はいっ、小説ですっ。今回は犯人メインのターンという事でどぞっ。











 ヴィルボルフス家といえば錬金術を学ぶ者にとって誰しもが一度は聞いたことがある名前である。彼らは優秀な錬金術師を何人も輩出してきた家系であり、多くの実績もあったが、近年はある理由故に異端視され、追放されていた。

 その最たる理由は何の関係もない多くの民間人を錬金術の実験に巻き込んだ事。それは10年という年月が経過しても――決して許される事はない。


「あの"事故"から10年……長かったな。」

 もうすぐ太陽が昇る頃、薄暗い部屋の中で椅子に腰掛けた初老の男は感慨深そうに呟いた。

 机に広げた大きな紙には様々な幾何学模様が書かれており所々に赤く印がつけられている。

「もう少し…もう少しで叶うのだよ、分かるかい?アイリス。」

「はい、叔父様…。」

 アイリスと呼ばれた銀髪と赤い瞳の目立つ、美女と呼べる容姿の女は男に持ってきたコーヒーを差し出しながら答えた。

「ありがとう、アイリス。君のコーヒーはいつも美味しく感じるよ…。」

「恐縮です、叔父様。」

 表情を全く変えず、淡々と答える姪に苦笑しながらコーヒーを飲み干す。

「時にアイリス、"実験"の進行状況はどうなっているのだい?」

「現在の進行状況は75%程度です。世界各地の魔術協会が結界の展開、石の回収を実施する等妨害工作を行なっている為に予想を遥かに下回っています。」

 その報告に男は表情を崩し、軽く舌打ちをしながらもすぐに笑みを浮かべる。

「全く、我がヴィルボルフス家の、錬金術の英知を集結させた賢者の石……その価値、その意味が理解出来ないとは、な……協会の愚者共は変わらずか。フン、まぁいい……どうせ奴らにはそれ位の妨害しか出来まい。さぁ、アイリス……君のご両親の敵、もうすぐだよ?」

 その言葉を聞いて初めて少女の表情に変化が現れた。

「…はい、お父様とお母様の敵は……私が必ず。叔父様が教えてくださったこの"力"で…!」

 そう言いながら右手を掲げる。すると右手が淡い光を放っていた。

「あぁ…今なら私よりも強いよ、君は……さぁ、もう休みなさい。」

「はい、叔父様もお休み下さい。」

 一礼をして部屋を出ていく姪を見送って男は一人呟く。
「もし仮に協会がこの場所を探り当てたとしても私には"アレ"がいる…頼むぞ?我が"姪"よ……」

 部屋に高らかな笑い声が響くのだった。