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愛は食卓から




12月28日、この日は初デートと言っても過言ではない日だった。
約束の時間は13時。そして今はその三十分後。そう、遅刻だ。

『今どこ? from高野』
『ごめん、まだ電車。 from鴨川』
『いつ頃着きそう? from高野』
『謎。電車動かなくて。 from鴨川』
『35分着のやつかな?取り敢えず着いたら電話ちょうだい from高野』

揺れる電車に大きく吐いた溜め息が掻き消された。
そもそも何故こんな風になったのか、それは田舎の電車が信号待ちをすることや各駅に八分も停車する事を忘れていたからだ。すっかり都会(そして地下鉄)に馴染んでいた自分が恐ろしい…と自己陶酔している間に待ち合わせの駅に到着。現実は厳しかった。

「あ、もしもし、高野?ほんとごめんね、今どこにいる?」
「ううん、車ちょっと遠めに止めたから今そっちに向かってる」
「どこどこ?あ、発見」

小雨の中、電話をしながら歩いてくる高野を見つけて思わず口許が緩んだ。しかし、三十分も待たせた罪は忘れてはいけない。

「マジ、ごめん。こっち来る時の電車久しぶりで、その…目安でしか時間考えてなくて、まさかあんなに各駅停車するとは」
「ああ、いいよ。あたしも最近車ばかりで忘れてたけど、あの電車結構止まるよね」

三十分も寒い中待たせたのにも関わらず、笑顔で(しかも気にしてない様子で)こたえる高野にキュンと胸が鳴った。

更に、車に乗り込むと高野が冷えた紅茶とカフェオレを差し出しどっちがいい?と首を傾げ、こっち、と好物の紅茶を選ぶと、だと思った。ちょっと冷めたけどまだ少し温いからと苦笑しながら遠慮がちに渡す高野をみて更にキュン、いやギュンッときたのは他でもない私がいた。

「あーと、これ。タイヤキ、こっちも微妙に冷めてるけど来るとき買ったんだ」
「わあ、ありがとう!」

と笑顔で喜ぶ鴨川に、ここで事件発生。
私はこし餡は好物だが何故かその姉妹と言えるであろうつぶ餡が非常に苦手であり、食べれない。だがタイヤキと言えばつぶ餡が王道。こし餡のタイヤキはあまり食べたことがない。むしろ食べたことない。つまり、そう…このタイヤキの中は99.99%の確率でつぶ餡なのだ。が、高野が折角買ってきてくれたタイヤキ。断りにくい。相手が高野じゃなくとも人から頂いたものを断る行為は万国共通非常に苦手な行動に値する。しかし、断らねば最悪車内でゲロる可能性がある。それだけは避けたい。初デートでゲロりたくない。

「あ、の、高野。このタイヤキの中身って…」

つぶ餡だよ。そう答える高野に土下座する勢いで「ごめん!!つぶ餡苦手なんよ!!態々買ってきてくれたのに本当にごめん!!でも気持ちはすごく嬉しいありがとう!!」と言う言葉たちが喉奥でスタンバっていた。

が、

「チョコとカスタードだよ。鴨川、前につぶ餡嫌いだって言ってたから」

予想外すぎた。
高野はサラリと前に、と言うがそれは二年も三年も前の高校時代の時の頃だ。大袈裟かもしれないが私は好き嫌いが山のようにあり、一部の人間には拘りが強いやら最早芸術とまで言われるほどの偏食の持ち主。高校時代を過ごした三年間、高野の隣であれは嫌いこれは好きなど呆れるほど言ってきたと言うのに、その中の一つを忘れずに覚えていてくれたのだ。

「え、マジ…マジか。流石、高野。……いただきます」

小さなことだと思われるかもしれない、でも私にとっては一生忘れないであろう喜びを感じたときだった。
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