本当に言葉が出ないって言う表現に当てはまる。
言葉を出すのに時間が掛かった。
「風邪だな。喉は少し腫れてるだけだし、悪性のではないから、悪化はしないと思うぞ」
チョッパーからの言葉に
未だ『ゾロは風邪をひいている』現実を受け止めきれずにいる。
何時でも何処でも鍛えてるゾロ。
風邪とは無縁だと思ってた。
「最近戦いの連続で無理したんだろうな」
ボソッと悲しそうに呟くチョッパーを見て
はっ、と我に返った。
ゾロは確かに鍛えている けど
鍛えていれば風邪をひかないとは限らない。
だから 私がゾロの看病をするんだ、と答えを見つけて決めた。
「チョッパー、後は任せて!私頑張るから、休んできて」
チョッパーの不安を少しでも拭い去りたくて笑顔を向けた。
「…何かあったら、直ぐ呼んでくれよ」
私の気持ちを察したのか少し悲しさが消えたチョッパーの顔。
お昼を食べに医療室からキッチンへ歩いていった。
**********
少し口を開け 苦しそうな顔―
大量の汗。
用意した氷水が入ったボウルにタオルを浸す。
きつく絞ってゾロの額にそっと乗せる。
そうして何度か繰り返すうち
「…お前」
ゾロが目を開けた。
「あ、大丈夫?」
心配そうに俺を覗き込む瞳。
少し悪くねェと思ってしまった。
右手を布団から出して左頬に触れる
「あ、思ってたより熱くない。大分熱下がったかな?」
ほっ、とした顔をするから何だか申し訳ない気持ちに駆られる。
「今日はもう大丈夫だと思うからゆっくり休んで」
言葉が引っ掛かる。
「何か…あったのか?」
右手を腰に回そうとしたら
「こら、ゾロ」
困ったような声。
左手で捕らえられてしまった。
「さっき、海賊が」
「!」
「でも、弱くて。皆であっという間に「早く」
俺の言葉で遮らせる
「早く、治さねェとな」
掠れた声、でも強気な顔で。
「…そうだね」
俺の気持ちを理解して汲んでくれるお前を 守る為にも。
窓から見える穏やかな海。
熱を出さなきゃ こんな気持ちにもなれなかったかも しれない。
「何か食べれそう?」
「あァ、腹減ったな…」
「じゃあ、お粥温めてくるよ」
椅子から立ち、氷が溶けたボウルを持ち、キッチンへ向かうお前。
何だか顔が緩んでしまう。
右手を顔にかざして
「参ったな…」
確実に癒されてる今に許せてしまう自分が くすぐったかった。
「食べれそうなのかい?」
「うん、お腹空いたって言ってるから」
たまたま出会したのだろう。コックが俺のお昼を持ってこっちまで来ていたようだ。
かすれかすれだが会話が聞こえてくる。
「それにしてもあいつが熱…明日は雪か?」
「サンジ、言い過ぎだよ」
あいつ…言いたい事言いやがって…でも、
あいつが冗談ぽく言い返していない声で不思議と怒りが大きくならない。
身体を起こして額に置いてあったタオルを取り、話し声を聞いてみる。
すると
「サンジ、いい加減にしないと斬るよ?」
「す、すみませーん!」
走る音がする…コックか?
何があったのか判らずあいつを待ってると
カチャ…
あいつがお粥を持って入ってきた。
「おい」
「んー?」
あいつの顔を見たら、
目尻に涙。
「!」
「あ、これは…ちょっと…」
左手で目尻を拭って笑う。
「…何かされたのか」
自然と声のトーンが下がる。
「ううん、ムカついただけ」
持っていたおぼんをベッド横にあるテーブルに置く。
「ムカついた?」
「うん」
椅子に座り直したお前の左手を握った。
顔が真剣になるから ドキ、とした。
「サンジがゾロの悪口ばかり言うからムカついて…斬るよって言っちゃった。」
―あいつの事だ。らしくない熱を出した俺をからかってお前に言ったんだろうな。
でも
「サンジ、酷い。ゾロに謝るまで口聞かない事にしようかな」
ぷぅ、と膨れるお前。
俺の為に怒ってくれていると思うと
―幸せで仕方ねェ。
左手が動いてお粥を食べさせようと器とスプーンを持つ。
一口分掬って俺に渡そうとする手が 止まる。
「ゾロはもろいんじゃなくて、デリケートなんだよ。きっと」
そう言うお前は
うん、そうだよ。やっぱりサンジ酷い!と一人百面相するから
笑みを零さずにはいられなかった。
俺はお前が怒ってくれるなら別にいいんだけどな。
早く治して、コックを締め出しに行かねェとな、と言葉にしたら
「そうだね」
俺の好きな笑顔で言った。
【もろいんじゃなくて、デリケートなの】
2011.4.24