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遠距離なんて無理



彼女は突拍子もない事をいきなりしでかす。

それは今日とて例外ではないのだ。


「奈良、どうかな」

大学のパンフレットをぺらりとめくりながら彼女は言った。

「は?」
「いや、奈良にもあるからさ、いきたい科が」
「ふーん……鹿だね」
「鹿だよ」
「昔、鹿のフンの形してるチョコ喰ったわ」
「マジか。喰いたい」
「マジ。…お前はナマの喰いそうだけど」
「…鹿に乗ってお前を迎えに行くわ」
「全力で拒否る」

彼女は多分京都の大学には受からない。それは彼女も多少分かってる筈だしそうなれば薄っぺらいあたし達の関係の先も察しがつく筈だ、

「京都から奈良近い、よね」

った。

「ん?」
「いや、行き来できるし」
「お?」
「奈良って京都の下らへんでしょ?」
「え?」
「あれ、違う?」


どうやら彼女は大変な勘違いをしているらしい。

この性格の悪さを




「ダメ」

運転中の母の横顔が一瞬にして歪んだ。

「ダメ、絶対ダメ」
「なんで」
「そもそもアンタには無理よ」
「どうして」
「その性格上、人と生活なんて無理」
「…やってみなきゃ分からないじゃん」
「それに連帯保証人とか誰がやるの。金銭面でも必ずトラブるわ。…そんな事する為に京都に行くなら家から出さないわよ」
「あのさ、」
「どうしても二人暮らししたいって言うなら二十歳越えてからにしなさい」

真剣な口調で話す母を眺めながら自分が如何に幼稚で生温い考えだったか身に染みた。大袈裟な言い方をすれば只でさえ彼女と深く関わってない上、ましてや彼女と二人で生きていく覚悟なんて微塵もないから尚更だ。

「…うん」

ホッとした母を見てあたしは、

「でも無理だよ」

目線を伏せた。

「ん?」
「彼女は大学落ちるかもしれないし」
「…」
「受かる方が奇跡だし」
「…」

母は彼女とあたしが恋人同士だと知らない。

「だから」

彼女も、あたしを知らない。

「大丈夫だよ、母さん」
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2312年4月8日後




"話がある。今どこ?"

放課後、彼女から送られて来たメールには三日間長引いた喧嘩に終止符をうつ内容だった。

「…あの、謝りたく、て」

消極的過ぎる彼女から呼び出しだなんて地球に髪の毛が生える程ありえない事だと思っていた。

「なに…謝るだけ?」
「…ごめん、も、本当に、ごめん…」
「……で、何がしたいの」
「謝りたい、……今まで通りにはいかないと思うけど仲直りも、したい…」
「…あ、そ」
「ごめん…」

屋上に繋がる階段でひたすら泣く彼女。こんな時にまで泣き顔が好きなんて言うほど、あたしはエスじゃない。

「…も、いいよ。お前、もう少し積極的になれよ。ちゃんと、向き合って」
「うん…うん…、ごめん…」
「…次やったら別れるから。で、お前の事マジで嫌いになる」
「…うん」
「…ん」

肩の力を抜くと両腕を広げて仲直りのハグ。の筈が彼女に思い切り抱き締められ息が詰まる。因みにこんな強いハグは初めてな鴨川。正直キョドった。

「大好き!」
「う、うん」
「ごめん、本当にごめんっ」
「あ、ああ、許す」
「別れたくない」
「…うん、あたしも大好き」
「ごめん…」
「…お前、変われよ」
「うん」
「お前が変わらなかったら、離れるからな」
「それは嫌だ」
「…じゃあ、もっと積極的になれ。先ずは言葉から、次は態度」
「うん」
「…よし」

これにて喧嘩は終了。
彼女との初喧嘩は幕を閉じた。


( 不意に空を見上げれば眼鏡越しに眩い光と頭痛が走った。

932年ぶりの金環日食は痛すぎたのだ。次は )

取り返しのつかない言葉



「別にいいよ、アイツと付き合っても」

ぐさりと胸に突き刺さった言葉に口元が引きつったのは事実だ。

「…え、なんて?」
「だから、…付き合っていいよ、アイツ(友人A)と」

この女は一体何を言ってるんだ。と思った瞬間には彼女が泣いてる事とか告白とか恋人とか未来とか大学とかもうそんなもん全部ホワイトアウトしてた訳で。

「…あ、ありえん…」
「…自分に、自信、なくて…」
「それで普通、おま、…自信と自分の気持ちは別だよ、なに、なんなの」
「鴨川が、うちなんか、」
「も、いい。自信とかそう言うの使って逃げないで」

早足で教室を出ようとした時、小さい声で彼女が呟いた。

「……ごめん」

全くだ。

本当に恋人なのか




「お前にはキープいっぱい居るだろ」

お菓子売場に相応しくない雰囲気を醸し出している彼女とあたし。


なんでこうなった。


「好きな人、知ってる」

彼女が突然口を開いたかと思えばアバウト過ぎる単語達で。一瞬頭が湧いたのかと思って凝視すれば、

「…アイツの」

遅れて出てきた言葉に辻褄が合致した。

あたしの友人(仮に友人A)には好きな人がいる。自分で言うのもアレだけど、その好きな人とはあたし。何故知ってるかとかその他諸々は企業秘密。(ここ笑うとこ)が、あたしは知らない振りをして彼女に問いた。

「へぇ、誰?」
「教えない」
「ふーん、あたしが知ってる人?」
「さあ」
「…てか、何で知ってんの」
「応援してって言われたから」
「ほー、応援するの?」
「……まあ、」
「じゃあ、あたしも手伝うから教えてよ」
「ダメ」

彼女に複雑な表情が表れ始めたのはこの会話が何十回か繰り返された後だった。

「教えてよ」
「…」
「……それにしても友人Aはなんでお前に言ってあたしには言わないんだろうね、一応あたしも友達なのに。信頼感ないのかなー」
「そんな事ない」
「フられちゃった。…って事で、慰めとして教えて」

店内を回りながら茶番な演技を続けるあたしとそれに付き合わされてる彼女。そろそろ回りくどい言い方をするのも止そうかと思うも、

「…お前にはキープいっぱい居るだろ」

爆弾発言。

「…は?や、急になに。しかも居ない、し」
「嘘。たくさん居るじゃん。クラスに(友人)A、B、Cとか」
「いやいや、友達じゃん。あたしには、お前だけだよ」
「嘘」
「本当。何、いきなり。…それになんか怒ってるよ、ね」
「ジェラシーだよ」
「お前、分からないよ。…ちゃんと言葉で言ってくれないと分からない」
「言うか。お前には絶対言わない」
「えー…」

彼女はいつも予想より斜め上をいくので不意打ちを喰らわされたら非常に動揺しがちになってしまう。とは言え伊達に彼女とは付き合ってないから徐々に自分のペースを取り戻すあたし=カッコイイ。

「その首に吊ってるネックレス、引きちぎれよ」

なんてこった。
前言撤回、動揺フル回転。

「…や、おい、待て、これ、お前とのペアリング吊ってんッスけど」
「要らんだろ」


お互い厄介な恋人つくるとロクな事ないなあ、なんて他人事の様に痛感すると同時に彼女とあたしの恋人ごっこ疑惑が深まった。
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