凄いスピードで通過するだけの駅。かつて、ターミナルタウンと呼ばれたこの町は、通過するだけの町になってからは廃れていく一方であった。

ターミナルタウンに活気があった頃、政府の政策によりターミナルをとにかく大きくしようとした西口側と、勢いに任せるのではない長期的な視野を持つべきと反対する東口側は対立し、ターミナルタウンが寂れても尚、徹底した住み分けを続けていた。
自殺者が増え続けた国は、政府の政策の一つであった、影に全ての負の想いを乗せ、影を切り離すという作業を推奨した。しかし、一時的に影に全ての想いを乗せる事で、短期的に影を取り戻し生きる活力を見出すという目論見だった政府に反し、影を切り離した人達はいつまでも影を纏わず生活していた。

影を持たない人は、家族とも分断され戸籍も抹消されるが、生きている限り住む場所も決められる。それを逆手に取り、あこぎな商売をしていた響一は、自らも影を失いないのにあることになっているターミナルの管理を任されていた。

ターミナルタウンの駅には、昔時空の歪みにとらわれたのか、消えてしまった列車の光が、目視できるという噂があった。しかし、動画にも写真にも取れず、そのうち世間の興味も薄れていった。しかし、恋人をその列車に乗せたまま失った牧人は、影を持っているにも関わらず、ターミナルタウンにやってくる。毎日列車の光だけを見守る牧人は、ターミナルタウンは西口と東口に別れている住民にお節介を焼き、もう一度町が機能するように動く。

ターミナルなんてない事、戦争の為に、あることにしていた事、全てを知った牧人は、ターミナルタウンの新たな一歩を踏み出せるように頑張る。

『ターミナルタウン』
著者 三崎亜記
発行元 株式会社文藝春秋
ISBN 978-4-16-390003-2

ターミナルタウンがどうなるのか、完全なハッピーエンドとはいかない。影を失うと気力も失う。
あちらを立てればこちらが立たない、良いことばかりじゃない、現実離れした小説もいいけど、こういう、現実に近い小説もいいと思う。