「何て顔をしてるんだ、兄さん。眉間にシワの跡着いちまうぜ」
「お前こそ、ライル。そんな面しやがって」
「まあ…あがってけよ。いつも通りにさ」
「そうさせてもらう。お邪魔します」
「ただいま、だろ?」
「なあ」
「ん?」
「来月もさ、来てくれるんだよな?」
「来るよ。どうしたんだ急に………って訳でもないか」
「それって24日とか25日とか、そういう日じゃダメなのか?」
「ダメなんだよ、ライル」
「でも日にちなんてあんなの適当に決めたんだろ?」
「日にちはな」
「……」
「ごめんな。でもここを変えたら、多分すべてがズルズル、ズルズルお前を巻き込んじまう」
「構わないよ巻き込んでくれても。家族だろう?それに、何が起ころうと少しも変じゃない」
「壊れたままの状態にしておくと、それが普通になって、でも、それはやっぱり、壊れたままなんだ」
「まあ、納得なんてしてないけど、でも兄さんを困らせたい訳じゃない」
「ライル…」
「……さっきまでこれを書いていた」
「手紙?」
「いつかあんたが俺にくれた手紙の返事だ。……正直、書きかけだし、書いたことを後悔しているような内容だけど、嘘じゃないからもう、渡しておく」
「今読んじゃダメか」
「それはやめてくれ死にたくなる」
「それは大変だ」
「……本当は」
「ああ」
「…困らせたい訳じゃない、っていう訳じゃないんだ。駄々をこねて困らせて、そうしてズルズルと引き留めておきたい」
「ああ」
「だけどさ、あんたは俺を十二分に愛してくれた」
「うん」
「そんな人を困らせるのってさ、恩を仇で返すようなものだろう?」
「…ライル」
「なん……、」
「……初めてだな、キスなんて」
「ああ」
「俺は冷たかっただろ?こればっかりは、どうにもならなかったんだ」
「そういうこと言うなよ」
「でも。ライルがくれた万年筆も、半額セールなんて言って用意してくれたレーズンスコーンも、本も、ライターも…」
「……」
「薄味のシチューも…それが温かくて、俺は凍えずにすんだんだ。ありがとう」
「じゃあ、来月はさ……何か作っとく」
「ははっ、そりゃ楽しみだ!」
「あー…でも、あんまり期待はしないでくれ…作るって言っても多分シチューと何か、くらいだから…」
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