美大の受験を失敗した一本槍歩太には、精神病で10年も入院中の父がいる。
母親と二人で慎ましくも楽しく暮らしてきた歩太は、一目惚れから恋に落ちた。
父の担当医であり、自分の彼女の姉に。
エンジェルス・エッグ
『天使の卵』
著者
村山由佳
ISBN 4-08-774051-X
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
春妃は誰に対しても、一定の距離をおいて付き合っているようだった。それでいて、誰にもその事に気付かせてはいなかった。
どうやら僕だけが、彼女の引いたその一線を感じ取る事が出来るらしかった。
それは多分僕が、息苦しくなるほどのせつなさで、彼女の心の中に入り込みたいと願っているからにほかならなかった。
春妃は一度結婚しており、旦那と死別していた。
「お願いだから、私をそっとしておいて。人を好きになって泣いたり悩んだりするだけの気力は、もうどこにも残ってないのよ」
父が退院して屋上から飛び降り自殺をしたことが、旦那と同じ死に方だったと自分を責める春妃と歩太を近付けた。
「私が助けてあげたいと思う人に、私の手は届かない。私なんか、どんなに一生懸命やったって何の役にもたたないんだもの。死なせてしまった五堂こ代わりに、せめて誰かを助けてあげたいだなんて、思い上がりよね」
「親父の心には、結局誰の手も届かなかった。僕とおふくろも、ある意味じゃやっと解放されたんだよ」
彼女・夏姫の姉・春妃とささやかなクリスマスディナーを過ごした歩太は、夏姫に別れを告げる。
ハプニングもあり春妃に言い寄ってきた長谷川医師を殴った歩太は、美大に受かったら二人で暮らそうと提案する。
夏姫に話していない事を心苦しく思う春妃を支え、順調だった同棲も、突然やって来た夏姫の狼狽により崩れる。
バイトから帰ってきた歩太が見たのは、白い布を顔にかけたまま眠るように死んでいる春妃の姿だった。
お腹に居た子供。
一度流産するとしやすくなるという危険性。
直接の原因は検査を怠った医師の医療ミスだったが、歩太は自分がつまらぬ意地を張ってバイトに出掛けてしまった自分をやるせなく思う。
春妃と暮らした部屋。
春妃だけをスケッチしたクロッキー帳。
“そこには、春妃がいた。”
“どのページにも、どのページにも、春妃があふれていた。”
先輩が初めて読んだのは村山由佳だと聞いて、同級生が昔泣きながら読んでいたなぁ…と手にとりました。
とりあえず、図書館にあった四冊借りてきたので、しばらく村山由佳ワールドです。笑
大きな荒波の中の出来事の様に、グルグルと目まぐるしく変わる世界でした。大人な部分と、子供の部分を併せ持った歩太は何だか先輩のようで、人事じゃなかったです。
さっきチラッと確認したら、天使の梯子に夏姫が出てきてました。続き物かもしれません。