早朝から新幹線に乗り込み寝惚けた頭で当たって砕けろと呪文のように何度も繰り返していた11月のある土曜日のこと。その日はとある島の美術館へ行き、告白する約束をしていた日だった。無論、これは私のなかだけの(自分自身との)約束であり相手はただの美術館巡りだと思っていた筈。因みに告白相手は言わずも、高野だ。

待ち合わせは9時頃だったが私が新幹線に乗り遅れて10時半頃に。この時ばかりは自分の計画性の無さを悔やんだ。ファックミー。

着いた頃には長時間座ってた所為で尻の感覚が麻痺し、アレ?これお尻あるよね?えぐられた?えぐられたのこれ?と意味のわからない疲労と緊張がミックスし興奮状態。高野から事前に着いたら電話してというメールがあったので電話を掛けるも、

「あ、もしも、高野?あは、高野が居ない!ふは、どこ!どこ!どこにおるん!」

「……もしもし、駅の出た所、バス停の所。鴨川こそどこ?」

見つからない上に笑い(興奮状態)が止まらない。多分ここでドン引きされた。
改札を出て駅前のバス停へ目を向けたらそこには高野らしき人物が。

「あ、あ!多分発見した!あの白いのねー!はいはーい!」

「ん?うん。分かった。」

この時、ブンブンと大きく手を振りながら迫ってくる同級生を彼女がどういう心境で眺めていたのかは分からない。

「やーもう本当ごめんね、ごめん。」

「ん、いいよ。それより船間に合う?」

「ダイジョウブダヨ」

「うん、間に合わねーな。次のやつで乗る?」

「あ、はい。うん、次は40分頃にあったはず。…奢らせてね」

悄気る私の姿を見て鼻先で笑う高野に思わず、好きだこの野郎と言いそうになったのはここだけの話だ。

船のチケットを購入すると、そこからは坦々とテンポよく進んだ。寧ろ進みすぎた。
話をしている内に高野は社会人になった今、一人で料理が作れるようにと家の料理担当をしているらしく17時頃には帰宅、という形になった。自ら自炊に励む姿は素直に好意を持てるし、高野には高野の生活リズムがあるのは分かっていた。が、そうなると時間の経過は早かった。船に乗り、島に着き、バスに乗り、美術館を見て、昼過ぎには徒歩で自然を感じながら港に帰った。高野には理不尽な事だが、この時私は高野を時間通りに帰さなければという焦りと時間制限という窮屈さに少し不満を感じ、拗ねていた。いや、やさぐれていた。

「あー海きれい。これ間に合うかな〜船間に合うかな〜間に合わねーんじゃないかな」

「ん?ああ、あと二十分あるから大丈夫だよ、間に合う」

チッ。

港に着くと大きなフェリーがあった。

「あ、みて。あれ私達が乗る船じゃない?」

「あー、っぽいね。でかい。」

「ねー!でっかい!すごー!興奮するー!」

「うん、すごい。でかいなー」

「…ねえ、私一番上行きたいな。一番上がいい」

「お、じゃあ行こ」

階段を上がるにつれてドッドッドッと徐々にはやくなる鼓動や、うっすらと掻く冷や汗を感じながら私は高野を連れて船の展望へ行くとベンチへゆっくり腰を下ろした。

「……あのさ、高野、私…」

風が強く、少し大きな声を出さないと言葉ごと掻っ攫われてしまいそうな、そんな風だった。