「大きな熊が来る前に、おやすみ。」
付き合ってすぐに同棲した珠実と徹平は、一緒に暮らし始めて半年になる。子供の頃からずっと眠りが浅く、あまり眠れない珠実の過去とは…。
そのた二編の恋愛短編集です。
『大きな熊が来る前に、おやすみ。』
著者 島本理生
発行者 株式会社新潮社
ISBN 978-4-10-302031-8
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
「大きな熊が来る前に、おやすみ。」
「スタート位置に立つ手前から想像してると、その終わりの見えない幸福って、目的がなくていつまでもクリアできないゲームをやってるみたいで、気が変になりそうだ」
かつて結婚についてそうはなしていた徹平は、“自分の差し出した優しさの見返りを求めない”
一度だけ意見の違いにはらがたった珠実がクッションを投げ付けた時、徹平は珠実をキツく押さえつけた。その恐怖は父から与えられたものと同じで逃れられない珠実は、徹平との子供を妊娠する。
眠りが浅いのは、怖い事をする父が早く寝ないと大きな熊が来ると言った時からずっと、大きな熊が来て、父ごと食い殺してほしくて祈っていた名残なのだと話す珠実。
「父にどこか似た雰囲気の徹平の傍に居たのは、あなただったら、きっと私を殺してくれると思ったから」
徹平が一度だけふるった暴力は、幼い頃、障害のある弟を押さえつけるのをよく手伝わされていた名残で、未だに身内に暴れられると押さえつけてしまうのだと。
互いの事を打ち明けた二人。
“明日を飲み込んでくれる熊など居ない事も、手軽な希望など無い事も知っていた。それでもここからまた一つずつ積み上げていくしかない。生きるとはそういう事なのだろう、多分”
「クロコダイルの午睡」
同じ大学の金持ちの息子・都築新を、苦学生の主人公は苦手とする。
“単純に、彼の無神経な物言いが苦手なのだと思っていた。だけど本当は、彼を通して、自分には決して手に入らない世界を垣間見てしまうのが怖かったのだと気付いてしまった”
人の家にズカズカと侵入してくるのに、無神経な物言いに腹が立った主人公は、蕎麦アレルギーだと言う彼に蕎麦茶を飲ませる。彼が苦しむのを見て、“そもそもこれは彼が望んでいた事だと私は思った。このまま無神経に他人を傷付ける人間でいるよりも、生まれ変わって、何一つ傷付けず、海の音を聞き、時々食事の気配に目を覚ますだけの、そういう生き物になりたいと言ったのは、彼だ”
病院に運ばれた都築は母に、主人公には教えてなかったのだと説明する。
「猫と君のとなり」
部活の顧問だった先生のお通夜で再会したバスケ部。大人しく、動きも鈍かった彼は、とんでもない毒舌だった。
「根性論を振りかざす人って、理屈っぽかったり頭の良い人間に対して生理的な嫌悪感がありますよね」
高校の頃から好きだったと告白され、恋愛ごっこの様な時間を作る主人公は、元カレが愛猫を虐待する精神が不安定な人で、首に手をかけられた事を話す。
後輩と踏み出す一歩。