ぽたぽたと降り出した雨はやむ気配もなく、特急電車と共に揺れていた今日の午前九時。
事の始まりは四日前。
「コレ」
「…?」
バイト先で手に入れたハガキを差し出すと首を傾げる彼女。そりゃそうか。
「なに、コレ」
「バイト先で貰った。可愛いだろ。なんか期間限定で開いてる雑貨屋さん」
「へぇ、可愛い」
「だろ?それにホラ、ここ、お前のところ(地元)だし、付き合ってよ」
「えっ、うち?いいけど…いつ行くの?」
「あー…期間限定だから…げっ、二十四日までじゃん」
「うん」
「えーと、じゃあ今日学校終わって、あ、ダメだ。明日も…あー…明後日はバイトだし…明明後日は色彩検定だよな、あー…」
「じゃあ、明明後日の午前中に行こうよ」
彼女はこういう子だった。
アッという間に時間は過ぎて二十四日の今日。寝起き早々支度をし、特急電車に飛び乗った。そして彼女が待っている駅に無事到着。因みにこの日は午後から色彩検定(二級)だったが最早勉強など構うまい。何故なら、
「よっ。おめでとう、昨日で五ヶ月だった。覚えてる?まあ来月で半年記念日なんだけど。実感ねぇな、ははっ」
記念日だったからだ。昨日が。
「おはよ。ああ、昨日で五ヶ月か。うん、実感ないね」
記念日とかそう言う類に鈍感な彼女とそう言うのはちゃんと祝いたいあたし。噛み合わねぇ。
「じゃ、行くか」
それはさて置き、ハガキを頼りに二人で相合い傘をしながら雑貨屋さんへ。そしてすぐさま二階の手作りベーグルを食べるべく階段を駆け上がる私達。これが若さか。いいえ食欲ですスマン。
「でねー、アイツんところはもう三年と九ヶ月なんだって。凄いよな」
キャラメルとブルーベリーのベーグルを貪りながら他人の恋愛事情を語るのはなんとも美味。我ながら悪趣味自覚済み。
「三年か、凄いね」
「ねー。でも二回も浮気しちゃったんだって、彼氏サンが」
「えー」
「で、今回がその二回目ですげぇ悄げてた。最低だよな、あんな可愛い子が居るのに」
「本当にね」
「まあお前は一度くらい浮気して欲しいところだけど」
「する相手居ないし。お前こそそろそろ浮気はやめろよ」
なんだと。聞き捨てならん。
葡萄酢を啜る彼女を見つめると睨まれた。なんで。
「やめろよ、その顔」
「みんなに一途一途言ってる」
「みんな本気じゃないからだって。マジで捉えるのはお前くらいだよ…てか何この無限ループ。」
ベーグルを食べ終えて重い腰を上げれば部屋の片隅にあった二つの缶バッチを発見。しかもお手頃価格。
「お、可愛い」
「本当だ」
「どっち買うの?」
「ンー、じゃあコッチ」
「じゃ、あたしコッチ」
その缶バッチは即購入して筆箱に付けるくらい気には入ってる。それは彼女と過ごした時間を証明するもので。そして何より、彼女と居る時が一番楽しかった。久々だったからかそれともはたまた別の感情か。兎にも角にも我ながら吃驚。
「今のお前なら一生一緒にいれるよ」
「今の?」
「うん、まあ、みんな変わっていくからね。お前も例外なく。だから今のお前」
「そうだね…ふーん、今の、ね」
「はは、…ね、もし今別れてって言ったらどうする?」
「別れない」
「なんで」
「理由がないから」
「ロマンがないね」
この後は言うまでもなく色彩検定と言う名のボクサーにコテンパンにされました。