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私のニーズ



「あ……のさ、言いたい事があって…あー…高野がくれたあのプレゼントってさ、もしかして小枝とか小谷ちゃんにあげてたりする?」

「まさか。ないない」

「あ!うん!だよね!いやあ、なんか私が勝手に自惚れてただけで実はみんな持ってました〜!とかそういう展開も考えられなくもないっていうか、あーうん、そっか」

「はは、そもそも小枝には誕生日プレゼントあげてないし。とにかく鴨川だけだよ、あの本あげたの」

「お、おー…そっか、ありがと。……あの本、そのままそっくり高野に返したいって思ったよ」

「…ふ、喜んでもらえてよかった。あの本ね、鴨川にいいなあって。…で、このこと?言いたいことって」

「あ、いや、あのね、他にもあってですね…ハァア……ちょい待ち」

緊張を少しでも解すため、大きく深呼吸すると同時に私達を乗せた船がブォン、と重く汽笛を轟かせながら静かに港を離れた。

そんな素敵なシチュエーションに胸を高鳴らせ、

「……私ね、高野が、好きだよ。でもこの"好き"はもしかしたら友愛かもしれないし、恋愛かもしれない感じのやつでね…何て言うか、好きの度合いが高過ぎてね、もう意味わからんってか、私、高野が一番、人間のなかで好きだし一緒にいて落ち着くし楽しいし、もう一緒に居るだけでハッピーなわけで、ずうっと一緒にいたいわけよ」

最高にぐだぐだな告白をした。

「…うん」

「あ、でも、別に付き合いたいとかそういう訳じゃなくて…いや嘘、今日のこれだって下心たくさんあるし、寧ろ、出来れば、あわよくば付き合いたいとも思ってるし、だから無理も承知でお願いしたいんだけど、返事がほしい。今、すぐに、ほしい」

「え、今すぐ?」

ここでバカ女のバカそのイチ、緊張し過ぎて優先順位と相手の気持ちを考えられないの巻き。

「一ヶ月も告白のことばかり考えてて、もう今死にそうで、心臓やばくって、爆発しそう、なんです。おねがい」

急な告白と共に追い討ちをかけるように返事を急かされ狼狽える高野から出た言葉は、

「……分からないよ」

でしょうね。

「…そっか、いや、そうだよね、うん。…その、高野のこと困らせたくて言った訳じゃないから、あの……じゃあ、船を降りるまでに返事がもらえないようだったら、なかった事にするし、…うん」

「…分かった…」

バカ女のバカその二、相互にとって後味の悪い取引を出してくるの巻き。

ここから優雅な船旅(約50)が魔の沈黙船になるカウントダウンの始まりだった。

結果的に返事はもらえなかった。
当然と言えば当然の話だったが貪欲な私は少しだけ、少しだけ心のどこかで期待していた。「私も鴨川のことまだ好きだよ」と。

船を降りると高野は次第に目を合わせなくなっていったが無理矢理下らない話を持ち出し何とか沈黙を避けながら駅まで見送った。改札を通る高野に手を振り、もうこんな田舎の県なんか二度と戻って来るかバカ野郎と誓うと期待していた分だけ泣いた。ほんの少しの涙だった。

それから翌日、高野とは友情で終わった方がよかったんだと強制的に自己解決すれば、荒れていた心を掃除するように部屋の片付けに励んだ。一通り綺麗にすると一件のメールが届いていた。何気無く見てみると、

「ライン、じゃなかった…メール?Amazonでなんか頼んだっ……!?、??、!!」

もう無縁だと思っていた高野からだった。

「…『今から最低なこと言うけど、嫌だったら無視して。昨日のこと、なかったことにしないで』?なに、え、これは私の告白を受け取ってからお断りしようってか。なかった事にするのは可哀想だからってか。…なんだよくそ」

半分自棄、半分期待、どこまでたっても私は貪欲だと痛感した瞬間である。感情の昂りで震える指先に力を入れ、要件はなんだと素っ気ない返事を送信した。

そして数分後、長文と共に

『好きです、付き合ってください。』

高野は私の自棄な感情を根こそぎ奪っていった。
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I wish her a lot of happiness.




早朝から新幹線に乗り込み寝惚けた頭で当たって砕けろと呪文のように何度も繰り返していた11月のある土曜日のこと。その日はとある島の美術館へ行き、告白する約束をしていた日だった。無論、これは私のなかだけの(自分自身との)約束であり相手はただの美術館巡りだと思っていた筈。因みに告白相手は言わずも、高野だ。

待ち合わせは9時頃だったが私が新幹線に乗り遅れて10時半頃に。この時ばかりは自分の計画性の無さを悔やんだ。ファックミー。

着いた頃には長時間座ってた所為で尻の感覚が麻痺し、アレ?これお尻あるよね?えぐられた?えぐられたのこれ?と意味のわからない疲労と緊張がミックスし興奮状態。高野から事前に着いたら電話してというメールがあったので電話を掛けるも、

「あ、もしも、高野?あは、高野が居ない!ふは、どこ!どこ!どこにおるん!」

「……もしもし、駅の出た所、バス停の所。鴨川こそどこ?」

見つからない上に笑い(興奮状態)が止まらない。多分ここでドン引きされた。
改札を出て駅前のバス停へ目を向けたらそこには高野らしき人物が。

「あ、あ!多分発見した!あの白いのねー!はいはーい!」

「ん?うん。分かった。」

この時、ブンブンと大きく手を振りながら迫ってくる同級生を彼女がどういう心境で眺めていたのかは分からない。

「やーもう本当ごめんね、ごめん。」

「ん、いいよ。それより船間に合う?」

「ダイジョウブダヨ」

「うん、間に合わねーな。次のやつで乗る?」

「あ、はい。うん、次は40分頃にあったはず。…奢らせてね」

悄気る私の姿を見て鼻先で笑う高野に思わず、好きだこの野郎と言いそうになったのはここだけの話だ。

船のチケットを購入すると、そこからは坦々とテンポよく進んだ。寧ろ進みすぎた。
話をしている内に高野は社会人になった今、一人で料理が作れるようにと家の料理担当をしているらしく17時頃には帰宅、という形になった。自ら自炊に励む姿は素直に好意を持てるし、高野には高野の生活リズムがあるのは分かっていた。が、そうなると時間の経過は早かった。船に乗り、島に着き、バスに乗り、美術館を見て、昼過ぎには徒歩で自然を感じながら港に帰った。高野には理不尽な事だが、この時私は高野を時間通りに帰さなければという焦りと時間制限という窮屈さに少し不満を感じ、拗ねていた。いや、やさぐれていた。

「あー海きれい。これ間に合うかな〜船間に合うかな〜間に合わねーんじゃないかな」

「ん?ああ、あと二十分あるから大丈夫だよ、間に合う」

チッ。

港に着くと大きなフェリーがあった。

「あ、みて。あれ私達が乗る船じゃない?」

「あー、っぽいね。でかい。」

「ねー!でっかい!すごー!興奮するー!」

「うん、すごい。でかいなー」

「…ねえ、私一番上行きたいな。一番上がいい」

「お、じゃあ行こ」

階段を上がるにつれてドッドッドッと徐々にはやくなる鼓動や、うっすらと掻く冷や汗を感じながら私は高野を連れて船の展望へ行くとベンチへゆっくり腰を下ろした。

「……あのさ、高野、私…」

風が強く、少し大きな声を出さないと言葉ごと掻っ攫われてしまいそうな、そんな風だった。


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