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指先(ラビ/過去ログ)

せっかく8/10過ぎていたので。載せておきます。



或いは、最初っからなんにもなかったのか。

(side:the right)

「痛いよ、ラビ」

諭すような響きがぼーっとしていた俺の頭を貫いた。あ、と思って視線を右へ滑らせば、少し困った顔をした彼女がいた。なんだかヤケにそれが幸せでにたっと頬が弛む。ああ俺って幸せ。そんなことを思っているともっかい彼女が口を開く。

「聞いてる? 指、痛いからさ。ちょっと緩めて?」

ん。指、指ね。うん。緩め――

「――って、悪ィ!」
「あ、いや離さなくてもいいの!」

がばっと慌てて繋いでいた手を離すと、彼女も慌てて声を大きくして言った。それで、もっかい。きゅうっと俺の手を握る。そんだけでもう。なんか、胸が、

一杯になった。

「……あーもう」
「う、え」
「もー、カワイすぎて駄目さ」
「えぇ?」
「どこんでも持ってきたいぐらい」
「そんな。あのね、人形じゃないんだから」

くすくす呆れ顔で笑う。彼女が笑う。俺もつられて軽く吹き出して笑った。

「私だってね、ホントはラビのこと連れて行きたいよ?」
「うん、」
「でもできないから。代わりに、此処に――」
「……心臓?」

握っていた俺の指を離して、彼女が胸に手を当て目を伏せた。ほんのりと幸せそうに顔を赤らめながら、そっと掌を当てている。そして、突然はっとしたように言いかけた言葉を飲み込んだ。

「あ、やっぱり秘密」
「えー? 『此処に』、なんなんさ」
「ええと、いつでも私の心のなかにはラビがいるよってことかな」
「……何か隠してるっしょ」
「隠してないよぉ。あ、ほら時計!」
「えー?」

指差された方向を見れば、もう針は出発の時刻を示していた。

「ほら、早く行かないと」
「ん」
「頑張ってね、私もあと二時間したら出発だから」
「ん、分かってるって。そっちも怪我なんてしないように気をつけるコト!」
「らじゃーですセンパイ。世の中の人を助けるために、私は頑張ってきますっ」

にっこりと笑って、もう一度彼女は俺の指と繋いだ。それがあんまり可愛かったものだから、俺は思わず抱き締めてキスしてやった。照れたように、彼女は目をぱちぱちさせていた。そうして、



(side:the wrong)

それは、誤解。
それは、虚偽。
それは、悪夢。
そうであって欲しいとひたすらに信じていた。

「……っ、嘘だ」

掠れた息で、応援要請のあった現場へと向かう。聞き間違い。誰かのでまかせ。もしくは、俺の夢。絶対にそうだと思っていたのに、一向にそれは解けることなく絡み付いてくる。

不安。

さっき、ついさっきのことだ。任務を片付けたばかりの俺に連絡が入った。近くでエクソシストが数名犠牲になっていると。だから、赴いてそこを手伝えと。

その、数名のなかに、彼女がいた。

必死に俺は彼女が無事でいることを信じようとした。そうでもしなきゃ今すぐに泣き出してしまいそうだったから。でも、それすらも出来ずにただ焦っている。
なんて、みっともないんだろう?こんなの彼女に知られたら、笑われるに決まっている。笑ってくれるに……決まってるよな?

そう俺は思っていた。
なのに、

なのに、
どうして。



「嘘、だろ……?」

辿り着いた先は見渡す限り何もない。砂埃が舞っているだけで、比喩でも形容でもなく、あるはずの建物や人間が存在していなかった。ぼろぼろと崩れた木の欠片やら、灰やらはあったけれど。本来存在しているはずのものが見えなかった。――俺の大好きな彼女も、全てを喰らい尽くしたらしい『敵』すらも。
もう、みんな何処かへと消えていってしまっていた。

『或いは、最初っからなんにもなかったのか?』

一瞬そんなことが頭に過ぎる。あるわけない、と首を振るって俺は捜す。もうこの世に存在していなさそうな彼女を捜す。
暫く歩くうちに、足元に光るものを見つけた。よく見なくてもそれが団服特有のボタンだということが分かる。どうか、あの子のじゃないようにと願いながら抓み上げた。

そっと。
離れていったあの指先を想いながら。



指先



ひっくり返したボタンの裏。
彼女と俺の名が仲良く刻まれて光っていた。




The end-2007.11.18

予告

近々、サイトにある話をゆめとそれ以外で分けようと思います。
それに伴って、古い話はある程度消してしまう予定です。多分、ディグレ連載あたりはばっさりいくかと。復活についても短篇は削る予定です。
急ですが御了承下さいm(__)m



そして私の近況ですが、夏休みなのにバイトばかりでなかなかパソコンに向かえていません…。
あとペルソナが楽しいです。まだボイドクエストクリアしたとこだけど。番長がお茶目クールでイイ(・∀・)!
ジャンルも色々考え直したいところ。北夢復活させるかもしれません。
そんな感じですが、未だにこのサイトを見て下さっている方がいることは本当に嬉しかったです。有難うございます。
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