脚本家の根室は大学時代にバイトをしていた塾の生徒で小説家の砂川と会社を立ち上げた。
片思い中の事務の真知子が主人と別居中だと聞き、家へと誘う。そこに訪ねてきたのは、十数年振りに見る娘だった。
脚本家の父を見込んで、自分が小説を書いたので読んで出版社を紹介しろと言うのだが、社会の厳しさを知っている根室は渋る。それでも押しきられ読むと、中々面白いのだ。
劇作家が描く、等身大の物書きの現状。
『君の心臓の鼓動が聞こえる場所』
ナルイ
著者 成井豊
発行者 株式会社ポプラ社
ISBN 978-4-591-10608-2
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
大学時代にバイトをしていた塾で同じ講師をしていた亜希子と出来ちゃった結婚をした根室は、四歳まで娘・いぶきと生活していたが、いつまでも夢を追いかけ給料は微々たるものだった。亜希子に離婚を言い渡され、根室は脚本家として何とか食べていけるようになった。
離婚の際にもういぶきと会わないと約束させられた根室は、突然現れたいぶきにどうしていいか分からない。
いぶきのペンネームであるらしい石狩鈴音の小説は、漫画や雑誌しか読まないいぶきが書いたとは思えない程の出来で、根室は砂川に小説を読ませ判断を仰ぐ。数ヶ所直せば出版出来るのではないかという砂川の言葉に気を良くしたいぶきは、砂川のサイン会に同行し、編集者を紹介してもらう予定だったのだが、急に居なくなってしまう。
約束を反故にした事が引き金となり、その小説は誰が書いたのかと問い詰めた根室はいぶきの嘘に埒があかないと判断し、亜希子に連絡する。
いぶきが来ているという根室に、こんな時に何を言ってるのと怒って電話を切られてしまった。ますます意味がわからない。
目覚めたいぶきは話し方もまるで違う女の子になっていた。聞けば自分が石狩鈴音だという。
いぶきの親友である鈴音から、いぶきが病院で生死をさ迷っていると聞かされた根室は、いぶきが鈴音に「身体を貸してほしい」と頼んできたと告げる。つまり、鈴音の身体を借りて、生死をさ迷っているいぶきが根室の元にやってきたのだった。
ただで身体を貸してくれた鈴音に申し訳なく思ったいぶきは、脚本家の根室なら鈴音の小説を出版してくれるのではと考えたのだ。そして根室は仕事を高速で終わらせて、いぶきの居る札幌行きの飛行機に乗る。
「お父さん、約束守ってくれてありがとう。必ず来るって言ったじゃない。私が来てって言ったら、仕事を放り出してでも来るって」
“そうだ。この子は、僕の娘だ。”
四歳から会ってなければ、大学生になった娘が分からなくても当然なの…かな?お父さんってそんなもん?まぁ、化粧とかで綺麗になってる人が本気でモテたりするからそうなのかな。なんか、リアルだなぁと思いました。笑
砂川のキャラクターを分かりやすく伊坂幸太郎の様だと読者に伝えるため、伊坂作品をもじった砂川の代表作は思わず笑っちゃいました。「蛇とカエルのコインランドリー」「沢蟹の解度」「強気なギャルがお灸を増やす」とか。これは伊坂さん怒っていいと思う。苦笑
劇作家だけあって、字面だけではありがちな話でした。これが映像や舞台になると本業発揮する様に作品が活きてくるのかな?コメディ路線しか思い付かないけれど。
いぶきが推理小説が苦手だと砂川に言うところで、「現実の世界だって、これだけ物騒な事件が多いのに、わざわざ小説で人が死ぬのを読もうとは思わない」と言うのはちょっと笑った。この作家さん、アンチ伊坂さんなんですかね?笑
根室から始まる石狩、砂川と、北海道の地名が目立つ作品でしたが、何か悪目立ちしているようでもう少しセンスが欲しかったような…まぁ、簡単に読めます。