夜中だけ開店するパン屋・クレバヤシに、托卵先として預けられた、亡くなった妻の姪っ子である女子高生・希美は、子供の頃から母のネグレクトにより色んな人の家に預けられて育った。他人の家でいじめられながらも生きていく為、ひねくれて育ってしまった希美だが、人を疑う事を知らない暮林と自信過剰なパン職人・弘基は暖かく歓迎される。

奔放だった希美の母と自分の父が不倫していると勘違いした同級生にいじめられながらも、彼女の未熟さと、両親に甘えられる環境に嫉妬して苛立っていた。
それを見抜いた上で、希美の為に暮林が作ったパンを踏まれた事で喧嘩になり、希美は彼女を殴ってしまう。怒って乗り込んできた彼女の両親に対峙した暮林と弘基は上手くおさめ、希美は少しずつ愛を知ることとなる。

ある日、パン屋に入ってきたパン泥棒・こだまは、母に虐待され、食べ物も与えられていなかった。かつては虐待が原因でこだまは施設に離された事もあったという。男と共に生きていく為、こだまを放置したが、こだまは母にどんなにひどい事をされても母が好きなのだ。托卵でたくましく育つしかなかった希美は、こだまにイライラするが、暮林や弘基は、子供の母への愛情をこだまを通して希美に思い出させる。

パンの配達も始め仲良くなったストーカー気味の脚本家や、オカマと仲良くもまれながらも希美は曲がってしまった根性を、少しずつ形成される。

こだまの母がこだまを置いていったのは、自分がされてきたように、こだまに手を上げてしまうから離れようと思ったのだと知り、こだまの母が父が亡くなった今も、父の呪縛から逃れられずにいた。こだまの父が虐待を聞き付け、こだまを引き取ると言い、こだまへのネグレクトを隠したのも罪に問えるのだからこれ以上、こだまに関わるなと言うこだまの父に対し、暮林は虚をつく。

「あなたの言葉は、殆どがコントロールと脅しなんですね。そういう中で、生きてこられたって事なんですかな?」

「もしそうやとしたら、同情します。そんな中で生き抜く事は、難儀やったと思います。ただ、そうやからって、それが人を貶めていい理由にはなりませんけど」

「他人やろうとなんやろうと、関係ありません。この子の人生が損なわれるような場所に、この子を置いていける訳がない」

そしてこだまは希望通り、母親の元で暮らせる事となる。


『真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ』
著者 大沼純子
発行元 株式会社ポプラ社
ISBN 978-4-591-12479-6