お兄ちゃんから離れる…
それも私にとっては苦しい選択だった。
私は好きだったんだ。何をされてもいいほど、好きだったんだ。
私がこんなにも人を思ったことは、過去現在を通じても無い。
ただ一人…そう、ただ一人だったんだ。
私が私以外に身を委ね、心を開き、執着したのは…
そして時は流れ…私は結婚した。
その頃には、私も冷めたもので、結婚は仕方ないからする。
でも、そう…お兄ちゃんも言っていたではないか。「血の繋がりほど強いものは無い」と。
何よりも強い、私とお兄ちゃんの絆…私は、その言葉を信じて結婚した。
そう、せめて…お兄ちゃんに花嫁衣装だけは見せたいと、したくもない式までやった。
でも…
その日、お兄ちゃんは来なかった。
お兄ちゃんの為だけに着た花嫁衣装をお兄ちゃんは見てくれなかった。
コレは軽いショックだった。
そして、コレがまた私を悩ませた。
何故、お兄ちゃんは来なかった?
私が他の男に嫁ぐのを見たくなかったから?
それとも見る価値がなかったから?
私の頭はハテナでいっぱいだった。
男の人の気持ちは、よく分からない。
お兄ちゃんの気持ちも、よく分からない。
でも…もしかしたら私は、大きな間違いをしでかしたのかもしれない。
取り返しのつかない過ちを…
しばらくは、それで良かったんだ。
ちょっと度は過ぎるかもしれないが、私とお兄ちゃんは仲良く、そして私は、お兄ちゃんと居る時だけが幸せだった。
(コレは後に、ちょっとどころじゃなく、彼氏彼女のスキンシップ並みだと判明する…)
だが、私は知ってしまった…
私は、お兄ちゃんと結婚出来ないということを。
それからの私は、悩んだ。
お兄ちゃんは相変わらず優しい。が、その優しさが逆に私を悩ませた。
お兄ちゃんの優しさは、あの日の贖罪なのではないのか?
あの日…お兄ちゃんは既に、私と結婚出来ないことは知っていたはずだ。では、アレはなんだった?
愛情表現でないのなら、アレはなんだ?
私は、あの日、お兄ちゃんに弄ばれただけではないのか?
私は、汚されただけではないのか?
私は苦悩した。
大好きなお兄ちゃん…
私は、お兄ちゃんをそんな風に思いたくなかった。
「僕のお嫁さん」…その言葉に嘘はないと信じたかった。
でも…
私は、お兄ちゃんから離れる選択をした。
お兄ちゃんをこれ以上、苦しめたくなかったから…
そして、何より、私がこれ以上、苦しみたくなかったんだ…
あの日以来…しばらくは、夜が怖かった。
「お兄ちゃんと一緒に寝たくない!」と駄々をこねた事もある。
だけど、あの日以来、お兄ちゃんは何もしてこなかった。
お兄ちゃんも怖かったのかもしれないな…
駄々をこねるということは、私がその日のことを覚えているということだから…
私は、あの日のことを誰にも言わなかった。
お兄ちゃんにも、あえて聞かなかった。
いつものように、振る舞い…いや、いつも以上にお兄ちゃんにベッタリしていたかもしれない。
そして、何度もお兄ちゃんに確認するんだ。
「大きくなったら、お嫁さんにしてくれる?」って。
そして、その問いに、お兄ちゃんは答えるんだ。
「らいむは僕のお嫁さんだよ。」って。
そう…私は安心したかったんだ。
お兄ちゃんに汚された私は、もうお兄ちゃんのとこにしかお嫁に行けない。
そうすれば、私はキレイなままだ。
早いか遅いかだけ。
順番が逆になっただけ。
そう…お兄ちゃんのお嫁さんになれば、万事上手く納まる。
そう信じるしかなかった…
私が私であるために。
私が壊れてしまわないために…
すごく小さい頃の夢…それは、お嫁さんになることでした。
純白の衣装を着て、バージンロードを歩く…それが夢。
でも、その夢に辿り着くには、私は清く美しい女性にならなければならないと思っていました。
でも…その夢は壊れてしまった…
幼稚園の時に…
あの日の夜…私の夢はガラガラと崩れてしまった。
当時は、何をされているかも分からなかった。
いつも優しいお兄ちゃん(一番下の叔父)…
驚きと恐怖が私の身を包み、私は私が汚されたと感じた。
でも、大好きなお兄ちゃんを守るため、私は泣かなかった。泣いたら、お兄ちゃんに会えなくなると思ったから泣かなかった。
私以上に、お兄ちゃんを守りたかった…
いや…それは誰の為でもなく、私の為だ。
今なら分かる…私は、唯一、私を甘えさせてくれる場所…私を傷つけない場所を守るために泣けなかったんだ。
優しいお兄ちゃん…賢くて、カッコイいお兄ちゃん…憧れのお兄ちゃん…
私が私のままで居られる場所…
私を見てくれるのは、お兄ちゃんだけだった。
両親は私を見てはくれない…
私には、何をされても…どんなに怖くてイヤなことでも…お兄ちゃんが必要だったんだ…
※お兄ちゃんは父の異母兄弟で、私より九つ年上です。