櫻井佳奈は、継野先生と由希子夫妻がひっそりと営む書道教室の生徒だ。
佳奈は、書道をする時間が好きで、先生の言葉に甘え、好きな時間に教室に行き、和歌や短歌を書いていた。
妹・紗英が17歳になり、佳奈は櫻井家に古くから伝わる話を思うと、居てもたってもいられなくなるのだった。
櫻井家で十数年に一人生まれる、神童と言われるほどなんでも出来てしまう子供は、17歳でみんな自殺してしまうのだ…。
『葉桜』
著者
橋本紡
発行者 株式会社集英社
ISBN 978-4-08-771418-0
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
「思いつめると硬くなる。思いは、深く沈めたくらいでちょうどいいんだよ」
書に対して、継野先生はいつも真摯で、ほかの書道をたしなむ先生たちと違い、書をうまく模写することではなく、書の意味を理解していくことを重視していた。
いつも書の時間には何らかのお話を聞いているが、それを聞いたり、うますぎる継野先生の書を見るたびに思うのだ。継野先生はどうして、書家として活躍しないのだろうか?と。
継野先生と同じ教室出身の塚本先生の個展を見に行った佳奈は、継野先生が塚本先生の書を見て感じ取った自分の敗北を、思い知る。
塚本先生の弟子・津田君を、夏休みの間、継野先生の教室に通わせることになったらしく、教室を続けて長い佳奈が、何かと津田君の面倒を見ていた。
やがて、津田君は佳奈に恋心を抱くが、佳奈はずっと継野先生を見続けていた。かなわない初恋。
「わたしのせいなの」
継野先生は、かつて有名な書道家の先生の恋人だった由希子さんを、奪ってしまったから、書家の道を諦めたのだ、と。
「たったね、それだけ。あの人、本当に馬鹿だわ。欲したのは私の方。継野は最後まで戸惑っていた。ただ、私幸せだとも思うの。こんなに愛されているんだから。そして、辛くもあるの」
紗英にフラれたことを話すと、紗英も、17歳になったけれど、死ぬ予兆なんて何もないのだという。
二人で夜空を見ながら、今を生きていた。
橋本紡さんの小説は、不思議な感覚にいつもなります。
ふわーっと真綿に包まれているような…不思議な感覚ですね。