれそうな洗浄力も持っていそう。

B10「龍呼舞」
これ、踊り子と神官の性別がわからない部分と、わかってからの部分の二つで面白い。最初は何とも思わずにすらすら読んでいたんですが、途中で神官の言い方にひっかかるものがあったので読み直し。なるほどーほんとだーと得心して読み進めていったら、そうやって性別をぼかして書いていた理由がわかってからの面白さで、この短い中に旨味をぎゅっと詰め込んでいただいたようなお得感でした。ミスリードと言っていいものなのか、手品の種明かしをしてもらったような楽しさ。踊り子視点での驚きにも近いかもしれません。

B11「祈跡満つ」
色々な色、というのが言葉を思い出しましたが、ここで表れる色は瑞々しくもあり、それが人の目を焼くようでもあり。豊かな色彩には寄る辺を失った旅人を嘲るような色もあり。商魂逞しいサラァとのあやとりは今を生きる世代との祈りの交流なんでしょうか。ただ一人で祈るのではなく…一人で行うそれは本当に「祈り」だったんだろうか。すがる行為だったものが本当の「祈り」の形を得たからこそ、それが顕れたのかなあ。だとしたら、それこそが彼らの神のような。旅人とサラァが共に歩きだした時、乾いた世界がふっと懐を広げたような、そんな優しさを感じました。