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芽生えるstarlet

そもそも『君』は嘘吐きだから。
たとえ僕の誕生日を覚えていたとしても、きっと自分からは祝ってなんかくれないんだろう。
ナナリーが。
生徒会の皆が。
そういう大義名分があってやっと動ける人だから。
「僕は、知ってるから」

だから、君の声がなくても。

僕は今日を生きられる。



芽生えるstarlet


朝、日めくりを破って気付いた、七月十日という日。
それは僕が生まれた、生まれてしまった日。
そういえば午前中に何度か携帯が鳴った気がするけれど、仕事関係のメロディーではなかったから全て無視してしまった。
昔だったら、絶対そんな事しなかったはずだけど。
年をとったせいなのか、それとも。
「…ルル、帰って来ないな」
昨日、学校が終わって少し経ったぐらいの時間にルルから来たメールは、友達の家に泊まるという内容で。
もしかしたら土日もそこで過ごすかも、と書いてあった。
「僕の誕生日、忘れちゃったのかな」
祝ってなんて図々しい事を言うつもりはない。
というか、僕自身から彼に自分の誕生日を教えた事自体ないのだ。

『枢木スザク』は、ルルーシュ・ランペルージ、いやルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとともに死んだ。

だから『僕』には、生まれた日など存在しない。
屁理屈だと分かってはいるけど、そうでも思わないとルルーシュを忘れてしまいそうで。
最愛は揺らがないはずなのに、時間とは恐ろしいものだ。
最近僕が一番最初に思いだす笑顔は、どこか皮肉めいた、少しおしゃまな猫っぽいのものではなくて。
どこか寂しげで、けれど真っ直ぐ嬉しいという感情を表した、彼の。
「…違う。いや、違わないけど、そうじゃなくて、違う、違うんだ」
考えると何だか恐ろしくなって、僕は思わず目を閉じた。

死にたい、消えたいと思えば直ぐに『彼』が現れてくれるから。

「ルルーシュ。ルルーシュ、ルル」
同じ遺伝子だけど、君達は違う。
何だかんだ僕を助けてくれた人は、いない。
いるのは、僕が助けて、守るべき人。
間違えるな、間違えてはいけない、もう二度と僕は。
「僕が今愛すべきなのは、ルルだ。僕の目の前に居るのも、ルル。だけど一番なのは」

ルルーシュ、君だけだ。

だから、大丈夫。
『君』に祝ってもらえないなら、僕にとってこの日は普通の日となんら変わらない。
そう、執着する方が馬鹿なのだ。
教えてないのに祝ってなんて、そんなの。
「我儘だ」
「誰が、我儘なんだ?」
「へ!?」
自分に言い聞かせる為に呟いていた言葉に、何故か返事があって僕は本当に驚いた。
「…煩いぞスザク。何だ、帰って来なかった方が良かったのか?」
その声は、ルルーシュに限りなく近くて、違うもの。
声が聞こえた背後へと無理やり首を回せば、どこか呆れた表情を浮かべたルルが立っていた。
ルルーシュよりも幾分青白い、彼が。
「そんな事ないよ!!ただ、帰ってきてくれると思ってなかったから驚いたんだ」
「だって、今日は七月十日だろう」
ほら、と右手に持っている白い箱を、何故か僕に差し出してくる。
「え」
そんな事されたら、期待してしまう。
駄目だ、そんなのありえない、でも。
「誕生日、なんだろう?ケーキ、作ったんだ」
ルルは臆面もなく、そう告げた。
「ケーキ」
「日本では、誕生日にケーキがつきものなんだろう?スザクが欲しがりそうなものなんて、俺には分からないから、せめてこれぐらいはって」
少し頬を染めてはにかむその姿は、決してルルーシュだったらしないものだろう。
なのに、その表情がを凄く可愛い。
じんわりと胸を熱くくさせる。
もう二度と誰かによってこの心は震えないと思っていたのに。

どうして、いつの間に。

「…ありがとう、ルル」
「良い年して泣くなよ、スザク。当然の事だろう?俺達家族なんだから」
そう、家族だと思って君を育てていた。
それなのにね、ルル。

僕は今、君にキスしたくなったよ。

ルルーシュにしたかった様な、唇を重ねて、舌を交える様な、感情のままの口付けを。
「ごめん」
「別に、気にしてない。スザクが泣き虫なのは良く知ってる」
「うん、ごめん」




どうしようルルーシュ、本当に僕は君の声なしに生きれてしまうかもしれない

見つからないstarlet

ちょっとお腹の中がきゅっとして。
胃液が増えてるのかじわじわと熱くなった感じと同時に、頭が。
目の奥とこめかみがじんとして、何だか重くなる。
その上頭の中は汚い言葉が沢山飛び交い、今にも喉から零れ落ちてしまいそうだ。

駄目、駄目だ、ばれない様に目を伏せ、俺は口をそっと手で覆う。

自分の体の中で暴れて、傷つける感情を外に出せば。
きっと誰かを傷つける。

『人を傷つける事は、最低な事なんだよ。だから良いかい、絶対そういう事はしちゃ駄目だ』

そう、スザクが言ったから。
だから懸命に俺は押し込めた。
胃の不快感が胸と臍の間ぐらいまでせり上がっきても、知らないふりをした。
大丈夫、大丈夫。
まだ堪えられる、堪えてみせるさ。
これぐらいの気持ちの揺らぎは、慣れているのだから。
「…駄目、だ」
それでも、頭が溢れだして止まらない沢山の言葉達で一杯で。
今にもパンクしそう。

助けて、なぁ、『こっち』を見ろよ。

本当は言いたい。
もっと、甘えてみたい。
でもそんな事をしたら、スザクは顔を顰めるかもしれない。
こんなの『ルル』じゃないって、あの時みたいな表情で言われてしまうかもしれない。
それがどうしようもなく、俺は怖かった。
「………」
たった三文字が、呼べない。
直ぐ近くで新聞を見ているのだから、どんな小さい声でも気付いてくれると分かってるけれど。
不必要に言っていいのか、俺には分からないんだ。
「…ルル?」
そんな時、不意に名前を呼ばれた。
余りにも突然だから俺は思わず、肩を震わせてしまう。
吐いた息が、熱い。
「何だ」
「体調悪いの?顔色、悪いよ」
新聞をローテーブルに置いたスザクが、俺の前髪をかきあげて額に触れる。
黄味が強くて、俺のよりも大きくて骨ばった、手。
普段は自分よりも熱いそれが、何故か今日は同じぐらいに、いや反発しあう様に接点が熱く感じられた。
瞬間、スザクの顔色が変わる。
「ちょ、熱あるじゃないか!?」
ぎょっと、元々大きい目を更に見開いて、スザクが叫ぶ。
あぁ、流石はスザク。
それは見当外れだ。
「そうなのか?分からない」
確かに熱はあるのかもしれないが、これは病的なものなんかじゃない。
お前だって覚えがあるはずだ。
恥ずかしさとかではなく、かぁっと全身の血が熱くなる時が。
俺はそんなに激しく怒ったりはしないから、微熱程度なだけで。
「あぁ、もうルルは本当に自分の体調に無頓着なんだから!立てる?ベッドに行こう」
これはお前が原因なのに。
俺は、お前に腹を立てているんだよスザク。
お前はいつまでも俺を見ないから。
もう今は存在しない幻を追いかけ続けているから。

俺の存在意義を、問い質してやりたいのを無理やり抑えてるから、こうなってるのに。

「…立つ必要性を感じない」
「もう!じゃあ無理やりにでも運ぶからね」
でも、それも直ぐに終りを迎える。
俺の体調を心配する時は、スザクは確かに俺を見ているから。
俺だけの事で実は許容量の少ない頭を一杯にしている様を見れば、不思議な事にこの感情は直ぐに霧散してしまうのだ。
だからきっと、ベッドに着く頃にはもう熱は引いている。
「ほら、ルルおいで」
「子供扱いするな」
本当は直ぐにでも、お前に触れたい。
昔から傍に居てくれたからなのか、スザクの体は俺に安心感を与える。
けれど、理由なく触れて良いのか分からなくて。
「何言ってるの、僕から見たら君は充分子供だよ。ほら」
スザクが俺に向かって手を広げて、許可してもらえないと駄目なのだ。
「はぁ」
あくまで仕方なく、といった顔を作って俺はぎゅっとスザクの首に腕を回して抱きついた。
男として羨ましいぐらいに発達している筋肉は堅いけれど、そこから感じられる温度は、心地良い。

いつまでも、いつかは、俺のものになったらいいのに。

それはきっと、永遠にあり得ないものだと分かっているけれど。
それでも諦められないのは、スザクが言う様に俺が子供だからなのだろうか。
分からない、分かれない。
「ちゃんと捕まっててね」
「ん」

いつになったら、俺はスザクの願い通り、世界で一番幸せになれるんだろう。

密やかなstarlet

某西の御方へ。
原稿頑張ってください。
甘くて甘くなくて甘い話。←

***


変わらないものは何もない。
君が死んでから世界はもっと発展したし、君という存在を忘れ去りつつある。
「それは…、僕もか」
『ルルーシュ』は、紅茶をミルクと砂糖を入れて甘くするのが好きだった。
当たり前だった事を思い出すのに、最近は少し時間がかかるようになってきている。

それは何故か。

「スザク?」
ルルが首を傾げて僕に問う。
あぁ、少しぼんやりしていたかな。
だってびっくりするほどに、僕の中でルルーシュが消えていたんだ。

“彼”が、いつの間にか僕の普通になっていたんだよ。

「ううん、何でもないよ。美味しい、ミルクティー?」
答えは簡単。
頭が良くない僕でも、どうしてかは直ぐ分った。
ルルは砂糖なしで、代わりにロイヤルミルクティーにして飲むのが好き。
それが知らない間に僕の中の普通になっていたんだ。
わざとほんの少し渋く抽出して、たっぷりの牛乳を入れて甘くする紅茶が。
「あぁ。スザクが淹れる紅茶、好きだ」
ふにゃり、と無防備にルルは笑う。
警戒する相手が日常的にいるわけではないから。
守られている事を、彼はきちんと自覚している。

だからルルは、ちゃんと笑える。

それが嬉しくて、泣きたくなるほど切なかった。
「それなら良かった。作った甲斐があったよ」
最近久しぶりに仕事が立て込んでいて、今日はやっともらえた休みの日。
ルルと一緒の時間を過ごして、たっぷりと甘やかしてやろうと思ったのに。
不思議なほどに、僕の気分は落ち込んでいた。

ちょっと、疲れてるのかな。

たまたま過去のゼロの功績について讃える式典に出席したり、何とか戦火を免れて残っていたブリタニアの資料について会議をしてのは、思いのほか僕の精神を削っていたらしい。
ルルが隣に居てくれるのに、彼を通し越して『彼』を思ってしまう。

…無意識に。

「…雨、止まないな」
雨でも楽しめる、美術館か水族館にでも行こうかと提案したけれど、ルルは家の中でゆっくり過ごしたいと言った。
それが彼の本音ではない事ぐらい、流石の僕でも察せられる。
彼は僕に気を遣ってくれているのだ。
『彼』に似てプライドが高いルルだけれど、どうしてかいつも僕の顔色を窺っている。
もっと子供らしく我儘とか言っても良いのに、と思うけれど、僕にはそれを上手く伝える術がなくて。
結局、こうして怠惰に時間を過ごす事しか出来ない。
「そうだね。水不足にならない意味では良いけれど、折角の休みだと思うとちょっと残念だよね」
天気の事よりも、君の話が聴きたいんだけどな。
小学校は行かなかったルルだけど、何故か中学からは学校に行く事を自分で決めて。
今はもう中学2年生。
ミレイさんや担任の先生、秘密裏に学園内に置かせてもらっているSPから、ルルが上手く学校に馴染めている事を聴いているけれど。
本人から学生生活の話を聴いてみたいのだ。
どんな友達が出来たとか、未だ残っているらしい不可思議なイベントをどうやり過ごしてるのとか。

ルル『も』とても大切だから、知りたい。

今度は手を離さないと決めたのだ。
決めつけないで、相手の話をちゃんと聞こうって。
けれど、ルルは余り学校の事を話さない。
友達がいないわけでもないのに、神楽耶やシュナイゼルさんには話しているのに、僕には教えてくれないのだ。
…寂しいというか、地味に悲しい。
やっぱり僕なんかじゃ、頼りないのかな。
「スザク?」
「うん?なぁに、ルル」
「疲れてるなら、ベッドで休め」
「そんな事ないよ、大丈夫。けど心配してくれてありがとう、ルル」
キツイ言い方だけど、それはルルなりに気にかけてくれているという意思表示だって、十何年一緒に生活して僕は知っている。
ルルはとても心優しい子だ。
彼が優しくない、というわけではないけれど、素直に感情を表す分、ルルの方が愛らしいし可愛らしいと思う。

愛おしさでは、敵わないけれどね。

「可愛くて好きだなぁ、ルル」
「な、何言ってるんだ!」
そうやって顔を真っ赤にする初心さは、同じだ。
表情は違うのに、反応は一緒。
分かっているのに、分かっていなくちゃいけないのに、僕は一瞬混同してしまう。

大きくなって綺麗になるルルは、余りに似ていて。

「…スザク」
「何、ルル」
「眠たい、ベッドに連れてけ」
「え?」
気付けば、もうルルのカップからミルクティーは消えていた。
しかもポットにはまだ2杯分の余裕はあったはずなのに、それもなくなっていて。
僕の知らない間に、時は過ぎていたらしい。
「ちょうどいいから、昼寝、するぞ」
「え、えぇ?」
「スザク」
あ。

きゅ、と僕の服の裾を掴んできたルルの手は、小さく震えている。

ぼうっとしていたせいで、彼を不安にさせてしまったらしい。
…保護者失格だな。
ルルでしたら、いつでも私が育ててあげますからね、と良い笑顔で笑っていた従妹の顔が過ぎる。
エゴだと分かっているけれど、彼女に渡したくない。
ルルは僕が責任を持って愛し、育てていくと決めているんだもの。
ごめんね、ルル。
不出来な保護者で。
「そうだね、ちょっと今日はだらだらしちゃおうか」
僕がそう笑うと、ルルは明らかにほっとした表情を浮かべた。
…そんなに僕は酷い顔をしていたのだろうか。
鏡がないから分からないけれど。
「あぁ」
そうだ、良い雰囲気になった序でに言ってしまおう。
良い事を思いついた僕は、
「あ、出来たら寝ちゃうまでさ、ルルの話聴きたいな」
なるべく自然に、今まで燻っていた思いを彼に告げた。
「俺の、話?」
「うん。あんまりルル、学校の話してくれないでしょう?結構寂しいんだよ」
彼が逃げ出さないよう、僕は立ちあがって彼の元に行き、ルルの細くてまだ小さい手を両手で包んだ。

彼は僕の温もりに弱い。

僕も彼の体温には弱いけれど。
「そ、そうか?」
「そうだよ!僕はルルの事、いっぱい知りたいんだよ。数学が難しかったとかでも良いんだ」
「お、俺の話なんか、面白くないだろう」
確かにルルは口下手だけれど、君の話は何だって僕にとって面白いよ。
例え『彼』の方へ意識が行っていても、君の事は何でも記憶してるぐらいなんだから。
「面白いよ。大丈夫、他愛のない話で良いんだ」
それこそ、今日は暑くて嫌だったでも良い。
どんな些細な事でも、君の気持ちを知れる事が何より嬉しいから。
もう、すれ違いは嫌なんだ。
自分でも気持ち悪いと思うぐらい、君の事が知りたい。
「…最近は特にこれといった事はないんだ。それでも?」
「それでも」
断言すれば、優しいルルは折れてくれた。
そんな所もルルは『彼』に似ている。
心の中で僕は二人に謝り、ルルを椅子から立ち上がらせた。
彼も観念しているのか、抵抗はしない。
「…分かった。とりあえずベッドに行こう」
「あは、何だか誘われちゃってる気分だ」
「この馬鹿!エロ親父!!」
「親父って酷っ!」

こんな風に笑いあう日が、後どのくらい続けられるのだろう。

消失の容易さを嫌なぐらい知ってしまっている僕は最近、よくその事を考えてしまう。
ルルはまだ中学生なのだから、この手の中の温もりはまだそうそうなくなってしまう事はないはずなのに。
僕もとうとう、年なのかな。
ナナリーや初期の黒の騎士団のメンバーと対峙していると、余りそういったものを感じる事はないのだけれど。
年月だけは充分、流れているから。
僕もそれなりに『大人』になったのかもしれない。
「こんなピチピチな肌なのに、親父はないよルルぅ」
「スザクがむしろ不思議人間だろうが!童顔!年知らず!」
「ちょ、人が気にしてる事を!」
まぁ、でもそれはルルが子供だから、必然的に大人に見えるだけか。
それに切りがない事を考えるよりかは、ルルとイチャイチャしていた方が遥かに楽しいし、有意義だろう。
「横になったらぎゅっしようね」
「えー」
「えーってなに!傷つくよ僕!」
「ふふ、冗談だ」
そう、過去を想っても戻れるわけじゃないのだ。
だから、だから。

この手の温もりは本物だと、信じて良いよね。




いつの間にかね、ルルーシュの温もりや匂いを、忘れてしまったんだ。

手から零れるstarlet

衝動的にstarletの切れ端を。
薬パラ忘れてませんよ!
書きたいんですが、最初のネタ帳が部屋の中で行方不明に…っ。←だからあれほどこの休みの間に片づけておけと…
あー、ファイル買ってこないと。



ルルは10歳です。

***



余りにも唐突な話に、僕は驚きを隠せなかった。
「へ?ルル、今何て…?」
「だから、ボク、中学は通う。もう神楽耶姉さんとナナリー様には言ってあるし、手配も出来てるって」
「僕、一度もそんな事聞いてないよ…?」
そう、それは正に青天の霹靂。
何となく、ルルは余り外に出ないしこのまま通信とかで学位を取るのかなと思っていたから、僕はただただ呆然と彼を見つめた。
「勿論だ。今初めて言った」
一方のルルといえばまるで大人見たいに落ち着いた態度で、僕が作ったホウレンソウのお浸しを上手に箸を使って食べている。
いやいや、今はそんな状況じゃないでしょ。
「え、でも小学校は行かないって」
「小学校『は』だ、スザク。別に中学校も行かないとは言っていない」
「そうだけどさ」
分かってはいるけれど、こう、言葉に出来ないモヤモヤがあるんだって。
「でもさ、そういう事は最初に僕に言ってほしかったな」
「だがここ一年ほどスザクはゼロで忙しかっただろ」
「確かにそうだけど、ルルの話を聞くぐらいは出来たよ」
「…それはすまなかった」
ルルは、ルルーシュと違ってちゃんと謝れる子だ。
僕がそういう風に躾けてきた。
いや、正しくは皆か。
ルルが言う通り、ここ数年間は平和過ぎた故に小さなテロや、暴動が起きるようになっている。
正直正念場なのだろう。
ルルーシュも生前に言っていた。
「いいよ、気にしないで。ただちょっとだけショックだっただけだから」
「次は、…努力する」
「努力ね…。うん、まぁ、期待してる」
そしてルルーシュと違う所がもう一つ、ルルは嘘も極力言わない。
嘘吐きは何よりいけない事と、強く教えてある。

…僕が約束を守れなかった事は、何度かあるけれど。

それでも最初から無理な約束は極力しない様にしているし、僕の仕事の不安定さを知っているルルは、納得してくれているからまぁいいだろう。
今は、ルルの事だ。
「で、手配は済んでるってどこの中学に行くかとか聞いてるの?」
「あぁ」
初めての学校だというのに薄い反応だなぁと一瞬思ったけれど、直ぐにそれは違うのだと分かった。
「昔ナナリー様が通った、アッシュフォード学園、だって」
ほんの少し色づいている頬。
ちゃんと見ていれば分かる、彼の表情の変化。
ルルーシュよりもずっと素直なルルは、冷静にしているつもりでもそれなりに感情が顔に現われていた。
けどそれよりも、
「アッシュフォード、学園…」
予想はしていたけれど、いざその名前が出されると息が少し詰まった。
まるで胸にこれ以上ないほど重りを載せられ、首を、気管支を締められてるみたいな。
それが錯覚だと分かっていても、息苦しさは変わらない。
「…スザク?」
「ううん、何でもないよ。ただ、懐かしいなぁって」
「スザクも通ったんだって?ナナリー様と、えっと、ミレイさん?が言ってた」
「ミレイさんね、知ってるよ。そう、通ったといっても1年ぐらいしか行けなかったけどね」
在学としては2年間になっているけれど、実質は半分も行けていなかった学生生活。
それもその貴重な半分の内の大半は、思いだすだけで頭が痛くなる様な暗黒の日々で。
正直、ルルに語れるような思い出など片手で余るぐらいしかない気がした。
「そう、なのか」
「でもとても楽しかったよ。ミレイさんが学園に戻ってるなら、相変わらず凄い行事とかやってそうだね」
ルルは聡い。
僕の心の中の闇に敏感に反応して、楽しげな表情を改めてしまう。
そんな彼に、僕はごめんね、と心の中で謝るしか出来ない。
良い年の大人なのに、ほんとうにごめんね。
「でもそこなら良かった。僕も安心だよ」
「そうか」
にっこりとほほ笑んであげれば、ルルは小さく息を吐く。
心配させてしまったかな、後で思いっきり甘やかしてやらないと。
「あー、でも毎日ルルと一緒にいられなくなっちゃうのは寂しいなぁ」
「子離れも大切ですよって、神楽耶姉さんに叱られるぞ」
「もうそれは聞きあきてるから大丈夫」
それは冗談のつもりだろうけれど、正直彼女に会う度に言われている。
ルルをないがしろするなら許しませんわよ、とか、いつだって私引き取る用意は出来ているんですのよ、とか。
思いだすだけで恐ろしい。
「馬鹿」
ルルは知らないから笑って流すけど、いや、本当に怖いんだよ神楽耶は。
だからといって彼に告げ口をするほど僕も幼くはないので、馬鹿は酷いなぁといって笑っておいた。
心の奥が甘く疼くのに、そっと蓋をしながら。
「じゃあ、学校説明会とか一回行く?」
「あぁ、もうそれ予定立てているんだ」
「えぇ!?」
「当日、最初はナナリー様が行くって言っていたけど神楽耶姉さんと一緒に丁重にお断りして」
「あぁ…」
ナナリーも神楽耶と同じ、いやそれ以上にルルを大切にしている。
時々神楽耶は何か言いたげにしているが、あえて何も言わない所を考えると僕と同じ事を思ってるのかもしれない。

ナナリーもまだ、僕と同じようにルルーシュに囚われているから。

彼が亡くなってからもう短くない時が経っているというのに、不思議と彼の気配は薄まる事はない。
それはナナリーもきっと同じだろう。
何より一番彼に大切にされ、愛されたのは彼女なのだから。
別に過去に心を馳せる事自体悪いわけではない。
今の彼女はちゃんと前を向いている。
ただ、ルルを見る目は時にルルーシュと同じで。
僕が気付く位だ、神楽耶だって知っているだろう。
でもお互い何も言わない。
それがルルの為にならないと分かっていても、彼女に言う事が、出来ない。

人の心は、難しいねルルーシュ。

どれだけ自分が人の気持ちに無頓着だったのか、今になってとても思い知らされるよ。
「で、その様子だと神楽耶でもないんだよね?」
「神楽耶姉さんも、有名人だからね。一応、カノンさんって事になってる」
確かに、その人選なら悪くはない。
シュナイゼルさんも有名すぎるし、ロイドさんはそういうのに不向きだ。
セシルさんは、今でも十分忙しいからまず不可能だったのだろう。
それでもカノンさんか…。
「で、それは何日?」
「え?」
「空いてる日、というか空けれる日なら僕が行くよ。というか、普通なら僕が行く所でしょう、それは」
「確かに、そうだが」
ルルは、大きくなるほど僕に対して色々と遠慮がちになってきた。
それは周りを見れるようになった成長といってもいいのだろうけれど、僕は、少し違和感を感じている。
上手く言葉に表現できないけれど、端的に表すならば『嫌な感じ』だ。
僕が嫌に感じるというわけじゃない。
むしろ楽ではあるけれど、でも、これではいけないと僕の頭は警鐘を鳴らしているのだ。

このままではいけない。
このままだと、壊れてしまう。

それは、ずっと昔に二度感じた衝動だ。
一度目は衝動のままに動いて、酷く後悔した。
二度目はその過去が苦しくて、怖くて、無視した結果、後で一回目以上に絶望を齎した。
だから、これは無視してはいけないのだ。
とはいえ、感情のままに動いてもいけない。
難しいけれど今まで生きてきたのだから何とか今回は、今回こそは乗り越えたいと思う。
ルルが独りでこっそり泣いてるのを他人から教えられるのは、もう嫌だから。
「8月。8月○日だ」
「ちょっと待ってね。お行儀悪いけど、スケジュール帳見てくる」
「別に、後でも」
「だって早く知りたいもん。動かせる仕事なら早めに動かすに越した事はないし」
「いや、そんな無理しなくても」
ルルが焦るのを感じる。
そんなに心配しなくても良いのに、本当に優しい子だ。
僕は彼の頭を一撫でしてから立ち上がり、居間のソファに置きっ放しにしていた上着へと向かった。
そして内側の胸ポケットに入れていたスケジュール帳を取り出して、教えてもらった日にちを確認する。
「ランスロットの動作確認だけか。それなら一日動かすぐらい大丈夫かな」
暑さ厳しい日本では、夏の暴動は余り起こらない。
どうか何も起こらない事を願うばかりだ。
「うん、僕行けるよ。カノンさんはもしも用って事で僕から伝えておくね」
「へ…」
「あ、それとも…。僕が行くの、嫌だった?」
全てが終わってから伝えられるくらいだ、もしかしたらルルはもう反抗期に入っていたのだろうか。
言ってから遅いと思ったが、はっとした僕は焦った。
どうしよう、でも説明会でルルが他の人と行くのは主保護者として嫌だと悩んでいると、ふふと笑い声が。
「いや、嫌じゃない。ただ最近スザクが忙しそうだったし、休みの日も家でゆっくりする事が多かっただろ。だから俺の事なんかで外に連れ出すのは悪いと思ったんだ」
とても小学生が言う様な事じゃない内容に、僕の小さな心臓はぎゅっと更に縮こまる。
やっぱり寂しい思いをさせてしまったんだ。
今度からはもっと外に連れ出さなきゃ、暑さは苦手なら水族館や博物館でも良いかもしれない。
何とか表情に出さない様気を付けながら、僕はとても落ち込んだ。
それはもう、色々と。
「でも一緒に行けるなら、楽しみにしてる」
年相応の、笑う表情はとても可愛い。
そんな顔をいつまでもしていられる様に頑張る、と誓ったはずなのになぁ。
もっと精進しよう。
「僕も、楽しみだな」
兎に角なるべく仕事が溜まらない様今は頑張ろう。
新たに決意して、僕はもう一度食卓に戻った。
冷えたお味噌汁は少し塩辛かったけど、今の僕にはちょうどいいだろう。





ルルーシュだったら、こんな思いをナナリーにさせた事はなかったんだろうな。

たまにはこんなstarlet

ゼロの仕事が嫌なわけじゃない。
それなりに理解はしている、いや、むしろ思い知らされた感の方が強いか。

ゼロという大切さ、重さ。

期待を裏切ってはならないというのは、時にとてつもない重圧にもなる。
ただ憎んで済む側では、知らなかった事。
それらを知れて良かったと、思う。
…だけど。
一人では、それに折れてしまいそうになる事があるんだ。
分かっていても、逃げ出してしまいたいと、そう思う時が。
「それから解放してくれたのはルル、君のお陰だ」
「…?」
幼児特有の柔らかい頬を軽くつつくと、ルルが大きな瞳をこちらに向けてくる。
「ふふ、びっくりした?」
「ぅー」
ちゃんと爪は切ってあるから痛くはないはずなんだけど、機嫌が悪かったのだろうか。
些かむっとした表情で、ルルは僕を見つめた。
最初の内は彼がどんな事を考えたり、思ったりするのか良く分からなくて大変だったけれど。
ここ最近は大分意思疎通が出来てきてると、想ったりするんだ。
だから今も。
「抱っこ、してほしいの?」
小さな手が、僕の膝を叩く。
ぺちっと、少し不器用に、だけどはっきりと意思を持って。
「…」
「抱っこ?」
両手を彼のちょうど脇ぐらいの位置に差し出してやれば、ふん、と鼻を鳴らしながらも彼は抱っこを所望した。
まさかとは思うけど、プライドが高いのは遺伝子レベルに刻まれてるんだろうか。
『彼』を連想させるルルのふるまいに、思わず苦笑してしまう。

どこまでも君は、『君』のままだ。

彼をちゃんと彼として見たいのに。
君の事を忘れたいわけではない、ただ区切りをつけたいと思っているのに。
『君』はそれすら許してくれないのか。
でもそれも『君』らしいから、僕はただ笑うしかない。
「はいはい、抱っこね」
危なげなく抱きあげて彼の頭を僕の左胸に凭れ掛けさせる。
すると近づいた事で、ルルの香りが僕の鼻を擽った。
「ふふ、ルルの匂いがする」
炊き立てのお米というか、どこか温かさを感じさせる不思議な匂い。
ゼロの仮面越しではどうしても匂いに対して鈍くなってしまうから、こうして香る彼の匂いが、僕はとても好きだ。
だから僕は思わず、顔を寄せて彼の香りを嗅いでしまう。
生きる力を感じさせる、その匂いを。

この子がちゃんと生きてるって、五感全てで感じたいから。

そうして自分の世界に入っていたのが、いけなかったらしい。
「…ぁーっ!」
「いったぁ!!?」
さっき膝を叩いた時とは違う。
それなりに力を持ったグーが一発、鼻っ柱に決まった。
「うー」
「うーって僕が言いたいよ。痛い、痛いってルル」
幼児の力を舐めてはいけない。
時にうまい具合に遠心力を使って放たれるパンチは、それなりの威力を持っている。
「あー!」
「痛いっ!ちょ、ルル!!」
口を開いた瞬間、狙ったかのようにまたルルのパンチが前歯を直撃する。
彼の小さな手を噛まなくて良かったと思いたいところだけど、それよりも本気で痛い。
冗談じゃないけど、歯が折れるかと思った。
思わず抱きあげてるルルを落としそうになってしまうのを寸前で堪え、僕は空いている手で口を抑える。
「うー…」
「うーって言われても。痛いんだよ、本当に痛いの」
こんな事今までされたことなかっただけに、痛みとびっくりで涙が零れてしまう。
泣き虫だと『彼』に良く笑われたけれど、今回は仕方ないでしょと心の中で言い訳をした。
それなりに痛い、いや、それなりなんかじゃない。
「ルルー」
「…?」
多分わけの分かっていないルルは、きょとんした顔をして首をかしげた。
ただでさえ可愛い彼がそんなポーズをすると、写真を撮りたくなるぐらい愛らしいのだけど。
今はカメラを用意するよりも、鼻を抑えたい。

…鼻血とか、出てないと良いんだけど。

子供は凶器、とはよく言ったものだと思う。
今まで子供は天使だとばかり思っていたけれど、少し考えを改める必要があるみたいだ。
「僕って、本当に痛い目に遭ってからじゃないと分かんないんだな」
「ん!」
まぁ、とりあえず抱っこしてもらえた事でそれなりにルルがご機嫌になってくれたのだから、良しとするか。




子育ては、大変なのです。
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