「遊園地の幽霊」
30年前に取り壊した遊具の動かない遊園地の夢を見る私は、精神的に病んでいるのかと思い、精神科を受診する。すると、遊園地があった場所に引っ越してくる人達は、みんな同じ夢を見るのだと先生から聞く。
子供を楽しませたい、その思いがなくなった今も夢で開園するのだ。
その他短編ばかり収録。
『海に沈んだ町』
著者 三崎亜記
発行元 朝日新聞出版
ISBN 978-4-02-250832-4
以下、追記で感想なので、ネタバレする上に主観入ってます。読んでない方や苦手な方はブラウザバックでお願いします。
「海に沈んだ町」
海にのみ込まれた故郷。20年振りに訪れたそこは、町なんて最初からなかったかのように、一面海になっていた。
嫌でたまらなかった故郷だが、海に沈み、その事を政府もわかっていたので、駅も海に沈まない高さに作られた事に苛立つ俺。そんな私に妻はまた来ようと言うのだった。
「団地船」
昔、転校した同級生の住む団地船を尋ねた俺は、陸ではなく海での暮らしを選び、終の住みかにした人々の暮らしを目の当たりにする。一時期流行った団地船は、海の上で団地ごと船にするという画期的なものだったが、太古の昔から陸で生活していた人には合わないのか、衰退していった。
転校した同級生の消息を知る為に団地船を訪ねたが、手紙からその消息を知って愕然とする。彼女が引っ越した団地船は、陸の生活に戻ろうと最後の航海をしていたところ、沈んでしまったのだ。
「四時八分」
旅をし続ける俺は、朝の来ない町に入り込んだ。案内人として目の前に現れたのは女子学生で、何となく嫌気が差し離れて歩くと、強烈な眠気に襲われた。
突然午前4時8分から時間が進まなくなってしまった町は、その日起きていた者は起き続け、眠っていた者は眠り続ける町。彼女は受験勉強をしていたが為に、眠り続ける家族を見守るのだった。
「彼の影」
自分の影が見知らぬ男性の影と入れ替わってしまう。全く知らない男性だが、毎日どんな暮らしをしているかが互いに分かってしまう。
男女の違いから、互いに気を遣いながら生活し続けていたが、影が元に戻る時期に来る。彼の影を追いかけ、彼本人に会いたいと思ったが会えず、私は寂しさを覚えつつ、自分の影と再会するのだった。
「ペア」
ペアを組む事が流行となった社会でペアを組み、10年が経った私は、ペアならば互いを高め合うべきだと考え、ペアを解消したいと申し出る手紙を書く。
三度目になる解消の申し出を断る手紙を読んで落ち着いた私は、前と同じ文言なのに今までと文字が違う事に気付く。
「橋」
市の財政難に伴い交通量の少ない橋を、粗末な木の橋に掛け変えると説明しに来る業者。
“あなたの幸せが永遠に続く保証はない”という当たり前の事実を考えた事がなかったという私に、警鐘を鳴らす話。
「巣箱」
家の敷地に突如発生する巣箱。見落とすと次の日には沢山の巣箱が出来上がってしまう。
行政の担当者はこの現象を、一見巣箱に見えない巣箱が町の何処かにあるから、町中に巣箱が発生しているのだと言い、ついに巣箱を見つける。
「ニュータウン」
かつてニュータウンと呼ばれた町を、国が保護しその町ごと当時のままの暮らしをさせている。それは恵まれているようで、生きているのに博物館の人形が生き続けているかの様な、息苦しさがあった。
どの話もありそうでない暮らしの話。三崎亜記さんのすごいところは、自分にもいつか降りかかるんじゃないかと思わせる文章力。突拍子もない発想を、そう思わせるすごさがある。