さくさくっと本編へ。
「奴は何者だ……?」
見知らぬ男と自分の姪が闘っている場所から1km程離れた大きな洋館。その中の部屋に監視カメラ越しの映像で闘いを眺める初老の男、セルゲイ・ヴィルボルフスがいた。
(ふむ……協会のリストにあの男は載っていない。それどころか他のどの組織にも……)
「"彼"の事なら調べても無駄だよ?セルゲイ教授。僕が足取りを掴めない位だからね。」
「……相変わらず神出鬼没ですな。ドアがあるのですからノックして頂きたいものです。」
セルゲイは後ろにいた人物に振り返りながら答えた。
「まぁまぁ、僕と教授の仲じゃないか。それに僕が技術提供をしたんだし心配なんだよ?教授の"作品"が。」
セルゲイと話しているのは姪よりも更に年下にしか見えない少女だった。
青い髪に青い瞳、フリルのついた白いドレスを着た自分を"僕"と呼ぶ10歳位の少女。
しかし、その小さな身体からは想像つかない程の血の臭いがする。
「その臭い……また、私の合成獣達を?」
セルゲイは非難めいた口調で少女に言い放つ。少女の正体を知っているので警戒を緩めない。
「フフッ、今までで一番良い出来だよ?とても楽しめたからね……あぁ、すっかり話がずれた。あの男には手を出さない方がいい。アイリスよりも遥かに強いよ?」
少女は年相応の笑顔で嬉々と語るが画面に写る男に目を配りながらセルゲイに忠告した。
「何を馬鹿な……奴から検出された魔力量はアイリスの1/10にも満たないのですぞ?貴方達が足取りを掴めないのは貴方達の怠慢ですよ。」
そのセルゲイの嫌味のこもった台詞に少女は怒りを出さず、寧ろ嬉しそうな表情を浮かべた。
「へぇ……言うね。なら教授のアイリスの実力、見せてもらうよ?」
少女の問いかけにセルゲイは自信を持って答えた。
「……何者であろうと関係ありませぬ。さぁ、アイリス。その愚か者をお前の力で消してやるのだ……。」
(ここも潮時……今回も僕の負けだよ。)
セルゲイが再び振り返った時、既に少女はいなくなっていた。
◇
(全く、仕方がないか……)
自らの決意を告げる目の前の女に男は気付かれない位のため息を漏らす。それは説得が失敗したせいもあるが、男は何よりもこういった人間が好ましかったので出来れば闘いたくなかったという理由の方が大きかったりする。
「……そうか、君にも退けない理由があるんだな。だが、時間はない。俺も退く訳にはいかない。"叔父様"とやらの場所……教えてもらう!」
「なら……やってみろ!」
アイリスの掛け声と共に放たれた火球から闘いの第二幕が始まりを告げた。