仙台の凱旋パレードで、首相がラジコンヘリの爆発により暗殺された。
容疑者は宅配業をしていて、仕事中に部屋で襲われていたアイドルを助けた青柳雅春。
しかし、これはでっち上げられたものだった。
国家と警察から逃げ切れるのか?
そして、事件の真相は…?
『ゴールデンスランバー』
著者
伊坂幸太郎
発行者 株式会社新潮社
ISBN 978-4-10-459603-4
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
大学時代の仲間である森田に、何か厄介な事に巻き込まれているぞと教えられ、助けられた青柳は、とにかく逃げる。
ケネディ暗殺の犯人と言われていたオズワルドに準えられた青柳は、留守だと分かっていた稲井さんのアパートの部屋で隠れていると、警察にまた追われる。
同じく大学時代の仲間であるカズに電話し、家に行くが、ファミレスで待つように言われ、カズは警察に撃たれる。
かつて勤めていた宅配業社のHPからロックをモットーにし、青柳に仕事を教えた岩崎の担当地域を調べ、集配を依頼する。
カズを助けに行き警察に捕まるが、連続通り魔のキルオこと三浦に助けられる。
岩崎に荷物として運ばれ仙台を出ようとしたが途中で足がつき、岩崎の協力でどうにか逃げる。
青柳の元彼女で、大学時代の仲間である樋口春子は、どうにか青柳の助けになればと、かつて一緒に乗った車のバッテリーを換えに行く。が、既に青柳はその車を見に行き、エンジンがかからない事を確認していた。
しかし、三浦が青柳の後をつけていて、青柳に車が使える様になった事を教えた。
三浦は自分も逃げる為に整形しているらしく、そのヤミ医者経由で青柳の偽者を探し出す。
青柳の偽者は病院に匿われており、三浦の言う通りその病院に向かうのだが、三浦と偽者は揉み合ったらしく、死んでいた。三浦も青柳の偽者に撃たれて死んでしまったのだった。
三浦の携帯に電話してきたヤミ医者は、情報が間違っていたと告げるが、既に遅い。
死体を前にいつまでも居るわけにいかず、青柳は病院を出ようとするが、入院中の裏社会の人間・保土ヶ谷とぶつかる。
保土ヶ谷から「下水管(正確には雨水管)を走るか?」と提案され、保土ヶ谷の連絡先を貰った。
一度行った場所には行かないとふんでいるだろう警察の裏をかいたつもりが、稲井さんの部屋には定年間近の警察官・児島が居た。
大人しく無実の罪で捕まる訳にもいかず、仕方なく児島を縛り、青柳はテレビ局へ電話をかける。
明日、警察に捕まるので、自分の声をテレビで流してくれと頼んだのだ。
電話が終わり、付けたテレビには父が映っていた。
“「名乗らない、正義の味方のお前達、本当に雅春が犯人だと信じているのなら、賭けてみろ。金じゃねぇぞ、何か自分の人生にとって大事なものを賭けろ。
お前達は今、それだけの事をやっているんだ。俺達の人生を、勢いだけで潰す気だ。
いいか、これがお前達の仕事だという事は認める。仕事というのはそういうものだ。
ただな、自分の仕事が他人の人生を台無しにするかもしれねえんだったら、覚悟はいるんだよ。
バスの運転手も、ビルの設計士も、料理人もな、皆最善の注意を払ってやってんだよ。
何故なら、他人の人生を背負ってるからだ。覚悟を持てよ」”
“「面倒な事になっておりますが、こっちはどうにかするから。
母さんもそれなりに元気だ。お前もどうにか頑張れや。
まあ、雅春、ちゃっちゃと逃げろ」”
保土ヶ谷と病院で会った樋口は、青柳の為にマンホールの蓋を換えに行くという保土ヶ谷に付き合う。
青柳とテレビ局の約束は守られなかった。
“唯一出来る事は、逃げる事だ”
愕然とした青柳の頭に浮かんだのは、森田、そして三浦が言ったこの言葉だった。
青柳はかつてアルバイトしていた花火屋の轟の息子が打ち上げた沢山の花火に助けられ、再びマンホールに戻る。
もしもの場合、青柳はあのヤミ医者に整形を頼んでいた。マンホールを抜けた先に居たのは、かつて自分が助けたアイドルだった。
事件から三ヶ月後。
花火屋の轟社長・息子の轟一郎・樋口等は、自分達は脅されてやったのだと示し合わせたかの様に証言し続けていた。
三浦が青柳を連れていったアパートの住人が、日本中を旅して帰ってきた事を青柳は確かめる。やはり三浦は殺していなかったのだ。
岩崎は逃げ切れたら奥さんにキャバクラで浮気したと告げ口してみろと言っていた通りに、見知らぬ男が家にやって来て浮気を告げ口したのだ。
「青柳、おまえはロックだよ」
青柳の両親は家に届いた郵便を開ける。そこにはかつて息子の長期休暇であった書道の自由課題と同じく、和紙に“痴漢は死ね”と書いてあったのだ。父が息子に書かせた言葉が、そこにはあった。
青柳は森田の墓参りをする。そしてその帰り、昼食を摂る為に寄った真新しい商業ビルのエレベーターで、樋口と夫、娘と偶然出会う。
整形をしているから気付かれないであろうと思っていた青柳に樋口の娘がやってきて、「お母さんがこれ、押してあげなさいって」と言い、青柳の左手にスタンプを押した。
“たいへんよくできました”
それはかつて樋口と付き合っていた頃に、私達ってどんなに頑張ってもたいへんよくできましたは貰えない気がする、と樋口が口走っていたその判子で。青柳は左手を口に近づけ、早く乾く様にとふうふう息をかけた。
凄い話でした。
電話やあらゆる通信回線が安全の為と言い国に監視されている世の中、しかもそれが仙台でのみ施行中という感じがリアリティ溢れていました。人に監視されて困る様なものは持っていない小心者の私でさえ、あれは読んでいるだけで本当に不愉快でした。樋口さんの気持ちがよくわかった。
ところどころ出てくる大学時代の仲間である四人は楽しそうで、時折、深い事を口走っていて、思わず、自分のかつての部活仲間を思い出しました。あれはとても懐かしかった。
三浦君がかっこよかったです。完全に悪い人なんていないから、三浦君が例え連続通り魔だったとしても、青柳を助けたのは単なる気まぐれだったとしても、青柳にとっては渡りに船だった事に間違いはなく、人間関係の不思議さを物語っていました。
何か巨大なものに睨まれ、ターゲットになると皆が敵の見える。
その気持ちはよくわかったので、自分を信じてくれた人達に青柳が間接的にでも出会い、泣きたくなる度に、私も泣きたくなりました。
また、作中に花火屋の轟社長の言葉で“思い出は大々似たきっかけで復活するんだよ。自分が思い出してれば、相手も思い出してる”といった言葉がありましたが、こればかりは、そうだったら良いのにな〜と思わず何人かを思い浮かべてしまいました。気の持ちようかもしれませんが、少し気持ちが楽になった気がしました。
捕まるな。逃げろ、逃げろ。
じっとそれを考えて読み進めていました。伊坂幸太郎さんは力のある作家さんですね。逃げる事を主軸に置いて、他にも青春とか、人を信じるとか、言葉にすればどこか安っぽい話が、上手く文章になっていました。色んな広がりがある本でした。
凄く良かったし、これは人にも自信を持って薦められる、もう一度読みたい本です。