対になる作品があります。
これは正の方の作品です。ついは負になります。
こういうことを、強く強く考えてた時期がありました。
今でもたまに思います。それでもいいと思えるようになりました。
過ぎていった日々がある。
どれだけ懐かしくても、もう戻れない瞬間が確かにあった。
それを寂しく思う。
前もって他の用事で遅れる事は言っておいた。
先に始めておいてと、連絡をした。
それでもいささか遅くなりすぎたとあわてて合流した。
「久しぶり、待ってたよ。」
何ヶ月ぶりかに会った友達は、少し大人びてた。
ゲームセンターへ行って、適当にやってみて。
ちょっとした食べ歩きをして。
「どうよ? 最近。」
「学校?」
「うんそう。大学ってどんなの?」
一人は美術の大学へ。
一人は普通の四年制大学に。
一人が一年の専門学校へ行って。
一人、浪人した。
道は違った。交差しなかった。掠りもしなかった。
それでもこうやってたまに会っている。
会える奇跡に、感謝する。
道を違えた時から、疎遠になった人が居る。
もう名前を思い出せない人が居る。
その時その瞬間にあったはずの縁が、あっという間に朽ちていった。
そんな中で今もまだなお、連絡をして会うことの出来る奇跡に、初めて感謝したのは何時だったか。
覚えていない。でも、覚えてる。
それに気付いた瞬間、溢れてきた思いを隅々まで覚えてる。
忘れてない。――――そんな勿体無いことしたくない。
「あー、やっぱり、時間はあるに越したことはないよ。」
「そっちは大変?」
「かなり大変。やることが多くて首が回んなくなる。」
「そっか。こっちはまだ時間がたっぷりあるからねー。」
「いいなぁ…こっちも楽しいから良いけど。」
怖かった。
変わっていくのが恐ろしく、今のままこの状態で止まっていればいいと思った。
明日なんかきて欲しくなかった。
季節なんか巡ってこない方がよかった。蕾は固いままでよかった。
どれだけ願っても悔やんでも、止まりもしなかった。うんともすんとも言わなかった。
怖くて怖くて、変化なんか拒否したかった。ずっと永遠に止まってしまえばいいと思った。
けれども出来なかった。無理だった。
そうしたら何もかも投げ出したくなった。
それも、臆病すぎて出来なかった。
そして変化がやってきた。
強制的に全ての配置が換わっていった。
気が付けば隣にあったものがなかった。気が付けば次の季節になっていた。
恐ろしいほどその変化は浸透して、馴染んでしまった。
おっかなびっくり開いた手のひらには、その変化にも飲み込まれなかったものが意外とたくさん残っていた。
「就職はどう?」
「あんまりうまく行ってない。…がんばるよ。」
「うん。終わったら、皆でどっか旅行しようか。」
「それもいいねぇ。」
残った紐を手繰り寄せた先に居た友達。
変化で切れてしまったと思った縁も、実は隠れてまだ繋がっている人も結構居た。
泣きたいほど嬉しかった。
変わらずにそこにいる人たち。蕾は花になったけど、同じ場所で咲いていた。
気付かなかった。それでも待っていてくれていた。
何かが違えば気付かなかった。何かが違えば、そこに居なかった。
何かが積みあがって出来た今は、たくさんの道の一本だった。
その道に出会えたことを、感謝する。
「ああ、この間あの店に行ったよ。」
「マジ?! どーでした? 結構気になってたんだよ。」
「じゃぁ一緒に行こうか。きっと楽しい。」
変化するのは恐ろしいが、してしまえば早かった。
確かに当てのない未来だけど、この人たちが居ればきっと俺は何処までもいける。
核心じみた予感がある。
恐れることはあっても、引き返すことはないだろう。
どれだけ怖くても、私の手の中に居てくれる人を知っているから、きっと進んでいける。
すぐ先で笑っていてくれることを、教えてもらったから。
きっとこの人たちとも縁の切れる瞬間が来るだろう。
一週間後か、一年後か、十年後か、死ぬその瞬間かは知らない。
でも、この道を選んだことを誇りに思えるよう、私は今歩いているような気がする。
ふと見た先に、蕾があった。
まだまだ硬いけど、隣の蕾はもう緩んでいる。
「何してんのー?」
「ほら行こうよ。」
差し出された手を、握った。