航空自衛隊内で立て続けに起こった、空中で航空機が炎上するという原因不明の事故。
事故調査に自衛隊へとかり出された春名高巳は、事故の生き残りである自衛官の武田光稀から詳しい話を聞き出そうとするも、何度も説明を求められ疑われたという光稀は、既に報告書を上げた事を理由に彼を追い返す。
光稀と共に航空機に乗っていた斎木の息子・瞬は、海でクラゲの様な半透明の生物に遭遇し、幼馴染みである佳江の強引な勧めで、その生物をフェイクと名付け飼育する。
たどたどしくはあるものの、フェイクとは瞬の携帯電話を通じて会話が出来る様になり、瞬は天涯孤独の身になったのも手伝って、フェイクを家族の様に可愛がった。
一方、春名は光稀と航空機に乗っている時、優れた知能を持つディック(愛称は白鯨)と通信回線を通じて会話する事で、航空機炎上の謎が少しずつ見えてくるのであった。
白鯨が分裂してしまい、町中を飛び回る騒ぎとなった時、瞬は佳江を助ける為、フェイクに白鯨の分裂した一部を食べさせてしまうのだが…。
※この作品が気に入った方は、『クジラの彼』と言う同じ作者の小説が出てます。そちらは今作のその後の話です。お勧めは『海の底』と言う小説を読んだ後に『クジラの彼』を読むと、時系列順になりますが、一作品ずつでも充分楽しめるますので参考までに。
『空の中』
著者
有川浩
発行者 株式会社アスキー・メディアワークス
ISBN
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでよろしくお願いします。
瞬が良い子すぎて、最初はびっくりしました。自分が高校生の頃はもっと自分のしたい事に真っ直ぐ突き進むタイプだった私には、瞬の内に秘める様な性格やその割には幼すぎる考え方がどうもしっくり来なかったので、登場人物では光稀と春名の方が個人的には好きでした。
『海の底』同様、中々現実に起こるとは思いにくいフェイクや白鯨が登場するのですが、その辺の想像は難しくなく、時折出てくる専門用語も物語の中で誰かが説明してくれる事が多かったので、入り込みやすかったです。
印象に残ったのは佳江が間違ったままどんどん進んだら正解に着くのかと聞いた時に、宮じいが言った言葉です。
「間違うた方をずんずん行ってもそれは正解にはならんろう。正しい様に見えるとしたら、それはそう見える様に取り繕っちゅうだけよ」
「いっぺん間違うた事よ。それは人間が誤魔化しても世の中とか道理とかそう言うもんが知っちょらあ。どれだけ上手に誤魔化しちょっても、後になったら間違うちゅうもんは間違うちゅうと、ちゃんと分かってしまうもんよね。誤魔化そうとすればする程、後の降り戻しは酷くなるわね」
「間違うた事を正しかった事にしようとしたら、いかんわえ。神様じゃないがやき、あった事を無かった事には出来ん。間違うた事を間違うたと認めるしかないがよね。何回でも間違うけんど、それはその度に間違うたなぁと思い知るしかないがよ」
深いなぁと思いました。次は間違わない様にしようと思いながらも、また似た様な事で間違う私達人間の愚かさや滑稽さを、嘲笑う事なく冷静に見届けている宮じいは、人としてカッコイイと思いました。
フェイクが最後に大元の白鯨を食べようとする瞬間、瞬はフェイクに叫びます。
「ごめん、俺が間違ってた。共食いなんかさせてごめん。間違った方に来ささせてごめん。八つ当たりしてごめん」
「許してなんて言わないから、だからそれ以上お前は間違うな。」
重くて意味のある言葉でした。フェイクは白鯨に帰化して平和は保たれ、瞬の成長をフェイクも喜んだんじゃないかなと思います。
最後の二人、瞬が佳江に触れるシーンも良かったけど、やっぱり春名の光稀への告白が良かったです。幸せそうで、こっちも嬉しくなりました。
これで有川浩さんの作品を読むのは三冊目ですが、たまたまなのか作中で必ず近しい人が亡くなっていますよね。批判じゃないけれど、そういうのを立て続けに読むと結構凹むから、次は誰も亡くなっていない作品を読みたいです。
個人的には『海の底』の方が好きでしたが、『空の中』も中々面白かったです。