そういえばバイトに行ったら、何やら店の割引のチラシを従業員で配りましょ〜みたいなのがあった。
わざわざハガキに印をつけて、誰が一番お客さんを呼べたか書き込む紙まで貼ってあった。
ノルマはないらしいけど、たくさん呼べた人には何かくれるとか。
だから何?
と、ちょっと思ってしまった。
私は基本的に運動とかそれ以前の「身体の使い方」が上手くない。
だから余計に家の中が好き。
なのに家の外でも仕事をしろ、とは背筋に寒いものしか感じない。
何よりやり方が気に入らない。
そんな時ばかり結束を求められても、適当な対応しかしてこなかった奴が褒美とか。
いらないからマトモに新しい人入れてくれよ。
今日も面接に来た人がいたのだけど、土日しか入れないらしく、私のシフトが動くかもしれないらしい。
……今必要なの、平日だよな?
取らないのも惜しいけど、根本を店長は理解してるんだろうか。
みんな土日一回は出るようにしてるのに、私だけなかったら不公平じゃないか?
どんどん落ち着かない環境になっていく。
お金取られたかも、なんて話もあるしさすがにうんざりだ。
悩み事は家のことだけでたくさんだよ。
会ってきた。
一緒にいられる時間は実質二日分。
初日は近場の動物園に。
次の日は駅周辺+彼の馴染みのお店に。
彼に手を引かれながら、
これに乗るよ
もう少しだよ
こっちかな?
と歩く時間は不思議なくらい満たされてた。
あんなふうにゆっくりと、でも確かな足音のする時間を過ごした経験はなかった。
あったかもしれないけど、全てを思い出すにはとても時間のかかることだ。
だから、
付き合うってことなるの?
と聞かずにはいられなかった。
なにせ10年近くも関係を秘密にされて、それを認めない知人や自分を批判されて。
透明な彼女を、女というサガを演じてきたのだ。
まあしかしそれも過去。
先が見えないかもしれないけど。
と彼は言った。
確かにこの年でする恋愛の形ではないのかもしれない。
けれど一瞬にだけ心地いい言葉しか言わない人間のそれより、遥かに永遠がある気がした。
また二日間口にしたもので、まずいものなどなかった。
それに今も右手に残る、他人の手のひらの感覚に寂しいという感情が残るのなら。
それが始まりなのかな。