「いいよなぁ〜土方くんはモッテモテでよォ」

銀時は土方の部屋に山積みにされたバレンタインチョコを眺めて言った。

「そんなんじゃねぇって。どうせ義理チョコばっかだっつーの」

「義理でも何でも貰えるだけいいじゃねーか。つーか、義理じゃねぇのもひとつあるだろうが」

銀時は自分の持ってきたチョコレートの包みを持ち上げてみせた。

「わかってるよ」

「ほんとにわかってんのかねぇ。だったらなんで銀さんは未だにチョコゼロなの?あ〜あ〜絶対一個は誰かさんから貰えると思ってたのになぁ〜」

と唇をとがらせ、わざとすねてみせた。すると効果覿面、土方は慌てだした。

「いやっ、ここんとこ忙しくて、今日が14日だってチョコ貰って初めて気が付いて、だから…その…」

「だから?俺へのチョコも忘れてたって?」

「まぁ…そういう事だ」

(忘れてたって事は一応くれる気はあったんだな。ま、本気で怒ってるわけでもねぇし、許してやってもいいんだけどさ。ちょいと意地悪してやろっかなァ…)

銀時は自分が持ってきた包みを解き、中からチョコレートを一つ指先でつまんで
「はい、ちょっと口開けて」
と土方の顔の前に差し出した。

「あっ、食べんじゃねーぞ」

「ん?どういうことだよ」

戸惑う土方に銀時はニヤリと笑って言った。

「俺に食べさせてよ…口移しで」

「ハァァ!?なんでそんな事しなきゃなんねーんだ!自分で食えよッ」

銀時の言動が理解できた土方は拒否しようとする。だがそれが許されるはずがなかった。

「それで俺へのチョコ忘れたの、帳消しにしてあげるから。ね?」

銀時の薄い笑みを浮かべた瞳が妖しく光った。

「マジかよ…」
唇を噛み締め、逡巡している様子の土方。

だが銀時はわかっていた。土方には拒めない、と。
もう土方はしっていた。こういうときの銀時に逆らっても無駄だ、と。

こうなると、チョコを用意していなかった事に多少なりとも負い目を感じていた土方に、NOという選択肢はなかった。


ふぅっとひとつ息を吐くと、覚悟を決めた土方は唇に軽くチョコを挟んだ。

しかし目の前の銀時は自ら動く気は全くないらしい。仕方なく土方は自分から顔を近付けていった。
ギリギリまで距離が縮まっても、銀時はじっと土方を見つめたままでいる。

「……ッ」
土方は頬の熱が一気に上昇するのを感じた。たまらず銀時の熱視線から逃れるようにぎゅっと目を瞑った。

するとフッと銀時が笑う気配がして、ほんの少し唇をかすめてチョコレートは奪われていった。

やっと終わった、とほっと息をついた土方に銀時は
「まだあるよ」
とチョコレートの入っている箱を指差した。

「オイ、まさか…これ全部しろってのか?」

チョコレートはあと5つ。

「そーゆーこと。もちろん、やってくれるよね?」


(……なんだよ…これじゃまるで…)
土方は何度も目を閉じてチョコレートを差し出しているうちに、
チョコを食べさせているはずなのに、なんだかキスをねだってるみたいじゃないか…と思ってしまった。

そんな自分の思考に、更に羞恥が倍増したことを後悔したが、もう遅い。
一度意識してしまうと、吐息がかかるほど近づいているのに触れ合わない唇が、もどかしいとさえ感じていた。

やがて最後の一つも食べ終わり、銀時が離れていった。

「唇にチョコついてるぞ」

「えっ」

銀時に言われ、慌てて手で拭おうとした土方を銀時は「ちょっと待った」と素早く制止した。

「俺がとってやるよ」

銀時は土方の頬を両手で包み上向かせた。
そして舌で土方の唇をペロリと舐め上げると、そのまま舌先で唇をペロペロと舐め続けた。

「……いつまで舐めてんだっ!そんなにチョコ付いてねーだろ」

「あぁ〜わりィ、チョコより土方のほうが美味しかったから、つい」

思わず土方が声を荒げたが、銀時は悪びれたふうもない。
じれったさに耐えかねた土方は銀時の肩を掴み、ぐいっと身体を引き寄せた。

「何がつい、だバカ。だったらそんなまどろっこしいしてねぇでもっとちゃんと味わえよ…」

今度は自分が唇が触れるまで目を閉じずに銀時を見ていてやろう、と思ったが
(…やっぱ無料だっ)

やはり堪えきれずに目を閉じてしまった。

「お前かわいすぎなんだよ…俺ももう限界だ」

土方にやっと熱くて甘い刺激が与えられた。


――さあ、チョコより甘い唇を召し上がれ・・・


END.
Happy Valentaine's Day!