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傲慢と善良

今思えば結婚すべきだった彼女・アユから当時言われた、結婚する気ある?という一言。
タイミングが合わず、怖いと感じてしまった架は、彼女を失い、彼女を超えて結婚したいと思える人に出会えず、30代後半の今に至る。

そんな架が婚活アプリで出会った真実は、群馬の女子校で育った真面目な女性だった。
そんな彼女とどうして結婚しないのか?と架の女友達に聞かれた時、架は真実と結婚したい気持ちは70%だと言う。アユちゃんだったら100%か120%なくせに、と鋭い指摘を受けた架は、真実から、故郷で告白されて断っただけの男にストーカー被害を受けており、今まさに自分の部屋にその男がいるのだと電話を受ける。
真実を守ってやらねば!と結婚を決めた架だったが、そんな折、真実が連絡もつかず忽然と姿を消してしまう。
真実の実家や姉、職場の同僚、かつて群馬でお見合いをした人など、様々な人に会ううちに、架は自分が真実を何も知らず、興味もさほどなかったことを思い知るのだった。

『傲慢と善良』
著者 辻村深月
ISBN 978-4-02-251595-7

「一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。
その一方で、善良に生きている人ほど、親のいいつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて“自分がない”ということになってしまう。
傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います。」

「ピンとこないの正体は、その人が自分につけている値段です。
値段という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。
自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は‘’ピンとこない”と言います。私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない。
ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです。」

真実が母親に頼んで通った結婚相談所の方がそう言ってたのがすごく印象深かったです。

真実は結局、ストーカー被害になんかあってなくて、架と結婚したいから重ねた醜い嘘なんだけど、それを架の女友達達はみんな分かってたっていうのがリアルでした。
真実もまた架に嘘を付き、そんな自分にも苦しくなって失踪した先で、真実の両親が依存していること、そして真実もまた両親に依存し支配されている事が楽だったことに気づく。

かつてお見合いした相手から聞いていた震災ボランティアに行こうと思えたのも、そして架が求婚してきたのも、人生って無駄がないなと思った。

青空と逃げる

『青空と逃げる』
著者 辻村深月
ISBN 978-4-12-005061-9

小学五年生の力は、ある日突然、劇団員をしている父が不倫をし、有名女優と密会した挙げ句、有名女優が運転する車で事故に遭い、顔や身体に傷を負った女優が自宅で自殺するというショッキングな出来事に巻き込まれる。
平凡な小学生だった力と、元劇団員の母は、有名女優の事務所であるヤクザに追われ、病院から行方をくらました父に代わり逃げ続ける。

母の友人のいる四万十の食堂で働いていたが見つかり、次はフェリーの本数が少ない家島へ、そして別府温泉へと点々と逃げ続けるうちに、父に守ってもらうしか出来ないと思い込んでいた母の姿は仮の姿で、どこででもがむしゃらに頑張る母の姿を見ることが出来た。

やがて有名女優の息子から父の居所を聞かされた力と母は仙台へ、そして大空町へ。
世間で騒がれているような不倫は全くなく、ヤクザとも話がつきそうだ。と良い方向に向かうところで話は終わる。

なんていうか、守る者がある人は強いとはまさにこの事。
人のあたたかさに触れて、どんどん元気に、そして強くなれる。これこそが大事なことだよと教えてくれる本だった。

逆ソクラテス

【逆ソクラテス】
「自分が正しいと信じている。
ものごとを決めつけて、それもみんなに押し付けようとしているんだ。
わざとなのか、無意識なのか分からないけど。」
久留米という教師は明らかに、生徒の草壁に対して見下した態度を取り、そして担任という立場を利用して草壁をクラスで孤立させていた。
久留米の卑怯な行いに腹を立てた安斎は、草壁を真っ向から助けるのではなく、草壁自体に自信を持たせて久留米を跳ね除けようと画策した。

「『僕は、そうは、思わない。』」
決めつけて偉そうにする奴に負けない方法は、この台詞を言うべきなのだと。
落ち着いて、ゆっくりと、しっかり相手の頭に刻み込むように言い返すべきなのだ。
「君の思うことは、他の人に決めることはできなんだから」と。

久留米の先入観を崩すことは、草壁のためではなく、後に続くまだ見ぬ久留米の生徒のためになるのだ。
結局草壁は、学校に来た野球選手の「素質がある」というお世辞を胸に刻み、本当に野球選手になった。

【スロウではない】
変な時期の転校生、高城かれんはわざと目立たぬようにクラスで振舞っていた。それが気に触ったのか、クラスの中心人物である渋谷亜矢にいじめられる。
しかし高城かれんは相手にしていなかった。それがまた気に触るのか、どんどんいじめはエスカレートし、とうとう高城かれんの持ち物であるロケット付きのペンダントを渋谷亜矢は取り上げ踏みつけた。
「何かあってから後悔しても、どうにもならないから。いじめたりしたら駄目なんだよ。
わたし、渋谷さんがどういうことをするのか分かるの。気に入らない相手にどういうことをするのか。相手の大事なものをどうやって傷つけるのか。
渋谷さんのやることはすごく分かるけど、だけど、そういうことすると取り返しがつかないんだよ」
「私もあなたと一緒だったの。前の学校で、クラスの中心で威張って、みんなを馬鹿にして。自分が一番だと思っていて」

転校してやり直したいと思うなら、それはいじめ加害者にも権利があるのではないか。
そんな風に思わせる短編だった。

【非オプティマス】
交通事故で彼女を亡くした久保先生は、授業妨害でわざと落とす缶ペンケースの音も注意出来ない人だった。
久保先生の後をつけた生徒は、そこでクラスメイトの父親が、久保先生の彼女が亡くなる原因を作った人だと知る。しかし久保先生はそれを知ってもなお、間接的な関わりしかない人が、ずっと彼女のことを気にしているだけで報われると思う清らかさがあった。
「わざと周りの人に迷惑をかける誰かがいたら、どうやって止めさせればいいんだろう。
先生が叩くことで言うことを聞かせられるのは、相手が自分より小さくて、歯向かえなくて、弱い場合だけ」
「相手によって態度を変えることほど、格好悪いことはない。
人は、他の人との関係で生きているってことを覚えていてほしい。
一番重要なのは、評判だよ。
評判がみんなを助けてくれる。もしくは、邪魔してくる。
迷惑をかけて面白がる人に君たちは心の中で、可哀想にと思っておけばいい。この人は自分では楽しみが見つけられない人なんだ、と。
人から物を奪ったり、人に暴力を振るったり
彼らは結局、自分たちだけで楽しむ方法が思いつかないだけの、可哀想な人間なんだよ。
もし、平気で他人に迷惑をかける人がいたら、心の中でそっと思っておくといい。可哀想に、って」

「人が試されることはだいたい、ルールブックに載ってない場面なんだ。」

【アンスポーツマンライク】
癌になってしまった担任の磯憲は、他のコーチと違って怒鳴って指導はせず、何が良くないのかを落ち着いて教えてくれる人だった。
あまり上手くはなかったミニバスのチームだったが、磯憲の指導のおかげで楽しく、そして伸び伸びとプレーが出来た。
そして進学して散り散りになったチームメイトの一人から、YouTuberになったら?とアドバイスを受けた駿介は、そこから花開いてプロに転向しようとした矢先、凱旋として当時のミニバスのチームメイトが指導する小学校を訪れる。
駿介にかつて鼻っ柱を折られた金持ちの息子は、駿介に拳銃を向けるがやり返される。

「俺たちだって、別にそっちの邪魔がしたい訳じゃないんだ。だけど、やっぱりやっちゃいけない事はやっちゃいけないんだって。
あのさ、おしまいとかじゃ全然ない。
昔、俺たちの先生が言ってたんだよ。バスケのコーチしてた、学校の先生が。
『バスケの世界では、残り一分をなんというか知ってるか?』って。
永遠。バスケの最後の一分が永遠なんだから、俺たちの人生の残りは、あんたのだって、余裕で、永遠だよ。」

【逆ワシントン】
クラスメイトが腹痛で休んだ。プリントを届けに行った二人は、父親の様子や痣を見て、虐待されているのではないかと考えた。
UFOキャッチャーが得意な友達を連れてドローンを手に入れ、クラスメイトの家の前でドローンを飛ばした。当然バレるが、ズル休みに付き合い、苦手なソフトボールでボールがキャッチできるように練習してた痣。
正直が好きな母が買いに行った家電量販店の店員は、テレビに映った、かつて自分がただの妬みから襲った相手が元気にプレーする姿を見て、涙するのだった。


『逆ソクラテス』
著者 伊坂幸太郎
ISBN 978-4-08-771704-4

子供の頃ってこういう感じだったなぁって思い出した。
過去を振り返る度に少しずつ脳が都合よく改ざんするとはよく言うけど、実際はこうやって、子供なりに大きな壁にぶつかって、でも正面から向かわない時もあって、そうやって少しずつ大人の世界の汚い部分やずるい部分を知っていって、染まっていく。
だけどすこしの正義感と大きな勇気が正義を貫くこともあるんだと。
読後感がスッキリした。
もう一度また読みたいと思わせる話だった。
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