停電少女

朝まだき桐生の丘にたつきじは
千代の日嗣の初めなりけり
(清原元輔)

『停電少女と羽蟲のオーケストラ』より柩。
橘と紫音が腹の中にいるからこその「柩」で、未来をいきる「陽継」という言葉も併せ方がとても良い。
柩の唄も、帝への千年の貢物の始まり?
あれは漆黒の蛍となった柩の唄みたいなので、ずっと身を捧げるって感じにとれて、改めて二人の歪みきった愛憎が、橘により浄化されるのがね、たまらない。
というわけで、第1楽章のころの柩の存在を呼ばない漆黒にゾクゾクしていました。名前を呼ばないようにって意識するの、普通に暮らす以上に柩を意識しなければならない枷を、自分から嵌めるお互いの面倒くささがいいですね。漆黒に礼を言われて息を呑む柩のところ、いつも「あーーおめでとう!!」という気持ちになります。
あと、海に行くぞ〜で、名前呼ばないのに絶対にメンバーに柩を入れる面倒くささ、たまらないです。灯屋はあの三人でこそ!ってところと、漆黒と柩だけのときはどうだったのかを考えるの楽しいです。しんどいけど。

[utpr]夏の話02、20の世界



一度火の熱さを知れば、目で見るだけで温度を想像できる。
目から入る情報で自分たちは生きている。なにせ、人が外界から得る情報の80%を目が担っているといわれる。一目見ればわかる。そうだ、視界を奪われれば、それ以外の20%をフル稼働さ、情報を組み上げなければいけない。色も味も温度も、何よりも情報を与えてくれるのは、目だ。
その姿を一目見れば、わかることなのに。



80%をあえて奪って臨むものが、目隠し。
バラエティ番組では欠かせない定番の企画の一つ。
アイドルから芸人までーーいや、おおよその人間が人生で一度は味わったことがあるのではないだろうか。目隠しをして本物と偽物を当てる企画や、どこかに連れて行かれるなど、やりようは多種多様。
マスターコースの時代にも、スイカ割りは経験した。自分たちで撮った映像でプロモーションを一つ作る一環で、ビーチと言えば古来より醍醐味のスイカ割り。チーム戦だったために、寿さんと音也、そして私。音也と寿さんが実働で、私は二人に指示を出す役割でした。
しかし、最終的になし崩しのスイカ割り王決定戦になって、皆で乱痴気騒ぎのようになってしまったのは、編集で大幅にカットされた、
黒崎さんが自分の頭で割ったスイカを、うまい、と食べ始めたのは、インパクトのある光景であった。



そう、これもその一つ。
「絵に関しては負けないよ!」
「この度は画材が関係しますからね。私も楽しみですよ」


企画の内容としては、『それぞれが目隠しで選んだ素材でひとつの作品を作る』企画だ。
音也は日頃から「おんぷくん」なる自前のキャラクターを持っている。
一時期は連載ものの仕事もしていたくらいだ。
ファンの間でも、定着しつつあり、シャイニング事務所の広報担当にも時折使われている。
可愛らしいようで、生みの親の性質がとても反映されたような、なんとも言えないキャラクターだ。
そんな相手。
天性の才能とも言えるくらい、運の良い男。
だがそれは、何事も真っ直ぐ挑み楽しむから。
楽しそうにはしゃぐ声に、内心心ははやる。
今度は何をしでかすのだろうか。


目隠し企画とは言えど、あちらこちらの物に触れるのは、協力してくれた店に迷惑がかかる。
なので、お互いの手を引き合いながら、一人は案内役となり、手を取る。
案内役も明確なものについての言動は口にできない。
画材店だからその目的の物が揃っているのだが、全てが画材であるわけではない。
額縁や、画材専用の液体。消しゴム。領収書。
絵を描くには、絵を描くためのもの、が揃わないと、この企画では不利になる。
せめて筆の類を一本でも引き当てなければ、スタートラインにすら立てない。


視界がなくなると不安になるのだが、今は少し違う。
相手に負けたくないという思いもあるし、画材については、個人的にも楽しみで、何が来るのかという期待もある。
それに。
やはり、相手が音也だからか。
先行後攻は二択のくじで執り行われた。


自分より少しだけ背丈の低い肩。
寝癖を整えるためのワックスの香り。
自分より高い、肌の温度。
最近お気に入りと言って身につけている腕時計。
ギターを引くため、短く整えられた爪。
耳に馴染む、柔らかな音。
残りの感覚を総動員させて、音也を味わう。
繋いだのが手であれば、その手を感じるのに、20%の殆どが持っていかれるのではないか。

日頃表立って手をつなぐことはない。
それはそうだ。二人の関係性など、声高に言えるものではないはずだ。
なによりも。
この手の温もりを感じる瞬間を思い浮かべると、とてもじゃないが、放送できるものではない。
つとめて思考の外に追いやる。
変に心拍数が上がるのが、企画に対する不安感とでも映っていれば、構成としてもいいが。
果たして、音也も同じなのだろうか。表情を見ればすぐにわかるのに。
今、その姿がカメラに映し出されている。
「わ、っと、トキヤも、ぶつかったらゴメン」
「そうならないようにサポートするのがあなたの役目では?あなたも気を付けてください。私の代わりにちゃんと周りを見ていてください」
トキヤに頼りにされると嬉しくなっちゃって。
「あなたは私の左助でしょう」
「えー、そこまで出来る自信ないよ」
でも琴弾く姿はみたいかも。
端から聞けば、脈絡のない会話かもしれない。
ただの日常で通り過ぎた、二人だけの会話。
目が見えないからか、確かめるようにお互いしか知らない言葉を選んでしまう。
そんなものを織り交ぜながら、目の見えない私を、多くの目が見つめる。

ただし、目は見えなくとも、相手の行動を知る手がかりはある。
どこにする?
音也がそう聞くということは、少なからず、音也が知らないものがそこにある。
知っているならば、わざわざ聞きはしない。
知らないものを知りたいから、そういうのだ。
"トキヤは物知りだよね。知らないことはトキヤに聞いてる"
いつか仕事で、そう答えていた。
内心、それがヒントになると分るのが、くすぐったい。
「ここにします」
「ん、うーん、そこたくさんあるから、指でこれ!って指してみてよ」
「では……」
"たくさんある"ということは、絵の具か色鉛筆などカラーバリエーションのあるところかもしれない。それが筆記のできるものの類であればいいが。
ともあれ、知らないことならば、私が一つ一つ教えていこう。
彼の記憶の中を、一つでも多く私が埋めるように。



触れたものは問答無用で選ぶことになるので、都度指を伸ばすのがためらわれる。
目の前になにかある気配だけは感じるが、そこまでの距離感がまだうまくつかめない。
えーとね、それだと……。と、指した左の人差し指、その上に、音也の左手がそっと重なる。伸ばした指を包む手のひらが、一瞬強く握られ、抜けるように遠ざかる。ゆっくりと。
無意識ならばたちが悪く、わざとやったのなら、随分と挑戦的ではないか。
「うわっ、うん、それいいかもしれない。きっといいよ。トキヤっぽい」
「……少なくとも便利の行くものではないことだけはわかりました」
「かわいいじゃん」
「だから見えっていないんですって」
「そうだったね」
「あなた...…自分のときは覚えていてくださいね」
なにせ、先に店内を見ることのできるあなたのほうが有利なのですから。
あははっ、バレた?でも何に使うのかわからないものばっかりで、使い方知っているトキヤのほうが、あとあとは有利だとおもうよ。


選んだものは選んだものだが、用途は調べてから絵を書いてもいいことになっている。
画材はきっちり使い方を熟知して望むようにはしたいと、事前に打ち合わせしている。
あといくつカードを選べる?
手を離すには、もう少し時間をかけたい。
随分と貪欲だ。
昔は恥じらい、この手を離す事に意識を割いただろうに。
力を込めると浮き出る相手の関節。
そこに指を這わすと、手を握る力が、大丈夫だよ、と言うように握り返される。
痛いと言わないのか。
あなたは私が不安を指先に乗せていると思えばいい。
口ではどこに行きたい?えー、そっち、何?とふわふわ言葉は漂うのに。
瞼の内側には、ずっと、微笑む顔が思い浮かんでいる。



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企画はYouTuber「な○めさんち」の企画を参考にさせていただきました。

オルフェと主題歌があり、SSトキヤルート遊園地で「振り返ってしまったんですね?」や、Repeatの肉弾戦後の夢でも、春ちゃんが暗闇に吸い込まれていったところなど、この辺はオルフェウスのお話しが元だと思っています。
その上で、夏の話は、琴座の物語と、オルフェウスとエウリュディケに関して自分なりに解明できればな〜と思いながら綴っていきます。
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