恋が生まれるのは、電撃的ではなく、真新しい場所とも限らない。
短編集です。
『一千一秒の日々』
著者 島本理生
発行者 株式会社マガジンハウス
ISBN 4ー8387ー1592ー7
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
「風光る」
“窓から見える街の光はどうしていつもこう遠く感じるのだろう”
高校生の頃から付き合っていた二人は、大学を経て就職し、半同棲をしていた。休みの日、久し振りに出掛けた遊園地で、二人は過去の事ばかり話す。
“彼が好きだった過去のために泣いた。彼の事が好きだった自分の為に泣いた。泣いている自分の輪郭まで明るさに溶けていくように思えた、そんな風光る朝に私は大好きだった恋人を見送った”
「七月の通り雨」
“子供の時から人付き合いが苦手だった。それなりに親しくなる事はあっても、一歩、先に踏み込む事が出来ない”
「風光る」の主人公・真琴の友人・瑛子は、今までのどの恋人よりも真琴を理解していると自負していた。
“なのに、どうしてわざわざ違う生き物を選び続けるのだろう。どうして私では駄目なのだろう”
同性を好きだと錯覚している瑛子は、自分が他人と付き合う事が出来るかどうか分からない。深く関わる事で、お互いにどうしても理解し合えない部分を見つけてしまったり、期待しすぎて逆に失望したり。そういうのが嫌なだけで。
“本当は性別は関係ないのだ。お互いに認め合って必要としているなら。そういうこの世でたった一人の相手になれるなら”
それさえも、決めつけるのではなく、少し試していこうという彼のお陰で、雨は止むのだった。
「青い夜、緑のフェンス」
バーテンの針谷は、太っている自分にかなりのコンプレックスを持っている。中学の頃から針谷になついている一紗は、針谷からすればワガママ女だ。
しかし、「暴言は吐くけど、本当に言っちゃいけない事は言わないから偉いと思う」だからついつい彼女の言う事を聞いてしまう。
「相手が自分を好きになる事なんて絶対ないって思うのに、心のどっかで空想して、その間にそこそこ気に入った相手と付き合って、同じ位置から動けなかった。そうして何年も経っちゃったよ」
卑屈すぎて自分を好きだと言う女の子の言葉が信じられない針谷が、一紗により少し踏み出す。
「夏の終わる部屋」
針谷の友人・長月は、彼女に執着しないせいか、長続きしない。一紗の友人達との合コンにかり出された長月は、操と知り合う。
自傷癖のある操は実家と不仲らしく、露骨に実家の話を避けた。一紗から操が他の男と歩いているのを見たと聞き、操の携帯を見た長月は、むしろ自分が浮気相手だと知る。
「お前、この世で自分以外の人間は傷付かないと思ってるだろう」
操を責めてからそれきり連絡が取れなくなり、長月も操を忘れていった頃、一紗から操の話を聞く。「本命だった国立に失敗してお父さんに歩道橋から突き落とされたって」
“言いたい事は沢山あった。知っていたなら、肉体的な痛みなら、俺だって嫌と言うほど理解できたのに。何人居ても死ぬ時は一人だと気付いていたのは俺だけではなかったのか”
しかし、時間も操も戻らないのだった。
「屋根裏から海へ」
真琴の元カレ・加納くんは「僕はたとえ誰かを好きになっても、その相手が自分じゃなくても良いと思うところがある」という、理屈っぽさの固まりの様に正しい人。
家庭教師の教え子の姉に寂しさから言い寄られ、うんざりする。
「新しい旅の終わりに」
一人で行き先を決めずに車で旅に出るという加納くんに付き合い、温泉旅行に行く真琴。
「加納くんはよく、全て自分の責任みたいな言い方をするけれど、私は別に助けてほしいとは思っていなかったよ。ただ、いつも君が申し訳なさそうな表情をしている事の方が辛かった」
すれ違った二人がお互いを通して自分を見つめ直す。
「夏めく日」
高校時代の瑛子は、担任が神経質で嫌いな女教師と結婚すると聞き、彼女に怪我をさせようと企む。
実行犯ではないが、唆したのは間違いなく瑛子で、担任は瑛子を誤解したままでいる事が辛くなる。