小松原との縁談により、料理人の道を選んだ澪は、その想いを小松原に伝えた。すると小松原は澪より家柄の良い娘との縁談を進め、澪を断ったという様に取り成してくれた。

今年も料理番付が出るが、つる家はどこにも載らない。それもそのはず、今年のつる家の料理は、澪の周りの人々を思って作ったものばかりで、暖簾をくぐり来てくれているお客さんを思っての料理ではなかったのだから。

そこで澪は、昆布を使って宝船を試作する。
小松原の元に嫁いで来た行列を見た澪はショックから匂いと味が分からなくなる。源斉医師によるとこれは心因性のもので、いつ治るとも保障出来ないという。味が分からず思うように料理が出来ない澪は、もう消えてしまいたいと悲観する。種市が吉原に頼み、それまで三方よしの日にのみ手伝いに来てくれていた又次を、二ヶ月間、借りる事になる。吉原で生まれ育った又次は、つる家の暖かさに触れ少しずつ、愛情の中に居る事を覚え、良いと思うようになる。

澪は他店の料理人から、匂いや味が分からない間にでも学ぶ事があると鼓舞される。又次は二ヶ月間つる家へ貸し出される代わりに、もう三方よしの日に手伝う事は出来なくなってしまった。そこで又次はふきに料理を基礎から教えていた。その姿を見た澪は、又次の懐の深さに頭をたれる。

二ヶ月のつる家での生活を終え、吉原に戻った又次が見たものは、火の粉の上がる吉原だった。
野江がお客さんを守り、未だ火事の中だと知るや否や、又次は野江を、命をかけて助け出す。澪に野江を託した又次は、背中におった火傷の傷が酷く、そのまま絶命してしまう。
つる家は又次を失った悲しみにくれていた。

『夏天の虹 みをつくし料理帖』
著者 高田郁
発行元 角川春樹事務所
ISBN 978-4-7584-3645-8