警視庁の渕神律子(29)は3年前、同僚・元岡と凶悪犯“ベガ”を追いかけていた際、自分の体力が続かなかったせいで、元岡に歩けなくなるほどの怪我をさせた上、ベガと対峙した際に顔を傷つけられてしまい、取り逃がす。
「土壇場でびびりやがって。これだから、女は当てにできないんだよ」
刑事という職業柄辛いことが多く、酒に逃げる律子は、入院先の病院で看護師・町田景子と暮らすようになる。景子に隠れて酒を飲むほどのアルコール依存症になってしまった律子から、何とかアルコールを断ち切ろうとしていた。
鳥谷と共に現場に向かった律子は、上司命令に背き犯人の行動を先読みし逮捕するが、鳥谷を怪我させてしまう。
「手柄をたてる為なら、仲間の命なんかどうでもいいんだからな」と陰口を叩かれた律子は、男社会の警察で頑張っていた。
同僚の芹沢に嫌われている律子は、手柄を立てる為には汚い手段でも使うという点で、自分と似ている芹沢が、何故、目の仇のようにつっかかってくるのか疑問に思っていた。実家に帰ると介護が必要となってしまった父が、水と騒いでいた。弟を自殺するまで追い詰めた父を許さない母と律子は、同時に自分を守るばかりで弟を父から守れなかった苦しみを抱いていた。
アルコール依存症の律子と一緒に暮らすにあたり、景子は転院している。
前の病院でクリスマスイブに運ばれてきた男性は、腕に重症を負っており、医師は腕の切断を決めた。その場にいた景子含めスタッフは誰も、その男性がピアニスト・天野正彦とは知らず、天野の将来を消してしまったのだ。意識が回復した天野はそれを知り、病院の屋上から飛び降りてしまう。
その頃景子は私生活でも離婚し家を追い出された、4年経った今でも、月に一度の息子との面会でよそよそしくなってしまう景子。それは、息子とよく似た姿だった。
律子も景子も過去に何かを抱えている。だがこの二人は一緒に暮らす際に、“お互いの過去に立ち入らない”という約束をしている為、近くにいるのに遠い存在の様な、特殊な関係なのだった。
『スカーフェイス 〜Dear or Alive』
著者 富樫倫太郎
発行所 幻冬舎
ISBN 978-4344-02660-5
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
負傷した鳥谷の代わりに律子と組みになったのは、キャリアで若い藤平警部だ。気性が荒い律子といつまで続くか見物だという周りにも苛立つ律子。
尿管結石を装う詐病の疑いがある中年男に女医は強く出てしまい、それが引き金となり包丁で男性看護師を切りつける騒動となってしまう。景子を訪ねて来た律子の機転で中年男は捕まるが、もみ合いになり怪我をした律子に、景子は無茶をしないでと釘を刺す。ひったくりを捕まえる為、カーチェイスをして大目玉を喰らったり、相変わらず律子はやることが派手で上司に忠告を受けるのだが、少女が男7・8人に連れ去られたと聞き、藤平と二人で乗り込み、少女を救出した。お手柄の律子だったが、犯人の中に代議士の息子がおり、特別捜査第三係に飛ばされてしまう。苛立ちの募った律子は酒を飲み、景子を殴ってしまう。
景子に暴力をふるってしまった事もあり、警察を辞めようと退職願いを書き、鳥谷のお見舞いに行った律子は、「警察にはお前が必要なのだ。辞めるな」と言われてしまう。異動先の第三係に入ると、藤平がいた。なんと彼も今日から異動してきたらしい。
エレベーターで芹沢と会った律子は、ここぞとばかりに嫌味を言う芹沢に苛立っていると、かつて芹沢の教育係だったという第三係の円に助けられる。ベガにつけられた傷を残している律子に円は、暇な窓際部署である第三係で、未解決事件を追うのはどうかと提案する。ベガについて捜査をすることに決めた律子は、何故か加わりたがる藤平と円と一緒に動き出す。
ベガが起こした最初の事件は、路上でパート帰りの主婦が刺され、死後、胸にVの字が刻まれていた。二つ目の事件では、男性開業医が刺され、息のあるうちに胸にEと刻まれる。三つ目の事件では、主婦が刺され、死後胸にGと刻まれる。四つ目の事件では、男子高校生が刺され、胸にAと刻まれる。そしてこの4つの死体は左中指の爪が剥がされていたのだ。
ベガの事件を調べている事をうっかり口を滑らせた藤平は芹沢の怒りを買ってしまう。どうして律子を目の仇にしているのか尋ねると、一喝して去っていく芹沢。女医に誘われた景子は、女医からレズだとカミングアウトされ、景子も同じだから律子と暮らしているのではないかと勘ぐられ戸惑う。
ベガの足取りを藤平と追う律子は、律子がベガに追い付けなかったという点から陸上経験者ではないかと考える。ベガと対峙した時に、何か五感で感じたことはないかと藤平に聞かれた律子は、無いと答えながらも引っ掛かる。
被害者遺族ともう一度話をした二人は、最初の事件で殺されたパート主婦は、飲酒運転の疑いがあった刑務所にいる息子の罪を隠蔽した可能性が出てくる。人に恨まれる様な人ではなかったという被害者達だったが、4人の被害者各々が人に言えない秘密を抱えているようだった。被害者という絶対的立場の根幹が崩れていくのを感じる律子。
仕事に熱中して景子を忘れる律子に不満を感じていたところ、医師・西岡真琴に誘惑される。西岡はお金持ちで彼氏がいないらしいが、景子に興味を持った事に驚きを隠せない景子。
五感の全てを使えと藤平に言われた律子は、ベガと対峙した時の事を思い出し、ベガが女かもしれないと思った事を話す。すると円も同じことを考えた事があるという。更に円はベガに襲われた四人の被害者は、被害者本人ではなく、被害者の家族が恨まれ、そこを傷つける事で報復したのではないかという点だ。VEGAに律子の相棒・元岡のP、律子のIの傷跡のメッセージを並べ替えようとするが、まだその意味が掴めない。
律子がベガに対峙した時、女性ではないかと思った事を思い出した律子。
被害者の一人で、交番勤務をしていた警官が扱った事件のうち、ベガの周囲の人物が何かされた形跡はないかと探し始める。ピアニストがひき逃げされた事件が上がり、家族を殺された3名が関わっていると掴んだ。
ピアニストは景子の救急病院でピアニストだと気付かれず、延命の為に腕を切られ、自殺してしまう。
ピアニストの誕生日に、必ず被害者が出る事に気付いたその日、新たな被害者が出る。ピアニストの記事を書いた週刊誌の記者の妻が殺されAと刻まれる。記事を書いてすぐ海外へ転勤したが、最近日本へ帰ってきた殺された事から、ますますベガの人物像が読めなくなる。
藤平がGAVE PAINではないかと推理する。“痛みを与えた”そこでNがいないと気付いた律子は、次の被害者が出る事に気付く。円は芹沢より重要参考人・西園真琴を今夜引っ張る事を聞き、ピアニストが関わった手術に参加していた看護師として、景子の名前が上がり、動揺する律子。律子は景子から何も聞いていなかったのだ。藤平と共に病院へ向かう律子。
律子から連絡が入った景子は、西園真琴がピアニストの妹だと知る。どうしてピアニストの手術に関わった事を隠したのかと律子に聞かれた景子は、自分はあの時追いつめられていて、息子を虐待していたのだと話す。藤平はその話を聞き、ベガは加害者の大切な人を殺すことから、息子が危ないと考え、病院のロビーにいる捜査一課に応援を頼みに行く。
律子の携帯に、今すぐ景子と地下駐車場へ降りろと犯人から連絡が入り、急いで向かうと西園真琴と息子が待っていた。景子にとって、律子と息子のどちらが大事なのか判断がつかなかったという西園真琴は、景子にスティレットという慈悲の剣を渡し、息子が大事なら律子を殺せと迫る。律子を刺すことも、息子を見殺しにする事も出来ないと泣く景子を見た律子は、自ら景子の持つスティレットに向かい刺さりに行く。
律子が倒れ、藤平が駆けつける。律子は藤平に西園真琴を撃てと言い、藤平は西園真琴を撃つ。律子の上に倒れた西園真琴は、律子が持っていたスティレットが心臓に刺さり、亡くなった。
西園真琴は実行犯だが、西園真琴の口振りから、オペレーターという別人物がいると気付く律子。
入院した律子は、芹沢にスタンドプレーを怒られる。それは芹沢自身もスタンドプレーをしたせいで、円の片目と足に後遺症を遺してしまった事から、スタンドプレーの危険性を誰より身に染みて分かっていたからこそ、考えられたのだと言う。
芹沢が帰り、一人考えていると律子の携帯にオペレーターから電話が入る。
「西園真琴は使命を果たした。世の中は公平でなければならない。それ故、正義が為される必要がある。人の命を奪った者はその罪を贖わなければならない」
景子と律子には、罪を償ってもらうというオペレーターは、律子の怪我が治ったら、ゲームを始めると予告するのだった。
富樫倫太郎は刑事物が上手いですね。続きがあるなら読みたいです。