震災の起きる朝、大学教授に送った青年・甲坂礼司の小説が、大学を去ることとなり十五年の月日を経て見つかった。
その小説。
『この女』
著者
森絵都
発行者 株式会社筑摩書房
ISBN 978-4-480-80431-0
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
その日暮らしをしていた甲坂は、大学生・藤谷大輔にプロレタリア文学の課題の代筆を頼まれ、お金をもらって引き受けた。
数年後、大輔は木之下教授から頼まれ、甲坂に再び小説を書くように依頼した。
依頼人・二谷啓太はホテルの社長で、なんでも自分の妻・結子を主人公にした小説を書いてほしいと言うのだった。
妻は変わった女で、結婚前はホステスをしていた。やがて自費出版を考えているが、小説を自分て書くのは大変なのだと言う。
自分の事を語ろうとしない妻は、嘘ばかりつくのだが、どうやら小説のような人生を送ってきたらしい。勿体ないので小説にしたい。
そんなような内容を言う依頼人に、甲坂は戸惑いながらも引き受ける。
前金を貰った甲坂は、結子から依頼人の真意を聞く。
兄嫁が回顧録を自費出版したのをみて、対抗心からこんなことになったのだ、と。
そして甲坂のように雇われた小説家の卵は、甲坂で四人目と知る。
結子は遠い過去を話さないだけで、近い過去はよく喋る。
その事に気付いた頃、結子とも依頼人とも連絡がとれなくなった。
小説を書き続けながら日雇いの仕事を続ける甲坂に、苦言を呈する松ちゃん。
「人間、夢を食うては生きていかれん。自分を守れるのは自分だけや。その自分がしょっちゅう敵にもなる」
漬け物屋に産まれた結子は、事業に失敗した両親とボロアパートで暮らしていたが、父が亡くなり、勤めていたパチンコ店のオーナーの愛人となった母に連れられ、愛人寮へと移った。
愛人寮で兄弟の契りを交わした敦と結子は、愛人にされる前に脱出する必要があった。
小説を書かせた本当の理由は、愛人寮などを作り、愛人の娘でさえもてごめにするオーナーの弱味を握りたかったからなのだが、オーナーが立ち退きを承諾したので、小説を抹消する事が必要となったのだ。
こうして依頼人と対立してしまった甲坂は、結子や敦の協力もあり、小説を書き続ける。
識字障害と左右が咄嗟にわからないという自分のハンデを背負っている事を結子に話すと、「人間、嘘でもなんでも、言わへんよりは言うたほうがええよ」と言われる。
結子と一緒に東京で暮らそうと考えた甲坂は、その旨を報告して回った。
――――しかし、現実は小説よりもタフだった。
松ちゃんがヤクザと手を組んで、故郷を守るためにやばいことに手を染めようとしているのを知った甲坂は、松ちゃんを止めようと、東京行きを翌日に伸ばし、震災に遭うのだった。
面白かったです。引き込まれました。
小説タイトルを寧ろ、「この男」にしたいくらいという教授の気持ちがよくわかった。楽しめました。