会えなくなることは悲しい。
施設の、多くの子どもが感じていた気持ちだと思う。
両親を交通事故で亡くした子が入ってきた時、どうすれば笑顔を取り戻せるか、考えた。
俺がカンちゃんたちにしてもらったように、その子に同じように出来ればいいなって思った。
離れたくて離れたわけじゃないよね。
会いたくても会えない両親。
両親にひどいことをされてここに来た子たち。
ただ、学校にいるときより、思っているものが近いとおもえる俺たちだった。
自分の親にネグレクトを受けて、それで施設に来た子もいる。
両親の事はきらいじゃないけど、一緒にいると苦しい思いばかりで、ここの方が楽しいっていってた。
会えない苦しみはわかってあげられないけど、寂しいって気持ちは、どっかわかるから。


だけど、あの場所が寂しい場所かといえば、違う。
兄弟がたくさんいた。おはようも、おやすみも、ただいまだって、たくさん言った。
一緒に御飯を食べて、勉強もして、クリスマスや夏祭りに一緒に行った。
早乙女学園では寮生活になるから、施設を出ていくって日は、みんなが送り出してくれた。
カンちゃんが、頭をぐしゃぐしゃ撫でてくれて、みんなで写真を撮った。
それに。18歳までしか居ることはできないから。ずっと帰る場所にはならないってことを、俺たちは知っていた。
夏に飾った七夕飾りの願い事に、おかあさんとおとうさんにあいたい、と書いた子の短冊が、俺の願いの横に飾ってあった。
あのときなんて書いたっけ?



『あなたは、好きな人が亡くなり、よみがえるとしたら……会いたいと思いますか?』


その質問をされたとき、ただ漠然と、俺が思い浮かべたのは今は亡き母の姿だった。
ならば、戻ってきてはいけない。
俺だけ会えるのは不公平だ。
両親に会いたいと泣いたあの子の元にも、この世界の、別れに悲しむ人たちにも、同じようにその祝福が訪れるなら喜ぶことできるけど。
でも、
『きっと神様はみていてくれるわ』
祈りのあと、母さんはそういった。
母さんは行きたい場所にいけたのかもしれない。
もしかしたら、その先で、会いたい人に会えたかもしれない。
ーーー女で一人で…しかも、あの子、あの人の子供じゃないんでしょう?
ーーーなんでも妹さんの子供らしいわよ。事故で死んだとか
ーーーまあ、ご主人も事故で亡くなられたのに


俺にとって、以前はいて、今はいない人はその人だ。
病気で亡くなった。
まだ小さかった俺は、だからその時のこと、あまり覚えていないんだよ。
そう。
点いては消える、不安定な蛍光灯のよう。
仄暗い光が、輪郭を掴ませてくれない。



いっちゃ嫌だよ
おいていかないで
まだ、ちゃんとーーーー


そんなこと、言った覚えはないのにね。
でも、蘇るってこと考えたことなかった。
また会いたいって思うことはあるのに、心が頷かない。
「会いたい相手に会えて、喜ぶと思っていましたが、違うんですね」
意外だ、という表情に、自分でもそう思う。
会いたい人に会えるって、思えば、超嬉しいはずなのに。
会いたいと思う気持ちが、まったくないわけじゃない。
会いたい相手が、好きな子とは限らない。
そうだよね。
会えるなら会いたいって気持ちは、本当だよ。
幸せで、楽しかったのに、別れは悲しくて、それ以外にもっとあったはずだけど。
上手く思い出せないところが、沢山ある。
ザリザリとする感覚が、これ以上深く潜り込むことを引き止めていた。
その感覚を深追いしたくなくて、俺は、よくわからない、と答えた。
その明かりを見ていたくなくて、扉を締めた。
だって本当にわからないんだよ。
しっくりくるフレーズが見つからないんだ。



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甚だ捏造をしています。
正直、施設のお兄さんお姉さんと、音也の絡み凄く見たいと思ってます。
カンちゃんと大ちゃんって固有名詞が出てきているだけで色々考えてしまいますね。