大学が決まった頃、ちょうど成人式の日程も出たりして久しぶりに同窓会に行ったりしたし、中学の飲み会も行って、私は愚かにもまた交友をはじめた。
無職、浪人時代、何度も見た小中学校の夢は見なくなり、夢には大学の友人ばかり出るようになって私はわりと普通の人間になっていた。
それから彼女とはお互いの20歳の誕生日当日に祝いあったりもした。
最初に会った時、彼女は大学受験に挫折して大学が楽しくないと言っていた。最高学府に行けずに、私学最高峰ならあまり変わらないように私は感じるまでになっていた。
それは、大学という絶対的安心出来る居場所を手に入れて昔の負の感情を私が忘れはじめていた証拠だった。
そして初めて挫折をしたという彼女に、人間らしい安心感も覚えたのだが、今思えば、彼女自身多くの挫折をしている私を見ることで安心していたのかもしれない。
それから度々というほどではないが、飲む機会があった。
彼女はこれから好きな人に会うと言った。彼女はずっと中学の時に好きだった奴を引きずっていて(そいつも同じ大学で、というか同じ大学への進学率が高すぎたせいで交友関係が狭すぎた)まともに恋愛していなかったが(彼女の容姿言動からするとその事実は実に驚くべき事だが)、久しぶりにちゃんと好きな人が出来て一度振られてるけど諦めないと言っていた。
帰りぎわ、私もちら、とその人に会ったが誠実そうな人だった。
しかし結局友人達の就職段階になって私はまた小中学校へのコンプレックスは無理やり呼び起こされる事になる。
この時の事は負の感情では決してなく今の大学が自分に合ってて、今の自分が正しかったと思う出来事だ。
彼女とは関係のない話だけれども、少しその時の事も書こう。
大学三年の夏。だれもが知ってる大手広告代理店に決まった子とだれもが知ってる官庁に決まった子と飲む事になった。
中学のメンバーはことあるごとに私を、私の大学を見下したような事を言った(ように私が思っただけかもしれないが)
その日はブルームーンで月がとても綺麗だったのに誰も月なんか見てなくて私はただただ早く帰りたかった。
すごく嫌な気分になって落ち込んだまま翌日学校に行くと、学校で開口一番友達に聞かれたのが「昨日ブルームーン見た!?」 という言葉だった。
その瞬間、私は長年縛られていた学歴コンプレックスから本当の意味で解き放たれたのだ。
ゼミもみんなブルームーンの話題で持ちきりで、私は逆におかしくなって、ただ月が大きく綺麗に見えるだけじゃんと嘯きながら、本当にこの学校を選んでよかったと思った。
そして昼のまま大学のメンバーの元にいればよかったのだと後悔をしたのだった。
そして小中学校の知り合いの連絡先は全部消した。
でも、彼女のだけは消せなかった。
それ以降は、本当に小中学校の友人には誰とも会わなくなった。
彼女に年賀状を送るまでは。