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テミスの剣 ☆ミ

昭和59年秋、ホテル街にある小さな不動産屋で店主とその妻が殺された。物取りだとすれば、ホテル街にポツンとある古びた不動産屋は狙われにくいのではないか?と考えていた捜査員達だったが、高利貸しの記録をつけたノートを見つけ、店主から毎月お金を借りていた楠木を、不当な取り調べで自供させた鳴海と、その補佐役をしていた渡瀬は、犯人にでっち上げる。
裁判で無実を主張するが、死刑が確定してしまい、楠木は獄中で自殺してしまう。

5年後、別の事件で捕まえた犯人が、不動産屋を襲った事を自白し、警察は無実の人間に罪を着せ、獄中で自殺するまで追い込んだのかも知れないと考えた渡瀬は、当時の捜査資料を洗い直す。
すると、楠木を犯人だとした証拠であったジャンバーが、警察内部で仕組んだ証拠だったのではないか、と考えられる記載が出てきた。

当時、自分と共に楠木を取り調べた鳴海を訪ねた渡瀬は、鳴海がジャンバーの証拠をわざと現場に残し、楠木を犯人だとする決め手にしたと白状させる。今でも楠木は犯人だと疑わない鳴海は、あくまでも自白させる為の演出にすぎないと悪びれた様子も無い。それを見た渡瀬は、自分もいつか鳴海の様な人間になってしまう事を恐れる。

楠木がもう自殺している事もあり、警察・検察の不祥事をわざわざ暴こうとする渡瀬を、警察内部は徹底的に抑えようとした。しかし渡瀬にとってそれは逆効果であり、仲間が自分を糾弾すればするほど、楠木の冤罪を証明しなければならないと躍起になる。
やがて、高裁判事の協力もあり楠木の冤罪は世に出る。しかし、それは同時に、楠木を最初に冤罪に陥れた自分と、既に警察を退職している鳴海の罪を問えなくする事でもあったのだ。

『テミスの剣』
著者 中山七里
発行元 株式会社文藝春秋
ISBN 978-4-16-390149-7
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ターミナルタウン

凄いスピードで通過するだけの駅。かつて、ターミナルタウンと呼ばれたこの町は、通過するだけの町になってからは廃れていく一方であった。

ターミナルタウンに活気があった頃、政府の政策によりターミナルをとにかく大きくしようとした西口側と、勢いに任せるのではない長期的な視野を持つべきと反対する東口側は対立し、ターミナルタウンが寂れても尚、徹底した住み分けを続けていた。
自殺者が増え続けた国は、政府の政策の一つであった、影に全ての負の想いを乗せ、影を切り離すという作業を推奨した。しかし、一時的に影に全ての想いを乗せる事で、短期的に影を取り戻し生きる活力を見出すという目論見だった政府に反し、影を切り離した人達はいつまでも影を纏わず生活していた。

影を持たない人は、家族とも分断され戸籍も抹消されるが、生きている限り住む場所も決められる。それを逆手に取り、あこぎな商売をしていた響一は、自らも影を失いないのにあることになっているターミナルの管理を任されていた。

ターミナルタウンの駅には、昔時空の歪みにとらわれたのか、消えてしまった列車の光が、目視できるという噂があった。しかし、動画にも写真にも取れず、そのうち世間の興味も薄れていった。しかし、恋人をその列車に乗せたまま失った牧人は、影を持っているにも関わらず、ターミナルタウンにやってくる。毎日列車の光だけを見守る牧人は、ターミナルタウンは西口と東口に別れている住民にお節介を焼き、もう一度町が機能するように動く。

ターミナルなんてない事、戦争の為に、あることにしていた事、全てを知った牧人は、ターミナルタウンの新たな一歩を踏み出せるように頑張る。

『ターミナルタウン』
著者 三崎亜記
発行元 株式会社文藝春秋
ISBN 978-4-16-390003-2

ターミナルタウンがどうなるのか、完全なハッピーエンドとはいかない。影を失うと気力も失う。
あちらを立てればこちらが立たない、良いことばかりじゃない、現実離れした小説もいいけど、こういう、現実に近い小説もいいと思う。

キャプテンサンダーボルト

相葉時之は幼い頃から野球の才能があったが、それを伸ばそうとする大人の曲がった根性が気に入らず、いつも手を抜いて、大人のみならず同級生にまで怒られるような身の振る舞いをしていた。
そんな相葉は現在、騙されてAVに出演されたという女の子を助けるが、それにより借金が膨らみ、相葉の実家まで売り出されてしまう。

そんな相葉の元にやってきた取り立て屋と話をするはずが、ホテルのドアマンであった田中徹が案内を間違えた為、五色沼の水を買いたい外国人に殺されそうになる相葉。
実家の売却だけはどうしても避けたかった相葉は、外国人と命をかけた勝負に出る。

相葉の同級生でコピー機の営業・井ノ原悠も、子供が原因不明の難病になり借金があり、相葉の命懸けの勝負に駆り出される。

コピーした原稿が自分のパソコンに自動的に送られてくるように細工して、それで得られる秘密を情報として金にし、息子の治療費の足しにしていた。
予防接種をしていたはずの相葉が村上病患者だと誤った報道をし、相葉を隔離した政府に対し、井ノ原はコピー機の情報を武器に相葉の搬送先を知り、助けに行く。

寂れた映画館で観た、放送中止になった戦隊ものの映画版を見ると、村上病の病原菌があったはずの五色沼に魚が跳ねている様子が見てとれる。そこで、当時戦隊もののレッドをやっていた赤木や、政府側にいた男の協力で、外国人が何を追っているのかが分かる。

やがて、B29は東京大空襲の時にも東北に落とされ、それが五色沼の水と何かを混ぜ合わせる事で発生する、生物兵器・村上病の病原菌を、戦時中、村上博士が起死回生の一手として作っていた。
それを知ったアメリカ政府はB29を五色沼近くに落とし、五色沼近くにあった村上病の研究施設を壊した。その目眩ましの為に、東京大空襲を起こしたと突き止める。

あと一歩というところで五色沼と何かを外国人により混ぜられてしまった井ノ原と相葉は、村上病の研究施設に向かおうとするが、銀行の貸金庫にハンドルを切る。
村上病の噴射が刻一刻と迫る中、銀行側は動かない。すると、貸金庫の中身を調べられていた持ち主であったお金持ちのおじいさんが一声かけてくれたお陰で、村上病のウイルスは貸金庫の中で噴射した。
貸金庫から自分の財産を調べられそうになっていたおじいさんは相葉と井ノ原に感謝し、借金をまっさらにしてくれる。
そんな中、無実の罪でレッドとしてだけではなく人生を踏みにじられた赤木は、その名誉を回復しようと動いてくれたおじいさんに断りを入れてしまう。子供達に勇気と言うガソリンを入れていたレッドと、今、車にガソリンを入れる人生とを対比し、ガソリンを入れるのは嫌いじゃないのだと言う。

『キャプテンサンダーボルト』
著者 伊坂幸太郎
   
発行元
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あん ☆

寂れた町にある小さなどら焼き屋店主・千太郎は繁盛させようという欲もなく、ただそこそこの味のどら焼きを毎日焼いては売っていた。
表に貼ってあったアルバイト募集の張り紙を見てやってきたのは、定年をとっくに過ぎた、指の曲がったおばあさん・徳江だった。高齢である事、そして指が不自由である事からアルバイトをお断りするが、中国製のあんこを毎日ただ練っている千太郎のどら焼きに対し、あんこの味が良くないと言い、50年以上あんこを作ってきたという徳江のあんこを試食した千太郎は、時給200円で良いからという徳江の言葉通りに、徳江を雇う。

徳江が誠心誠意作ったあんこはそれはもう美味しいもので、客足が伸び、大盛況する。しかし、徳江の指や表情を見た何人かのお客さんは、変な顔をしていくのが気になる千太郎。

やがて、お店のオーナーから徳江はハンセン病患者なのではないか?と聞かれ、慌ててインターネットでハンセン病の事を調べた千太郎は、日本が戦争で負けた頃、ハンセン病は死の病と呼ばれ、発症したら隔離され、戸籍も抹消されるほどの重病だった事を知る。
しかし、現在の日本にはハンセン病患者は一人もおらず、海外から入ってきた薬のおかげで、早く薬にありつけた人には、見た目で分かる特徴がないことなどもわかり、ほっとする千太郎だったが、飲食店にそんな不安を抱えた人を雇っていること事態が問題なのだ、と叱責され、徳江を一刻も早く辞めさせろと言われてしまう。

しかし、潰れはしていなかったものの、儲かっていると胸を張れるほどの店ではなかったどら焼き屋が、徳江のおかげで客足が伸び、大麻所持で捕まり兵役をした後、どうしようもなく寂しかった千太郎に、希望を見せてくれたのも徳江であった。
それを考えると千太郎はとても、徳江に辞めて欲しいなどとは言えず、どんどん客足だけが減っていく。
そしてとうとう徳江は自ら辞めてしまうのだ。

徳江が辞めて、千太郎が徳江と同じ味とまではいかないが、そこそこのどら焼きを作れるようになっても
、相変わらず店には閑古鳥が鳴いていた。そんなとき、常連客だったワカナちゃんがカナリアを自分の代わりに飼ってほしいと申し出てくる。
突然の話に呆然とした千太郎は、もし千太郎が飼えないと言ったら自分が飼ってあげると徳江が言っていたと聞き、徳江に手紙を書いて、徳江が住む、かつての隔離療養施設をワカナちゃんと共に訪れる。

そこで久しぶりにあった徳江は、自分の生い立ちを語ってくれた。
ワカナちゃんと同じく、14歳の時に、ハンセン病にかかってしまい、隔離施設に入れられ、それからは一歩も外に出られなかった。隔離施設には火事が起こっても消防も警察も来てくれないので、ハンセン病患者達は闘病しながら、病気が発症する前に付いていた職業で得た知識などを、隔離施設で上手く活用し、消防団を作ったり、洋裁を始めたり、子供に読み書きを教えたりしたのだという。
戸籍を抹消されるから、徳江という名前も、本名ではないし、ハンセン病患者を隔離しなくてもよいと国が定めた1990年代後半に入った頃には既に徳江の母も兄も亡くなっており、唯一生きていた妹と一緒に暮らすのは断られてしまったという壮絶な人生を語る徳江。

隔離施設で知り合い結婚した旦那が製菓が出来たので、あんこの技術はそこから学んだのだという徳江に、何も言えなくなる千太郎。

客足は相変わらず鈍く、年を越す前にどら焼き屋を畳もうかという話まで出て悩んでいた千太郎の元に、徳江から手紙が届く。

『あん』
著者 ドリアン助川
発行者 株式会社ポプラ社
ISBN 978-4-591-13237-1
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火花

若手芸人・徳永は、中学の同級生とスパークスというコンビを組み、小さな事務所に所属していた。初めて芸人を受入れたというその事務所は、芸人としての舞台にとことんコネがなく、スパークスはいつも地方の営業をしていた。
営業先で出会ったのは、あほんだらという、まったく新しい漫才をするコンビで、徳永はそのお客さんに受入れられない芸風に強烈な印象を持つ。

あほんだらの神谷から誘われ、営業後一緒に飲みに行くと、神谷は漫才に対して真摯であり、また、独特のテンポや間合いも良く、才能があると思った徳永は、神谷の弟子となる。
あほんだらは賛否両論ありつつも、それなりに営業に出ていたが、大阪が本拠地であったあほんだらと、東京で活動していたスパークスとでは、中々直接会う機会もなかった。しかしそれでもあほんだらの素行の悪さは風のうわさで回ってあり、しかし神谷と仲良くしている徳永は、それが全くの出鱈目である事を知っていた。

やがてあほんだらは大阪での活動に限界を感じ、東京進出を考える。大阪で売れてもいないのに東京に出てきてしまう事や、あほんだらのあまり良くないうわさが、あほんだらの出世を阻むのではないか?と考えつつも、徳永はあほんだらを見守る。

スパークスの後輩として、同じ事務所に人当たりも要領も良いコンビが入ってきて、スパークスはどんどん出し抜かれていく。しかし幸いにも深夜番組に何度か出演する機会を貰え、お笑い好きのお客さんに顔を覚えてもらえるくらいの知名度に膨れ上がった。
一方あほんだらは、相変わらずテレビ出演などもなく、とてもお笑いの給料ではやっていかれない状態のままであった。

そんな神谷の才能を信じ、支え続けていた彼女も離れていき、神谷の借金生活に拍車がかかる。

順調だと思われたスパークスだったが、深夜番組が終わってしまった為、またもや収入が激減してしまう。相方に子供が出来たことから、スパークスは解散し、相方以外と漫才をする気になれなかった徳永は、お笑い芸人を引退する。

徳永から見て、神谷はいつも才能に溢れていたし、お笑いの為なら下ネタも何でもやってのける神谷の一本気さに、尊敬と憧れをいつも持っていた。だからこそ、徳永は理想の芸人は神谷であったし、神谷のように誠実にお笑いと向き合えない自分に、引退という幕引きを選んだのだろう。

やがて社会人となった徳永は、神谷がいなくなったと神谷の相方から聞き、方々探し回るが、神谷が出てこないのなら、それは探すなということだと納得する。借金苦でどこか怪しいところで働いているなどといううわさが流れたが、徳永は信じなかった。

そして1年後、見知らぬ番号からの着信に出てみるとそれは神谷で、なんと豊胸手術をしていた。
面白いことをずっとやり続けたい。その思いで、きっと神谷はこれからもお笑い芸人を辞めないのだろう。

『火花』
著者 又吉直樹
発行元 株式会社文藝春秋
ISBN 978-4-16-390230-2

徳永が神谷の才能に惚れ込むあたりは、芸人ではない私としては、そういうもんなのか?程度だったが、神谷がネット上などの中傷についても本気でぶつからなければならないという持論は、筋が通っていると感じた。
こんにちは、さようなら、ありがとう、いただきます。保育園で誰でも習う事を当たり前に出来る神谷にとって、人間は全て同じ土台に立っていて上も下もない。だから、中傷に答えることは同じレベルに落ちるという考え方が間違っている。そもそも人間はみな、同じレベルなのだから。
最初は良くわからない人だと思っていた神谷の人間性が、徳永を通してだんだんと見えてきて、愛らしく思えたりする。究極の読み手であっても、中々こんなに骨の或る文章を書ける人はいないと思った。又吉さんの才能を感じた。
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