衝動的にstarletの切れ端を。
薬パラ忘れてませんよ!
書きたいんですが、最初のネタ帳が部屋の中で行方不明に…っ。←だからあれほどこの休みの間に片づけておけと…
あー、ファイル買ってこないと。
ルルは10歳です。
***
余りにも唐突な話に、僕は驚きを隠せなかった。
「へ?ルル、今何て…?」
「だから、ボク、中学は通う。もう神楽耶姉さんとナナリー様には言ってあるし、手配も出来てるって」
「僕、一度もそんな事聞いてないよ…?」
そう、それは正に青天の霹靂。
何となく、ルルは余り外に出ないしこのまま通信とかで学位を取るのかなと思っていたから、僕はただただ呆然と彼を見つめた。
「勿論だ。今初めて言った」
一方のルルといえばまるで大人見たいに落ち着いた態度で、僕が作ったホウレンソウのお浸しを上手に箸を使って食べている。
いやいや、今はそんな状況じゃないでしょ。
「え、でも小学校は行かないって」
「小学校『は』だ、スザク。別に中学校も行かないとは言っていない」
「そうだけどさ」
分かってはいるけれど、こう、言葉に出来ないモヤモヤがあるんだって。
「でもさ、そういう事は最初に僕に言ってほしかったな」
「だがここ一年ほどスザクはゼロで忙しかっただろ」
「確かにそうだけど、ルルの話を聞くぐらいは出来たよ」
「…それはすまなかった」
ルルは、ルルーシュと違ってちゃんと謝れる子だ。
僕がそういう風に躾けてきた。
いや、正しくは皆か。
ルルが言う通り、ここ数年間は平和過ぎた故に小さなテロや、暴動が起きるようになっている。
正直正念場なのだろう。
ルルーシュも生前に言っていた。
「いいよ、気にしないで。ただちょっとだけショックだっただけだから」
「次は、…努力する」
「努力ね…。うん、まぁ、期待してる」
そしてルルーシュと違う所がもう一つ、ルルは嘘も極力言わない。
嘘吐きは何よりいけない事と、強く教えてある。
…僕が約束を守れなかった事は、何度かあるけれど。
それでも最初から無理な約束は極力しない様にしているし、僕の仕事の不安定さを知っているルルは、納得してくれているからまぁいいだろう。
今は、ルルの事だ。
「で、手配は済んでるってどこの中学に行くかとか聞いてるの?」
「あぁ」
初めての学校だというのに薄い反応だなぁと一瞬思ったけれど、直ぐにそれは違うのだと分かった。
「昔ナナリー様が通った、アッシュフォード学園、だって」
ほんの少し色づいている頬。
ちゃんと見ていれば分かる、彼の表情の変化。
ルルーシュよりもずっと素直なルルは、冷静にしているつもりでもそれなりに感情が顔に現われていた。
けどそれよりも、
「アッシュフォード、学園…」
予想はしていたけれど、いざその名前が出されると息が少し詰まった。
まるで胸にこれ以上ないほど重りを載せられ、首を、気管支を締められてるみたいな。
それが錯覚だと分かっていても、息苦しさは変わらない。
「…スザク?」
「ううん、何でもないよ。ただ、懐かしいなぁって」
「スザクも通ったんだって?ナナリー様と、えっと、ミレイさん?が言ってた」
「ミレイさんね、知ってるよ。そう、通ったといっても1年ぐらいしか行けなかったけどね」
在学としては2年間になっているけれど、実質は半分も行けていなかった学生生活。
それもその貴重な半分の内の大半は、思いだすだけで頭が痛くなる様な暗黒の日々で。
正直、ルルに語れるような思い出など片手で余るぐらいしかない気がした。
「そう、なのか」
「でもとても楽しかったよ。ミレイさんが学園に戻ってるなら、相変わらず凄い行事とかやってそうだね」
ルルは聡い。
僕の心の中の闇に敏感に反応して、楽しげな表情を改めてしまう。
そんな彼に、僕はごめんね、と心の中で謝るしか出来ない。
良い年の大人なのに、ほんとうにごめんね。
「でもそこなら良かった。僕も安心だよ」
「そうか」
にっこりとほほ笑んであげれば、ルルは小さく息を吐く。
心配させてしまったかな、後で思いっきり甘やかしてやらないと。
「あー、でも毎日ルルと一緒にいられなくなっちゃうのは寂しいなぁ」
「子離れも大切ですよって、神楽耶姉さんに叱られるぞ」
「もうそれは聞きあきてるから大丈夫」
それは冗談のつもりだろうけれど、正直彼女に会う度に言われている。
ルルをないがしろするなら許しませんわよ、とか、いつだって私引き取る用意は出来ているんですのよ、とか。
思いだすだけで恐ろしい。
「馬鹿」
ルルは知らないから笑って流すけど、いや、本当に怖いんだよ神楽耶は。
だからといって彼に告げ口をするほど僕も幼くはないので、馬鹿は酷いなぁといって笑っておいた。
心の奥が甘く疼くのに、そっと蓋をしながら。
「じゃあ、学校説明会とか一回行く?」
「あぁ、もうそれ予定立てているんだ」
「えぇ!?」
「当日、最初はナナリー様が行くって言っていたけど神楽耶姉さんと一緒に丁重にお断りして」
「あぁ…」
ナナリーも神楽耶と同じ、いやそれ以上にルルを大切にしている。
時々神楽耶は何か言いたげにしているが、あえて何も言わない所を考えると僕と同じ事を思ってるのかもしれない。
ナナリーもまだ、僕と同じようにルルーシュに囚われているから。
彼が亡くなってからもう短くない時が経っているというのに、不思議と彼の気配は薄まる事はない。
それはナナリーもきっと同じだろう。
何より一番彼に大切にされ、愛されたのは彼女なのだから。
別に過去に心を馳せる事自体悪いわけではない。
今の彼女はちゃんと前を向いている。
ただ、ルルを見る目は時にルルーシュと同じで。
僕が気付く位だ、神楽耶だって知っているだろう。
でもお互い何も言わない。
それがルルの為にならないと分かっていても、彼女に言う事が、出来ない。
人の心は、難しいねルルーシュ。
どれだけ自分が人の気持ちに無頓着だったのか、今になってとても思い知らされるよ。
「で、その様子だと神楽耶でもないんだよね?」
「神楽耶姉さんも、有名人だからね。一応、カノンさんって事になってる」
確かに、その人選なら悪くはない。
シュナイゼルさんも有名すぎるし、ロイドさんはそういうのに不向きだ。
セシルさんは、今でも十分忙しいからまず不可能だったのだろう。
それでもカノンさんか…。
「で、それは何日?」
「え?」
「空いてる日、というか空けれる日なら僕が行くよ。というか、普通なら僕が行く所でしょう、それは」
「確かに、そうだが」
ルルは、大きくなるほど僕に対して色々と遠慮がちになってきた。
それは周りを見れるようになった成長といってもいいのだろうけれど、僕は、少し違和感を感じている。
上手く言葉に表現できないけれど、端的に表すならば『嫌な感じ』だ。
僕が嫌に感じるというわけじゃない。
むしろ楽ではあるけれど、でも、これではいけないと僕の頭は警鐘を鳴らしているのだ。
このままではいけない。
このままだと、壊れてしまう。
それは、ずっと昔に二度感じた衝動だ。
一度目は衝動のままに動いて、酷く後悔した。
二度目はその過去が苦しくて、怖くて、無視した結果、後で一回目以上に絶望を齎した。
だから、これは無視してはいけないのだ。
とはいえ、感情のままに動いてもいけない。
難しいけれど今まで生きてきたのだから何とか今回は、今回こそは乗り越えたいと思う。
ルルが独りでこっそり泣いてるのを他人から教えられるのは、もう嫌だから。
「8月。8月○日だ」
「ちょっと待ってね。お行儀悪いけど、スケジュール帳見てくる」
「別に、後でも」
「だって早く知りたいもん。動かせる仕事なら早めに動かすに越した事はないし」
「いや、そんな無理しなくても」
ルルが焦るのを感じる。
そんなに心配しなくても良いのに、本当に優しい子だ。
僕は彼の頭を一撫でしてから立ち上がり、居間のソファに置きっ放しにしていた上着へと向かった。
そして内側の胸ポケットに入れていたスケジュール帳を取り出して、教えてもらった日にちを確認する。
「ランスロットの動作確認だけか。それなら一日動かすぐらい大丈夫かな」
暑さ厳しい日本では、夏の暴動は余り起こらない。
どうか何も起こらない事を願うばかりだ。
「うん、僕行けるよ。カノンさんはもしも用って事で僕から伝えておくね」
「へ…」
「あ、それとも…。僕が行くの、嫌だった?」
全てが終わってから伝えられるくらいだ、もしかしたらルルはもう反抗期に入っていたのだろうか。
言ってから遅いと思ったが、はっとした僕は焦った。
どうしよう、でも説明会でルルが他の人と行くのは主保護者として嫌だと悩んでいると、ふふと笑い声が。
「いや、嫌じゃない。ただ最近スザクが忙しそうだったし、休みの日も家でゆっくりする事が多かっただろ。だから俺の事なんかで外に連れ出すのは悪いと思ったんだ」
とても小学生が言う様な事じゃない内容に、僕の小さな心臓はぎゅっと更に縮こまる。
やっぱり寂しい思いをさせてしまったんだ。
今度からはもっと外に連れ出さなきゃ、暑さは苦手なら水族館や博物館でも良いかもしれない。
何とか表情に出さない様気を付けながら、僕はとても落ち込んだ。
それはもう、色々と。
「でも一緒に行けるなら、楽しみにしてる」
年相応の、笑う表情はとても可愛い。
そんな顔をいつまでもしていられる様に頑張る、と誓ったはずなのになぁ。
もっと精進しよう。
「僕も、楽しみだな」
兎に角なるべく仕事が溜まらない様今は頑張ろう。
新たに決意して、僕はもう一度食卓に戻った。
冷えたお味噌汁は少し塩辛かったけど、今の僕にはちょうどいいだろう。
ルルーシュだったら、こんな思いをナナリーにさせた事はなかったんだろうな。