sideAの後、スペインに双子が旅行に行った先で、かすみが事故で亡くなった。
ゆかりの夫の尾崎は、生き残ったゆかりが本物のゆかりなのか自信が持てなくなり、かすみと付き合っていた主人公に、ゆかりと会って本物かどうか確かめてほしいと頼む。
『真夜中の五分前
five minutes to tomorrow side A』
著者 本多孝好
発行者 株式会社新潮社
ISBN 4-10-471602-2
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
いくら双子だからと自分を殺して好きな尾崎の妻の座を選ぶ…なんて事があるだろうか?
かすみに会い、スペイン旅行の話を聞く。現地で熱を出したかすみはその日、夢でお告げのあった修道院へ行き、ロザリオを盗んだ。
主人公の上司だった小金井が会社を去り、主人公は転職するが、訪ねてきた小金井は主人公を見て、少し休んだ方が良いなどとアドバイスする。
その通りに休暇を貰った主人公は休みをもて余し、大学生の頃によく行った喫茶店へ行く。マスターと話すと、主人公の元恋人・水穂について「ちょっと蓮っ葉な感じだけど、気持ちのいい笑い方をする子だった」などと言う。
水穂の墓参りに行く主人公は、水穂の父と話す。
「水穂の短い一生の中に君が居てくれて良かった。
いつか忘れても構わない。ただ、もし水穂の事を思い出した時、そこにあったものだけは疑わないでほしい。君と水穂は愛し合っていた。それが幼い愛情だったとしても」
ゆかりに呼ばれた主人公は、ゆかりの中にかすみの記憶もあるのだと言う。二人分の記憶を持っているゆかりは、病院で目覚めた時に、「ゆかり」と呼ばれたからゆかりになったのだと。
「愛情なんて惨めなもんなんだな。
嫌になるくらい惨めで、笑っちゃうくらいに馬鹿馬鹿しくて、それでも僕はそれに少しだけ救われる」
かすみとの暮らしに耐えられなかった尾崎の言葉は重く、真意を得ていた。
“僕は今でも一日の最後の五分間だけ、かすみの事を思う。水穂の事を思う。その時、そこにいた自分の事を思う。
その時間は、僕の胸に静けさと穏やかさを運んできてくれる。一日の288分の1だけ、僕はその静けさと穏やかさの中にじっと身を潜め、自分の中から沸き上がってくるものにそっと身を委ねる。
僕はこれからも色んなものを失っていくだろう。けれど、僕はそれらを一日の小さな欠片の中に集め続けるだろう。小さな欠片はやがて結晶となって、僕を形作ってくれるだろう。そんな気がしている。
そして残りの287は、今の為に使い、今の僕が愛する人の為に使っている。”
すごい話だなぁとしみじみ思いました。双子や母子くらい不思議な事が現実にも起こってるから、リアルな感じもありました。