シェフの話が三時間を突破ァー。



「いやだからなんでそれでそこがそんなに遅れるん!」
「だからこれはこっちのほうでお客さんがね、」


すでに同じ話がもう五回か六回は出てる。結論は出てるのに一向に収まらないシェフの機嫌。
どうやらトクメーがあずかり知らんうちにサービスとシェフが揉めてたらしい。そこへのこのこ現れた別店舗の片づけを終わらせて報告に訪れたトクメー。最初の一時間はぼーっとしてたら「お前に関係ない話しとんちゃうで!!」と言い出したのでそばで聞いてたんですけどほんと何回も何回も同じ話を。

同じ話を。

「まとめますと、これからはこうならないようにまず、箇条書きでもいいのでメモをー、」
「作ったところでどうにかなるもんなんかこれ、いやもうそういうのやめようや、」
「責任の所在をはっきり、」
「そもそもそっちの連携がが悪いんやん。」
「はい、おっしゃるとおりです、もっと連携を密に、だからその方針を書面で、」
「だーかーらー、そういうことじゃなくてー、」


「ああああもおおおおお!!!」



かーん。戦闘開始。



「さっきから!!! 同じ話しかしてない!!! 結論出ててシェフも「うん。」って言ってるのに同じ話を繰り返してるだけじゃないですか!! 一時間前にその結論出てた一時間前に一応の決着ついてたなんでそこで蒸し返して引き戻して立ち去ろうとしたところ首根っこひっつかんで別の人まで混ぜ込んで話を繰り返すかね!?
サービスの連携不良で料理出してる途中で停止がかかったり早まったり違う人から全然違う指示が同時に届いたりしてそりゃぁ混乱したのもわかりますけど!!
わかるんですけどそれもういいじゃないですか、一時間目で最初に謝ってもらってんじゃないですか気を付けるってもっと読み合わせしますって言われてんでしょ何が不満なんですか何が!! シェフが絶対に折れないからサービスが分かりやすく折れてくれてるじゃないですか!! その上、再発防止のために責任の所在をはっきりさせるための書面を作るってそれのどこが不満なんですか契約書類と一緒でしょ何が嫌なんですか何が!!」

「だ、だって型にはめるとそれしかしない人間になるやん…?」

「アンタそういう人間なんですか提出される先はシェフでしょう! あなた教科書読んだだけで納得する人間ですか違うでしょう! 指針だっつってんでしょうが型にはめてるわけじゃないですよ請書! 分かりますか単なる覚書ですチェックシートです! 最初に「うん」って頷いてんのに何が不満なんですか一々反論から入って! 出した後どうなるかなんて出す前にわかるわけないでしょうがそういうのはね、机上の空論っつーんですよ!! 分かりますか三時間、さんじかん!!!! 19:00過ぎにここにきてもう時計見てくださいよ22:00近いじゃないですか!! 三時間もグータラあーだの何言ってんですか結論出てんでしょ! なんで頷いて終わらせるってそんな単純なことができないんですか!!」

「それは違うで先輩!」
「シェフは皆に理解してほしいから一生懸命話してるんやで!!」
「お、おう、そうやで。」
「蒸し返してるんじゃなくて確認してるだけですし!」
「なんか、それ切れた俺が悪いんか!」
「いや、そうじゃなくて、」
「あいまいにすんな! 俺が悪いんか悪いと思うならハイと一言で言え!」
「ハイ!」
「おっしゃ分かった黙るな!!」


しーん。



「…あ、うん、…じゃぁメモ書きますんで…。」
「分かった…。えと、長い時間有難うな…。」
「いえ、では。」
「終わりました? じゃぁ私の方から報告事項あるんで。いくつかいいですか。五分かかりません。」
「お、おう。」
「まず来週の婚礼でーーー、」

三分後。

「以上です。お時間有難うございました帰りますね。」
「えっ、う、うん。じゃぁお前らも帰れな…?」
「分かりました。」
「口が過ぎましたね。ぽっと出が偉そうな口をききました。」
「う、うん。いいよ別に…。ほら、そういってくれたから場も開いたし…?」
「重ねて失礼しました。次は当事者の時にお願いしますね。」
「うん。またな…?」


ぱたん、退室。


「…とまぁ。こういうことをするのが私でござる。気分悪い時もあるだろうけど勘弁な。」
「「いえ。みんなそう思ってたんでむしろ『よく言った!』です。」」
「えっ。めっちゃ君らに反論されたのに?」
「いやー、あのまま押し切ってたらシェフ切れてさらに長引いてましたしねー。」
「一人悪者を決めて叩いた方がシェフの機嫌も直りますし。先輩、あの程度じゃ怒らないの知ってますし。」
「わお。いやまぁあの程度なら気にしないけど。モヤッとするだけで。」
「すんません。」
「やー…。私君らがよくシェフのこと考えて、皆シェフのために三時間耐えてるんだなぁってひそかに感心してたんだが。」


「んなわけないでしょう。」
「早く帰りたいのに同じ話蒸し返して正直きついっす。」
「指摘しても認めないし。」
「基本的に俺の店!って思ってますもんね。自分以外の言うこと聞かないんですよねー。」



闇が深い。



「あれもそんなに荒れてたわけじゃないんですよ。特に問題なく終わってますし。」
「へーそうなの。」
「ちなみに先輩呼ばれたのはシェフからすると同調してサービスの方に「お前が悪い!」って言ってほしかったからですよ。」
「えっ。そんな役割期待されてたの? 論破しかしないけど。」
「だと思います。先輩そんな人ですよね。」
「ねー。」
「オイコラどういう意味だー。」
「自覚ないんですか?」
「ある。」
「じゃぁいいでしょ。」
「うん。」



終わっとけ終わっとけ。