クリスマス!
2010-12-24 23:59
ニールとライル
Time to say goodbye
「ようこそ。サンタクロース。何にも頼んでないからとっとと帰れ」
「あーっちょ、待て待てライル!」
「…で、途中の緊急停止で1日遅れたために今日に至るわけだな?最後の最後にやりやがる」
「あわてん坊だったのさ」
「ところで。そんな急遽変更なんて聞いていなかった俺はというと、兄さんはもう来ないかと思い用意した料理を無駄には仕舞いとこうしてひたすら食い続けていたわけだ」
「って主にアルコールだろ」
「馬鹿兄」
「いやいや。うまそうだなチキンにシチュー!」
「流石にもう無理だ。バトンタッチ」
「うっし、まかせとけ」
「………」
「ん?俺の顔に何か付いてる?」
「いーや。よく食うなあ、と思って。兄さんもしかして大食い?」
「いや、さ。お前とクリスマスイブに食卓囲むなんて想像もしてなかったから、つい嬉しくて」
「うわ…あれだけの量全部食ったのかよ…どこに収まるんだ?その体の」
「ん?いい匂いだな」
「ほれ。食後のコーヒー」
「はは、懐かしい…クリーム、お前が泡立てたのか?」
「慣れないもんで苦労したんだぜ?キッチンは惨状さ。多分な」
「クリームは、既製品もあるんだよ」
「そうなのか?」
「冷凍されたやつ。でも、うん、こっちのがいいな」
「………」
「ふは〜」
「風…強くなってきてるな」
「そうだな…こんなに風の音が聞こえるなんて初めてだ」
「俺が来るときはこんなに風は吹いてなかったけど…」
「いくなって思っている俺の心情の現れかな?」
「何だ?ライル。今そんなこと思ってるのか?」
「思ってたら?」
「じゃあこの風はお前の気持ちだって全身に受け止めながらいかなきゃな」
「はいはい。嘘ですよ」
「もしくはだな」
「何だい?」
「いきたくないって俺の心情が風を強くしているのかも知れないぞ?」
「………」
「と、なるとどんどん強くなる風で押された扉は開かない」
「開くさ」
「ありゃ、あっさり言うのな」
「いくんだろう?」
「ま。そうなんだけどさ」
「……アイリッシュに関しては母さんより父さんの方が作るの上手かったっけ?」
「だな。昔…雪の降る日だっけ?父さんが作ってくれたよな。ライルと俺にこっそりとさ」
「母さんにいうとウイスキィは駄目!だったっけ」
「それだ。そもそも父さんのコーヒーの懲り方には呆れてたんだよ、母さん」
「父さんのコーヒーと母さんの作るマフィン…」
「そしてエイミーの虫歯」
「はははっ」
「…なあ。ライル」
「甘いものでも食べたくなったのか?」
「よくぞお分かりで」
「何が欲しい?」
「コーヒーにはマフィンだろう?…オレンジかなこの匂いは」
「最後に一つだけ聞いておきたいことがある」
「何?」
「兄さんはさ、幸せだったか?」
「……そうだなあ」
「家族もいた。仲間もいた。…多分、幸せだったよ。後悔したことも憎んだものもあるけどさ、生まれたこと生きたことに後悔はなかった。それだけでも十分幸せなんだ」
「俺みたいなのがかわりに生きていても?」
「そっちが本当は聞きたかったんだろう?」
「…あんたは俺を支え続けてくれたのに、俺はあんたに何もしてやれなかった」
「…なあ、それは違うよライル。俺はな、お前が生きていることが救いだった。本当にそう思ったんだぜ?」
「……」
「何故テロは俺達の居るところで行われたのか。テロが憎い。それを引き起こす紛争の火種から全て。それに無関心でいた自分。何で一人あの場で生き残ったのか。憎むばかりの自分に嫌気がさすことも何度も何度もあった。そういうときはさお前の事を考えた」
「恨まなかったのか?俺は家族の死すら、過去の事にした。俺は誰の死も、あんたの死すら嘆くことは出来なかった」
「それでも。お前が生きていることの方が嬉しい」
「俺は兄さんがわからないよ。何故そうもいい切るんだ?何で俺が何も知らずに生きていることを恨まなかったんだ?」
「何でだろうな」
「蠍だよ、あんたは」
「?」
「死の間際に自分ではなく他人の事を考えたんだろう?」
「…ああ。読んだんだったな。でも他人の事じゃない。何時だって俺は家族の事しか見ていなかったんだよ」
「家族でもそれは兄さんではないんだ」
「俺はな、ライル。独りではとてもじゃないが生きていけるたちじゃなかったんだ。それに。誰かの為に、はな本当は臆病者の常套手段さ……」
「……コーヒー、まだいるか?」
「ん。もう一杯」
「手紙、読んだよ」
「…う」
「俺の死を嘆かなかったってさっきいってたろ、お前。でも何で会いに来てくれなかったのかって、お前が俺を恨んだんだよな?」
「あー…」
「お前は本当に死を歎かなかったのか?」
「……」
「お前は俺に気を使ったんだろう?父さんたちの死を目の当たりにした俺にさ。あの時、あの場所にいることの出来なかったその事を。共有出来なかった事を」
「……」
「そしてお前はただ、悲しいときにそれを共に悲しみ慰めてもらうことを諦めたんだ」
「……」
「彼女からそれを教えてもらったんだろう?」
「……降参。アニューをだされちゃあな」
「言っちまえよ。どうせ目の前にいるヤツはさ、それを聞いてももう、何も出来はしないんだからな」
「……いうなよ。寂しいじゃないか」
「うん」
「…側から誰かがいなくなることには馴れたくない」
「うん」
「人は移り変わるっていうけどさ…出来ればずっと一緒に居たい」
「うん」
「恋人や友人にはさ、それは強要できないけどさ」
「うん」
「家族はさ、何時までたっても家族じゃないか…っ」
「うん」
「何で居なくなったんだよ、誰も、皆…っ、何で置いていったんだ…っ!!」
「ごめんな」
「あやまんなよこのアホんだら!」
「でもそう言ってもらえたことが嬉しいからさ、ごめんな」
「すげぇ殴りたい」
「殴るか?」
「いや、いい。殴るんだったら前置きで言わずにぶん殴って、それから俺も殴ってもらうが、っ!!!……〜〜って何で人が喋ってるときに殴るんだよ舌噛むだろうが!」
「あ。悪ィ悪ィ。で、ほら、おアイコ」
「はぁ…クリスマスイブに殴り合い……あれだな、クリスマス成功しなかった事例だ、なっ!!」
「〜〜〜あってぇ!!クリスマスイブにうっかり別れたタイプなのかお前っ!?」
「いや。むしろクリスマス一週間前に別れるタイプだ」
「…そ」
「ありがとな。何だかスッキリしたよ」
「これからも頑張れよ」
「土産話待ってろよ」
「待ってるよ、ずっと。……じゃあ、それそろ行くっかなぁ」
「ああ、もうイブも残すところ15分か……ってか、この時計ちゃんと動くのか!?初めて見たきがする…」
「や。そもそもそんなところに時計なんてなかったろ?」
「あれ?そうだったか?まあいいや。そういう所だしな」
「思い浮かべれば何でもそこにあるもんな」
「でもシチュー今日も、前のもちゃんと俺が作ったんだぜ。……まあ、材料はいつの間にかあったんだけど」
「生クリームも既製品があるなんて知ってりゃそっちだったんだろ?」
「……まあ、過ぎたことさ」
「なあ。見送りしてくれるか?」
「玄関までならな」
「いいよ。それでじゅうぶん………、ところで俺達『いってらっしゃい』とか『行ってきます』って言ったことあったっけ?」
「昔はいっつも二人で飛び出してたし……あ。俺が寄宿舎に帰るとき……はいっつも兄さんはふて寝してたっけ?」
「……何かに付けては見送りを拒んでたな、うん…」
「じゃあ…」
「ライル」
「?」
「…幸せに、な」
「…有り難う」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
close.
「ようこそ。サンタクロース。何にも頼んでないからとっとと帰れ」
「あーっちょ、待て待てライル!」
「…で、途中の緊急停止で1日遅れたために今日に至るわけだな?最後の最後にやりやがる」
「あわてん坊だったのさ」
「ところで。そんな急遽変更なんて聞いていなかった俺はというと、兄さんはもう来ないかと思い用意した料理を無駄には仕舞いとこうしてひたすら食い続けていたわけだ」
「って主にアルコールだろ」
「馬鹿兄」
「いやいや。うまそうだなチキンにシチュー!」
「流石にもう無理だ。バトンタッチ」
「うっし、まかせとけ」
「………」
「ん?俺の顔に何か付いてる?」
「いーや。よく食うなあ、と思って。兄さんもしかして大食い?」
「いや、さ。お前とクリスマスイブに食卓囲むなんて想像もしてなかったから、つい嬉しくて」
「うわ…あれだけの量全部食ったのかよ…どこに収まるんだ?その体の」
「ん?いい匂いだな」
「ほれ。食後のコーヒー」
「はは、懐かしい…クリーム、お前が泡立てたのか?」
「慣れないもんで苦労したんだぜ?キッチンは惨状さ。多分な」
「クリームは、既製品もあるんだよ」
「そうなのか?」
「冷凍されたやつ。でも、うん、こっちのがいいな」
「………」
「ふは〜」
「風…強くなってきてるな」
「そうだな…こんなに風の音が聞こえるなんて初めてだ」
「俺が来るときはこんなに風は吹いてなかったけど…」
「いくなって思っている俺の心情の現れかな?」
「何だ?ライル。今そんなこと思ってるのか?」
「思ってたら?」
「じゃあこの風はお前の気持ちだって全身に受け止めながらいかなきゃな」
「はいはい。嘘ですよ」
「もしくはだな」
「何だい?」
「いきたくないって俺の心情が風を強くしているのかも知れないぞ?」
「………」
「と、なるとどんどん強くなる風で押された扉は開かない」
「開くさ」
「ありゃ、あっさり言うのな」
「いくんだろう?」
「ま。そうなんだけどさ」
「……アイリッシュに関しては母さんより父さんの方が作るの上手かったっけ?」
「だな。昔…雪の降る日だっけ?父さんが作ってくれたよな。ライルと俺にこっそりとさ」
「母さんにいうとウイスキィは駄目!だったっけ」
「それだ。そもそも父さんのコーヒーの懲り方には呆れてたんだよ、母さん」
「父さんのコーヒーと母さんの作るマフィン…」
「そしてエイミーの虫歯」
「はははっ」
「…なあ。ライル」
「甘いものでも食べたくなったのか?」
「よくぞお分かりで」
「何が欲しい?」
「コーヒーにはマフィンだろう?…オレンジかなこの匂いは」
「最後に一つだけ聞いておきたいことがある」
「何?」
「兄さんはさ、幸せだったか?」
「……そうだなあ」
「家族もいた。仲間もいた。…多分、幸せだったよ。後悔したことも憎んだものもあるけどさ、生まれたこと生きたことに後悔はなかった。それだけでも十分幸せなんだ」
「俺みたいなのがかわりに生きていても?」
「そっちが本当は聞きたかったんだろう?」
「…あんたは俺を支え続けてくれたのに、俺はあんたに何もしてやれなかった」
「…なあ、それは違うよライル。俺はな、お前が生きていることが救いだった。本当にそう思ったんだぜ?」
「……」
「何故テロは俺達の居るところで行われたのか。テロが憎い。それを引き起こす紛争の火種から全て。それに無関心でいた自分。何で一人あの場で生き残ったのか。憎むばかりの自分に嫌気がさすことも何度も何度もあった。そういうときはさお前の事を考えた」
「恨まなかったのか?俺は家族の死すら、過去の事にした。俺は誰の死も、あんたの死すら嘆くことは出来なかった」
「それでも。お前が生きていることの方が嬉しい」
「俺は兄さんがわからないよ。何故そうもいい切るんだ?何で俺が何も知らずに生きていることを恨まなかったんだ?」
「何でだろうな」
「蠍だよ、あんたは」
「?」
「死の間際に自分ではなく他人の事を考えたんだろう?」
「…ああ。読んだんだったな。でも他人の事じゃない。何時だって俺は家族の事しか見ていなかったんだよ」
「家族でもそれは兄さんではないんだ」
「俺はな、ライル。独りではとてもじゃないが生きていけるたちじゃなかったんだ。それに。誰かの為に、はな本当は臆病者の常套手段さ……」
「……コーヒー、まだいるか?」
「ん。もう一杯」
「手紙、読んだよ」
「…う」
「俺の死を嘆かなかったってさっきいってたろ、お前。でも何で会いに来てくれなかったのかって、お前が俺を恨んだんだよな?」
「あー…」
「お前は本当に死を歎かなかったのか?」
「……」
「お前は俺に気を使ったんだろう?父さんたちの死を目の当たりにした俺にさ。あの時、あの場所にいることの出来なかったその事を。共有出来なかった事を」
「……」
「そしてお前はただ、悲しいときにそれを共に悲しみ慰めてもらうことを諦めたんだ」
「……」
「彼女からそれを教えてもらったんだろう?」
「……降参。アニューをだされちゃあな」
「言っちまえよ。どうせ目の前にいるヤツはさ、それを聞いてももう、何も出来はしないんだからな」
「……いうなよ。寂しいじゃないか」
「うん」
「…側から誰かがいなくなることには馴れたくない」
「うん」
「人は移り変わるっていうけどさ…出来ればずっと一緒に居たい」
「うん」
「恋人や友人にはさ、それは強要できないけどさ」
「うん」
「家族はさ、何時までたっても家族じゃないか…っ」
「うん」
「何で居なくなったんだよ、誰も、皆…っ、何で置いていったんだ…っ!!」
「ごめんな」
「あやまんなよこのアホんだら!」
「でもそう言ってもらえたことが嬉しいからさ、ごめんな」
「すげぇ殴りたい」
「殴るか?」
「いや、いい。殴るんだったら前置きで言わずにぶん殴って、それから俺も殴ってもらうが、っ!!!……〜〜って何で人が喋ってるときに殴るんだよ舌噛むだろうが!」
「あ。悪ィ悪ィ。で、ほら、おアイコ」
「はぁ…クリスマスイブに殴り合い……あれだな、クリスマス成功しなかった事例だ、なっ!!」
「〜〜〜あってぇ!!クリスマスイブにうっかり別れたタイプなのかお前っ!?」
「いや。むしろクリスマス一週間前に別れるタイプだ」
「…そ」
「ありがとな。何だかスッキリしたよ」
「これからも頑張れよ」
「土産話待ってろよ」
「待ってるよ、ずっと。……じゃあ、それそろ行くっかなぁ」
「ああ、もうイブも残すところ15分か……ってか、この時計ちゃんと動くのか!?初めて見たきがする…」
「や。そもそもそんなところに時計なんてなかったろ?」
「あれ?そうだったか?まあいいや。そういう所だしな」
「思い浮かべれば何でもそこにあるもんな」
「でもシチュー今日も、前のもちゃんと俺が作ったんだぜ。……まあ、材料はいつの間にかあったんだけど」
「生クリームも既製品があるなんて知ってりゃそっちだったんだろ?」
「……まあ、過ぎたことさ」
「なあ。見送りしてくれるか?」
「玄関までならな」
「いいよ。それでじゅうぶん………、ところで俺達『いってらっしゃい』とか『行ってきます』って言ったことあったっけ?」
「昔はいっつも二人で飛び出してたし……あ。俺が寄宿舎に帰るとき……はいっつも兄さんはふて寝してたっけ?」
「……何かに付けては見送りを拒んでたな、うん…」
「じゃあ…」
「ライル」
「?」
「…幸せに、な」
「…有り難う」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
close.