戦時中の話だからもっと悲惨なんだろうか。もっと殺伐としているんだろうか。と構えて行ったら、そうでもなかった。 すずさんを通して見る戦前から敗戦までの物語。ただし、その視点はとても近く、とても低く、私たちと同じ所に合わせてくれていました。だからこそ、日常が歪んでいくスピードに驚くし、それに順応していくすずさんたちにも驚く。そこに怖さも悲惨さもないんですよね。途中、憲兵が出てくるシーンがありますが、それにしたって最後は笑って終わらせてしまうこと。確かに面白いエピソードではあるけど、ああそういうことで、と思うと釈然としない。

途中、劇的にすずさんの日常が変わる所があり、それまで見えていなかった歪みが明らかになっていきます。日常の歪みがすずさんも歪ませていくわけですが、空襲警報を淡々と数えるすずさんの声が一番怖い。

それと、空襲をそう描くのかと驚いた。絵面はほのぼのだけど、余計な情報が入らない分、純粋に怖いだけのものなんですが。
そして静かに落ちる原爆。 

どれもこれもすずさんの目を通した戦争なんだなあという印象でした。敗戦を知った時の悔しさも、おそらく被ばくしたんだろう妹の見舞いに行って「元気そうだ」とほっとしているのも。
町並みや風景の再現に物凄い神経を使ったとのこと。その中ですずさんと一緒に生きていた人や、通り過ぎて行った人、画面の中に映る人や建物に生活があって、その傍に戦争はあったんだなと。壊されたものと、残されたものと。

見終えた後に何かが残る映画ってあるんですが、この映画はこれまでの自分の上に降り積もるようにして残る感じかなあと。見終えた後は確かにすっきりするんだけど、あとから少しずつ存在感が増していくような感じがしました。

あと、ほうぼうで聞いてたけど、のんさんの声優は本当に素晴らしい。すずさんがそこで本当に生きているような声でした。
エンドロール後はちょっとしたサイドストーリーが見られるので、是非とも最後まで。ファンタジーもほのかに混じった日常だからこそ、ゆるっと入り込めたのかなという気がします。
出てくる人達が皆いい。好きだなあ。