在りそうで無い、小さな不思議が大きく膨らんだ様な短編集。
「七階闘争」
一つの市で起こった事件、それは全て七階で起こったものだった。偶々と言えばそれまでの話だが、市長が七階を撤去する事を決定してしまったのだ。
ほどなくして七階に住む森崎の家にやって着た市役所職員の話によれば、七階に住む住人は同じマンションの他の階に空きがあればそちらに、空きがなければ同じ様な条件の部屋に引っ越してほしいというもので、勿論、その際にかかる費用は市が負担するといった話だった。
そう悪い話ではない様に思えたが、一先ず考えますと言い、森崎は同じ会社に勤めている並川さんも七階に住んでいた事を思い出し、並川さんの意見を尋ねたところ、彼女から手渡されたのは七階護持闘争と仰々しく書かれたチラシだったのだ…。
「七階闘争」他、三篇。
『廃墟建築士』
著者 三崎亜記
発行者 株式会社集英社
ISBN 978ー4ー08ー771273ー5
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
「七階闘争」
並川さんと共に決起集会に出てみると、全国七階協議会なるものが存在するらしく、そのメンバーも集まっていた。
集まった人々の多くは、七階を撤去する事自体に反対姿勢を持っているらしく、市役所にかなり好戦的な姿勢であった。やがて全国七階協議会のメンバーとなった並川さんと共に新しく立ったばかりのマンションに全て七階の表示を張り付けるといったゲリラ的反対運動に参加する森崎さんは、七階から出ていかない事を怪しんだ何者かから部屋のドアに中傷のビラを貼られたり、落書きをされていたりする様になった。
それは七階協議会の他のメンバーも同じ様で、次第にメンバーは減っていき、七階協議会は解散となってしまった。
七階から十階に移る事に決めた森崎は並川の部屋訪れたが、並川に他の階へ移る気持ちは無いらしい。「他の街の七階で一緒に暮らそう」と誘うが、並川は「七階と運命を共にする」と七階へ残った。
そうして町から七階は消滅し、六階の次は八階となったのだ。
私達は誰と戦ってきたのか、そもそも七階で事件が起こったからといって七階を無くしたら、今度は他の階での事件の回数が増えているのではないか。疑問に思った森崎は役所に問い合わせるが、七階の事件以前は統計を取っていないという。
森崎は隣町で新たに勃発した七階撤去騒動を目にし、隣町で発足された七階協議会に参加した。そこにはかつての七階協議会のメンバーがいた。
姿の見えぬ「誰か」を見極める為、森崎は今日も七階護持闘争へ参加している。
ほか、「廃墟建築士」・「図書館」・「蔵守」を収録。
時代が変わっていく事、代変わりをテーマにした短編集でした。
あえて不思議な世界へ誘うのですが、図書館の夜間開放で本を飛ばせたり、蔵守の生涯だったり。ファンタジーの様でもあり、言い伝えの様な懐かしさと不気味さもありました。つかめない様な舞台設定なのに、身近な問題ばかりが取り上げられていた様に思うので、そのお陰でスラスラ読めたのかもしれません。
どの話も、何者かの大きな力が働いている事、対立する会社の存在、理念や誇りではなく、利益や目に見える形が求められる社会を嘆いているようにも読めました。
ちょっと怖かったし、読んでスッキリ!という気持ちにならないのも、こういう理由からなら納得です。