クリスマスにまつわる六つの短編集。
『クリスマス・ストーリーズ』
著者 大崎善生
奥田英朗
角田光代
島本理生
蓮見圭一
盛田隆二
発行者 株式会社角川書店
ISBN 4-34-873667-1
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
「セブンティーン」 奥田英朗
高校生の娘を持つ主人公は、クリスマスに託つけて彼氏の家へ外泊をしようとしている娘を止めるべきか、目を瞑るべきか悩み、結局、止めずに送り出す。
「クラスメート」 角田光代
不倫をしていた夫と離婚する事になった主人公は、離婚届にサインする代わりに、ラブレターを書いてほしいと頼む。別れた夫からの、人生初めてのラブレターは、たった一言。
“好きだった。ごめん。”
「私が私であるための」 大崎善生
初めての恋は不倫だった。別れて、会社を辞め、飛び乗った列車の中で出会った医師は、余命幾ばくかだと言う。死ぬつもりではないですよね?と聞かれ、念を押される主人公は、自分をしっかり持とうと決意する。
「雪の夜に帰る」 島本理生
“最近、妙に疲れるのは仕事が忙しいせいにしていたけれど、本当は違うのかもしれない”
小学生からの幼なじみと中距離恋愛をしている主人公は、同じ会社の同僚にキスされ、隙があるあなたも悪いのだと言われてしまう。
“私の心は口に出せない不満で疲れていて、無意識のうちに隙を作っていた。その気はなかったとはいえ、もっと私の態度がしっかりしていればあんな事にはきっとならなかった”
クリスマス当日、彼の欲しがっていたベッドのマットレスを担ぎ、彼に会いに行く。
「ふたりのルール」 盛田隆二
不倫をしている主人公は、かつてプロポーズされた同僚にまだ付き合ってんのか?と聞かれる程、長い間不倫を続けている。約束が破られても、連絡がつかなくても、それでも身一つで来てくれたなら幸せを感じられる。先の分からない二人だからこそ、来年もよろしくお願いします。という言葉が、とても嬉しかったのだった。
「ハッピー・クリスマス、ヨーコ」 蓮見圭一
夫婦喧嘩の勢いで「出ていけ!」と言ってしまった主人公は、妻が帰ってこない事を幼い息子から責められる。自分の非を認めるようで、意地になり迎えに行くどころか連絡をとる事も出来ない主人公は、母がいないと眠れないと言う息子に自分と妻の過去を振り返る様に思いついた事を語り出す。
“男の26歳というのは不思議な歳でね。大人のフリも出来れば、子供っぽい真似も出来るギリギリの年なんだよ。少なくとも、自分が何をしたくないのかは分かっていた。その上で何をしたいのかについても分かり始めていた。”
後悔とも愚痴ともとれるその話を聴いている息子に、早いクリスマスをしようと、カサブランカを耀子に渡してくれと頼む。
やたらと不倫の話が多いな…流行ってんのか…?なんて思いました。話としては、「雪の夜に帰る」の引用した文章が良かったなと思いました。作品自体も、長年友達として一緒にいた二人だけあって、無理の無い空気感が素敵だなと思いました。
「ハッピー・クリスマス…」で父が言った一言が痛いけどよく分かってしまう、ズルく立ち回る事を覚えてしまった自分に響きました。
“怒ったり泣いたり出来るのは、まだ夢や希望があったと言う事。理想を大事にしたいと思ってる、けど、実際にはいつも現実に負けちゃってるんだよ”
違うと分かってるのに、そうは出来ない。葛藤の中で割りきる事も出来ない。そんな気持ちが全て、この言葉に詰まってる気がしました。現実に負けないように、頑張らなきゃなと励まされた。
短編集の特徴を生かし、どの作品も読みやすかったです。